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2017.09.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その27・完)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 これまで26回にわたって、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討してきた。前回は「第Ⅵ章(1) 住民参加の充実、住民の信頼確保を図るための地方議会のあり方」の「第3節 議会の活動に関する評価」を検討してきた。今回は、残された「第4節 議会及び議員の住民に対する説明責任」について論じて、本『報告書』の検討を終えることとしよう。

議会基本条例

 『報告書』は、議会の自律権を行使して、住民からの信頼確保の仕組みを構築することが可能であるとする。すなわち、すでに制度的整備が済んでいるのであって、あとは各自治体議会の行動次第ということである。その意味で、条例・会議規則や議会活動それ自体でこと足りるというわけである。
 その中で特に注目されているのが、議会基本条例である。議会基本条例では、議会報告会の開催や議会活動に関する情報公開など、住民に対する説明責任を規定することが進んでいると、『報告書』は指摘している。また、議会活動に関する評価・公表の仕組みについても、説明責任を果たす上で意義を有するとしている。
 議会基本条例は、議会改革の中での標準的な手法であり、また、標準的な項目を盛り込むことによく使われている。その意味で、『報告書』で推奨されているような活動を制度化するとすれば、議会基本条例が望ましいということになる。もっとも、それゆえに、議会改革=議会基本条例という等式イメージができると、中身がない議会基本条例を制定するインセンティブを、各自治体議会に与えることになる。その場合には、議会基本条例は、住民に対する説明責任を果たすことにはならないだろう。どのような中身を規定して実践するかが問われるわけである。

政務活動費

 自治体議会で住民からの信頼確保に失敗するのが、政務活動費などのカネを巡る問題である。『報告書』によれば、法制上は、政務活動費の交付の対象・額などを条例で定めることとされ、議長がその使途の透明性の確保に努めるものとされている(地方自治法100条14項・16項)。その上、議会の自律権を生かして説明責任を果たしていくことが求められていると『報告書』では言及する。つまり、『報告書』の全体トーンにあるように、制度整備は済んでいるので、各議会の自律性が重要だということである。
 自治体議会でカネの問題が消えることは、あり得ない。法的規制を厳格にすればカネの問題が消えるかといえば、実態は逆であり、法的規制に対する違反事案が増えるだけである。法的規制を緩和すれば、法的な違反事案は増えないが、倫理的・道義的・政治的・社会的な意味での不適切なカネの問題が生じるだけであり、「法の抜け穴」が問題となる。では、自治体議会がカネを使わなければ問題が消えるはずではあるが、議員も霞を食って生きているわけではないので、カネの切れ目が縁の切れ目となって、議員のなり手が今以上にいなくなる。議員で居続けるためには、結局カネが必要になり、政務活動費などの公金支出がなくなれば、かえって金脈を地下に潜らせて、問題を根深くする。結局のところ、国としては対応の仕様はない。そのような状態を反映し、『報告書』は、議会の自律権の名のもとに、全てを各議会に委ねるのである。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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