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2016.12.12 仕事術

第1回 政務活動費は監査できるのか?

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人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥

必ず置くことになっている「議選監査委員」

 普通地方公共団体には、地方自治法(以下「自治法」という)で監査委員を「必ず」置くことになっている。しかも、その一定数は議員の中から選ばなくてはならない。議員から選ばれる監査委員のことを、議会選出監査委員、略して「議選監査委員」と称する場合が多い。
 表題の「議選監査ノススメ」には、2つの意味がある。1つは、監査委員制度に対して、「議選監査の存在意義は大きいので、制度の存続をオススメしますよ」ということ。2つ目は、議選監査委員に就任した経験のない議員の方々にとっても、監査の方法論や監査結果が「議会活動にも役に立ちます。活用をオススメしますよ」ということである。この2つの論点を中心に、何回かにわたって議論を進めていきたい。
 筆者は、今年3年目の議選監査委員に就任させていただいている。本連載では、筆者の本名や所属する自治体議会名は控えさせていただく。自治法198条の3第2項に定める監査委員の守秘義務規定に抵触してしまう可能性を回避するためである。
 我が市議会では、議選監査委員は通例で議長か副議長の経験者が就任してきた。そのため監査委員を経験できる議員は限られている。他の議会でも、議員として期数を重ねることや、いくつかの役職を歴任することが選任の条件のようである。また、「いわゆる与党系」の議員を中心に選出される傾向も否定できない。私の場合は、「いわゆる与党系」議員ではないが、様々な事情が重なって3度も議選監査委員に就任することができた。

議選監査はいらない?

 最近、この議選監査の評判があまりよろしくない。議選監査制度を廃止すべきという意見も根強い。理由としては、「短期で交代する例が多いことや、当該地方公共団体の内部にある者であり、その監査が形式的になりがちではないか」(第29次地方制度調査会第28回専門小委員会「今後の地方行政体制のあり方に関する答申(案)」)などと指摘されている。
 議選監査制度の廃止の議論は、今回が初めてではない。過去にも何回か起こっている。 
 最近の議論としては、2013年4月19日に発表された、総務省自治行政局「地方公共団体の監査制度に関する研究会報告書」が挙げられる。同研究会では、議選監査の廃止をもくろんでいたようだが、最終的には、「監査委員を議員から選任することを必須とせず、定数の上限を設けたうえで地方公共団体が判断」することに落ち着いた。この報告に基づく法制度の改正はいずれ行われることになるだろう。
 議選監査の議論では、そのデメリットばかりが強調されるが、メリットもある。最大のメリットは、政策的な合理性のみならず政治的な背景にも目配りできる点にあるといえよう。また、議選監査委員は、市長との対抗関係においても、物が言いやすい側面もある。議選監査の設置に関する自治法についての昭和21年衆議院の審議によれば、「監査事務は、(中略)監査が多くの場合行政の批判や非違の剔抉(てっけつ)となるから、議員のやうに羈束されない独立の地位にある者を同時に伴っていなければ、目的に適合する徹底した監査を行ひ得ない処があるからである」とされた。
 上記総務省の研究会の議論は、そういったメリットに触れられることもなく議論が進められてきた印象である。議選監査を経験した議員にも責任がある。誰も、議選監査のメリットについては、積極的に発信してこなかったからだ。本連載では自治法改正に向けて、議選監査経験者としてささやかに訴えたいと思う。同時に、地方自治体における監査の実態や監査制度の限界と可能性についても、紹介していきたい。

富山市議会政務活動費の不正を暴けない監査委員?

 今回は、監査の可能性と限界を知る上で格好の材料として、富山市議会の政務活動費の不正請求事件を取り上げる。
 この事件は、大量の議員辞職と補欠選挙の実施という事態を引き起こした。これほどまでに問題が広がる以前に、監査がしっかり機能していれば、こうした問題の発生が防げたのではないかという声もあるようだ。
 発端は、政務活動費ではなく、議員報酬の引上げである。富山市議会は月額の報酬60万円を70万円に引き上げた。引上げの理由としては、議員の老後の不安にあるという。議員は、兼業職でない場合、国民年金への加入となる。事業者負担分がないため、厚生年金に比べて受給額は低い。それまでは、市議会議員年金制度があったが、市町村合併に伴う市議会議員の大幅な増加に伴い、制度が立ち行かなくなり、年金支給は、終了までに3期12年以上市議会議員を務めた議員に限定された。それ以外の議員は、一時金支給となった。年金があったときは強制加入であり、私の場合でいえば、本人負担が月額約9万円、市負担が約7万円だった。
 年金制度の廃止によって、市負担分の支出がなくなった。この支出分を議員報酬に上乗せせよというのが、富山市議会の議員報酬引上げの論理だ。確かに、議員年金制度の廃止は、市議会議員にとっては、実質的な報酬引下げである。しかし、議員年金制度廃止を理由として報酬を引き上げたのは、私の知るところ富山市議会だけである。なぜ他の市議会が追随しなかったか。制度廃止に伴って、年金や一時金支給の原資確保のために、市議会議員年金共済会に清算金に相当する少なくない額を毎年支出しているからだ。我が市の場合、平成23〜27年の5年にわたって約7億1,400万円を共済給付費負担金として支払った。
 その後、報酬引上げについて取材していた女性記者のメモをある富山市議会議員が取り上げて、取材妨害をするという事件が起こった。この事件を契機として、不信がさらに膨らみ、政務活動費の詳細な内容を調査するに至ったものと思われる。

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この記事の著者

木田弥(人口30万人を超える自治体議会議員)

人口30万人を超える自治体議会の議員として活動中。

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