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2018.01.25 政策研究

都道府県議会の比例代表制論――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その4)――

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 この連載では、総務省に設置された地方議会・議員に関する研究会がまとめた『地方議会・議員に関する研究会の報告書』(2017年7月、以下『報告書』という)の検討をしているところである。前回は、市区町村議会議員の選挙制度の3つの具体案についての議論を検討した。『報告書』を読む限り、現行の超大選挙区の単記非移譲式には、候補者数が多すぎて「実効的な選択」ができないという問題があるにせよ、代替案もそれぞれに問題がありそうだという印象を残すものであった。
 次いで、『報告書』は、都道府県議会の選挙制度に関しても検討を進めている。今回はこれを検討してみよう。

都道府県議会の特性

 都道府県議会の特性は、政令指定都市・特別区などと同様に、著しく政党化・会派制が進行していることである。この場合、政党化とは、国政政党だけではなく、地域政党(首長政党)のこともある。政党化が進むことは、『報告書』のいうように、専門的能力等を発揮しやすい環境の構築に役立つこととは、必ずしもいえないだろう。ともあれ、政党・会派を通じた政策形成が進められていることは、いえるのではないかと思われる。また、『報告書』は、市区町村の多様性に比べて、都道府県の差異は相対的に小さいとしている。この評価は、非常に感覚的ではあるが、ある程度は納得されるかもしれない。
 都道府県議会の選挙制度は、条例に基づいた、市区町村の区域を単位とする選挙区制度である。かつては「郡市の区域による」という郡市選挙区制であった。定数は、原則人口比例である。非常に重要なことは、定数1の小選挙区制から、定数17の大選挙区制まで、バラバラであるということである。市区町村をどのように条例で組み合わせるのでもよいわけであるから、現職議員の多数会派によるゲリマンダリングは容易である。また、市区町村を分割できないのであるから、大規模市を分割するゲリマンダリングはできないが、逆にいえば、人口規模の大きな市の場合には著しく選挙区定数が多くなる。
 実体的にいえば、人口の少ない市町村・郡部は自民党が圧倒的優位であり、小選挙区制が都合がよい。人口の多い県庁所在市など中心都市では、自民党が圧倒的存在ではなく、多党化が進んでいるので、中選挙区制又は大選挙区制が自民党に親和する。中心都市で下手に小選挙区制になると、自民党が当選するとは限らないからである。とはいえ、実際には都市部でも自民党が強いのであって、中心都市で小選挙区制になれば、やはり自民党が有利であろう。ただ、結果的には、中心都市には、公明党・共産党などの勢力も多少はいるので、中選挙区制・大選挙区制の方が、多くの政党にとって都合がよい。こうして、単なる政治的・政局的思惑と、郡市選挙区制という法制度が、意図せざる形で一致していたのである。もっとも、平成の市町村合併で郡がスカスカになったことや、人口の大幅な移動による定数不均衡の進行により、旧来の郡市選挙区制が維持できなくなったために、2013年改正で市区町村単位での組合せとなった。とはいえ、上記のような政治情勢は変わっていないので、自民党一党優位制の下での少数非自民政党の恩恵的共存という党派的区割が維持されている。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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