7月9日（日）、公共コミュニケーション学会（会長理事：河井孝仁東海大学文学部広報メディア学科教授）において「地方議会における公共コミュニケーション―議会広報を中心に―」と題してパネルディスカッションが行われました。最初にキーノートスピーチとして本田正美研究員（東京工業大学環境・社会理工学院）から「地方議会改革と議会広報」をテーマにした報告がありました。
本田研究員は、議会基本条例の先駆けとして制定された栗山町議会基本条例の「議会は、議会の活動に関する情報公開を徹底するとともに、町民に対する説明責任を十分に果たさなければならない」（4条）を挙げ、議会の広報・広聴活動の重要性を説明し、各地の先進議会で行われている取組みについて紹介しました。
先進議会の具体的事例として、芽村町議会のICT推進計画や飯田市議会のアクセシビリティに配慮したホームページ、「見られる議会から見たくなる議会へ」を掲げた流山市議会の議会改革、議長交際費をWEBで公開している大津市議会などを紹介しました。
公共コミュニケーション学会会場の様子
次のパネルディスカッションでは、河井孝仁教授をモデレータとし、西村祐二氏（トッパンエディトリアルコミュニケーションズ）、松野豊氏（麗澤大学研究員・前流山市議会議員）、鈴木綾子氏（江東区議会議員）、立石理郎氏（政治山（VOTE FOR））をパネリストとして、それぞれの立場から議会広報のあり方について論じました。
西村氏はさいたま市から議会だよりの制作を委託されている立場から、議会広報を読まない人、届きにくい人にどう伝えればよいかを徹底的に考えた結果、「市民に伝えるべき情報と市民が欲する情報を選別し把握」することが重要とし、そのための方法論として誌面づくりでは右脳に訴えかけるような「インスパイアされるデザイン」を意識していると語りました。
松野氏は、マーケティング用語である「STP（S=Segmentation、T=Targeting、P=Positioning）」の考え方を説明し、議会広報においても誰に向けて、どんな層に、どのように届けるのかを綿密に調査しなければならないと強調しました。その上で、「母になるなら、流山市」という全国的に有名となったキャッチコピーもこの発想から生まれていることを紹介しました。
鈴木氏は、有権者や住民の世代やニーズを調査して、議会だよりと自身のホームページ、ブログ、SNSの役割を見極め、それぞれに使い分けを行っていることを紹介しました。
立石氏からは、WEBメディアからの視点で、議会だよりが「広報」と「広聴」機能を連動させ住民と議会の架け橋となることを目指し、WEBによる「ストック型プラットフォーム」に位置付けるという考え方が説明されました。
河井教授からは、議会だよりと自治体広報が同じ冊子に掲載されている例があるが、これは二元代表制の観点からどう考えるか、という問題提起がありました。これに対し、本田研究員からは、一緒になっていることが問題ではなく、議会と執行部それぞれが主体的に作り、立ち位置が明確になっていればよいのではないかという整理がなされました。さらに、スマートフォンなどによるモバイルファーストの時代となった今、議会だよりを公平に行き渡らせるのは本当に紙という媒体だけなのか、ということを考え直さなければいけないと指摘しました。
すべての住民を対象にし、公平さ公正さが求められる議会広報ですが、それらをいかに有用に面白く読んでもらうのかという点で、民間から学ぶマーケティング手法やWEBメディアを駆使した工夫が今後も問われそうです。
また、今回の学会では、会場で行われている議論をその場でイラストに書き起こす「グラフィックレコーディング」という手法が取られました。原田紘子氏（グラフィックレコーダー）による今回のグラフィックレコーディングは、会場の議論を可視化でき、参加者全員がそれを共有し、理解を深めるものとして非常に有用な取組みでした。
グラフィックレコーディングの手法を活用し会場とのコミュニケーションがはかられた
参加者の理解を深めるにあたって有用な取組みと言える
この記事の著者
