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2016.11.25 政策研究

単身化する大都市圏における自治体の施策への期待 〜新宿区の単身者調査の報告を基に〜

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放送大学副学長 宮本みち子

進む単身化

 日本の総人口は2008年の約1億2,800万人から減少を始めているが、人口減少が進む都道府県が増加する中で、東京圏は毎年10万人程度の転入超過がある。しかし、未婚率の高さが大きな要因となり、出生率は著しく低い。東京圏の中でも新宿区はこうした特徴が強く見られる自治体のひとつで、単身者、未婚者が多く、壮年前期(35〜49歳)が37.4%、壮年後期(50〜64歳)が31.0%、高齢期(65歳以上)が35.2%を占めている。また2010年の男女年齢別未婚率は、25〜29歳以降の年齢で男女とも全国値よりも20ポイント程度高く、生涯未婚率は男性33.3%、女性27.3%である。全世帯の63%が単身世帯である。
 日本の世帯の趨勢(すうせい)を見ると、単身世帯、中でも高齢単身世帯の増加が著しく、2030年には全世帯のうち3世帯に1世帯が単身世帯、7世帯に1世帯が高齢単身世帯になるが、新宿区はすでにその先の先を行っているということになる。
 新宿区の特徴と思われるのは壮年期の単身世帯の増加が顕著だという点である。これまで壮年期の人々は、家族を形成し、就労もしているため、行政からの支援を必要としていないと考えられてきた。しかし、新宿区ではすでに単身世帯がマジョリティであり、何らかの生活上の不安を抱えている場合も多く、加えて壮年単身者の多くが新宿区に居住したまま高齢期を迎え、高齢単身者になることが予想される。
 このような状況を踏まえ、新宿区新宿自治創造研究所は、2013〜15年度の3年間にわたって新宿区の人口動態と単身世帯の実態調査を行った。筆者はアドバイザーとして研究プロジェクトに参加した。

図1 新宿区の単身世帯の推移図1 新宿区の単身世帯の推移

新宿区単身世帯調査の結果

(1)壮年単身者を対象とする画期的な調査
 3年間にわたる新宿区の単身世帯調査は、単身高齢者に限定せず、壮年期(30代後半〜60代前半)の単身者の実態に着目した点に特徴がある。壮年前期(30代後半〜40代後半)の単身は晩婚化・非婚化が原因であり、壮年後期(50代前半〜60代前半)は6割弱が未婚、3割弱が離婚、高齢期(65歳以上)においては、男性は非婚、女性は死別が最も多いという実態である。単身者の数は男性の方が上回っている。
 行政が高齢者だけでなく壮年期を含めた一人暮らしの人々を対象に調査をした例はまれであろう。壮年の単身者(未婚や離婚)を例外として扱ったり問題視するのではなく、単身者のニーズに応える環境整備を進めるというスタンスで一連の調査を実施した。壮年期の単身者は日中の不在者が多く、しかもオートロックのマンションも多い中で全体として35.6%(896人)の回答を回収できたことをよしとするべきであろう。

(2)単身者からの確かな手応え
 3年間の研究プロジェクトに寄せる思いを込めて、調査協力者を募るためのお願い文を次のように書いた。
 「新宿区では単身世帯が一般世帯の6割以上を占めており、今後も壮年期や高齢期を中心に増加していくことが見込まれます。こうした新宿区で一人暮らしをする方の生活や意識の実態を把握するため、アンケート調査を実施いたします。調査結果を基に、新宿区の単身世帯の実態に関する分析を行い、これからの行政サービスや新たな施策を考えるための基礎資料として活かしてまいります。また、あわせてヒアリング調査(聞き取り調査)も行います。アンケート調査からでは知ることが難しい一人暮らしの方の具体的な日常生活、困りごと、人とのつながり、行政への要望などについて、生の声をお聞かせいただきたいと考えております。ぜひ、ご協力くださいますようお願い申し上げます。」
 アンケート調査の自由意見欄には、壮年期の163人、高齢期の98人が、「一人暮らしをして困っていることや将来不安に感じること、必要だと思うサービスなど」を記入してくれたことは注目すべきことである。そこに単身者の実情がよく表れていた。
 ヒアリング調査では、予想を上回る35〜90歳まで106人の方が協力を申し出てくれた。これらの方々から、「行政が単身者に関心を示してくれたことがうれしかった」、「行政は何をしてくれるのかに興味があった」、「新宿の単身者の実態を知りたかった」という声が聞けたことは大きな収穫であった。これまで地方行政は高齢者以外については暗黙のうちに家族世帯を想定しており、壮年期単身者に関する問題意識は薄かったのではないかと思われる。大都市の場合、壮年期の人々が非婚又は離婚の結果単身化していることを正面から見据えるべきであり、新宿区がこの問題に着手した意味は大きい。

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この記事の著者

宮本みち子(放送大学副学長)

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