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2016.10.11 政策研究

マニフェストスイッチで変わる、政策のあり方・伝え方

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早稲田大学マニフェスト研究所事務局次長 青木佑一

 「マニフェスト」は、死んでいない。
 2016年参院選からの18歳選挙権の実現、スマートフォンの普及やICT技術の進歩、そして地方新聞紙の「選挙報道革新」の広がりにより、むしろマニフェストは「進化している」と感じている。そして、有権者の立場に立った政策の発信・活用へ進むにつれ、有権者の責任も問うものになってきたとも感じる。本稿では、2015年の統一地方選挙からスタートした、弊所が事務局を務める政策のオープンデータ推進「マニフェストスイッチプロジェクト」の最新事例の紹介から、「政策をめぐる環境変化」をお伝えしたいと思う。

マニフェストスイッチの取組をNHK福岡が取材

 2016年の参院選を前にした6月、NHK福岡から取材を受けた(「なるほど実感報道ドドド!」6月17日放送)。「18歳選挙権」を前に若者の声を聞くと、「政党や候補者の違いが分かりにくくて選べない」、「候補者の情報は、Google検索をすればたくさんあるが、分かりづらい、比較がしづらい」という声があったという。そこで、NHK福岡は「マニフェストスイッチプロジェクト」に関心を持ったという。
 マニフェストスイッチとは、選挙の立候補者にマニフェストの共通フォーマットを提案し、収集・公開・利活用を推進するプロジェクトだ。政策の共通フォーマットとして5項目、「政治家を志した理由」、「地域のありたい姿」、「地域の課題」、「課題を解決する具体的な政策3つ」、そして「政策注力度」を聞き、それらをIT技術などを駆使しウェブサイト上で公開。選挙を「何となく選ぶ」ものから「比べて投票する」ものに変えることを目指して2015年の統一地方選から開始した。
 番組では、神奈川新聞と連携して政策を収集した、2015年の海老名市議選・市長選の取組である、スマートフォンで見ることができ、地図上で市議選の候補者を比べることができる「政策マッピング」を取材いただいた。
 番組では、18歳選挙権の実現、若者を中心に所持が増えているスマートフォンの活用といったマニフェストスイッチのVTRを受け、NPO法人YouthCreate代表の原田謙介さんから「受け手の立場に立った情報を政党や候補者にやってほしいなと思っています。あのアンケート(マニフェストスイッチ)が面白いのは、候補者が言いたい話を言うんじゃなくて、ぼくらとして聞きたいことを『このフォーマットに全員入れてください』というところ。また、『なぜ立候補したんですか』という、政策だけでなく人柄にも着目していることで、情報を見る側としては見比べやすくなっていると思います」とコメントがあり、アナウンサーは「選挙を取り巻く環境が少しずつ変わってきています」と結んでいる。

18歳選挙権がもたらすもの

 「18歳選挙権」が選挙の現場にもたらす本当の影響は、「候補者・政策を比べて選ぶ有権者が続々誕生する」ということにある。
 番組で取り上げられたとおり、若者は「政治や選挙についてよく考えたいが情報がない、比較がしづらい」と考えており、それを政治や投票に縁遠い理由と答える若者も一定数いる。2015年9月に文部科学省と総務省が共同で作成した主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」では、これまでの政治制度や歴史などの知識教育に加えて、能動的な学修として対話・討論の方法の紹介や「模擬選挙」、「模擬請願」などを推奨しており、今回の参院選では約240万人の新有権者が誕生したが、これらを経て、多くの学校現場で政治や選挙を「知る」だけでなく、自分の頭で「考え、選ぶ」ための授業が行われることだろう。
 学校現場が抱える政治的中立性・公平性に対する不安は、色濃い。統一フォーマットを候補者自身が記載し、マニフェストスイッチのような第三者機関が収集する「中立・公平」な選挙情報を広めていくことで、実際の選挙を題材にした模擬選挙をする際に教員・学校側の心配事を少なくでき、より多く「生きた政治」に触れる機会を増やすことができると考えている。マニフェストスイッチでは、2015年の埼玉県知事選、大阪府知事選・市長選の大阪ダブル選挙、2016年の熊本県知事選、そして参院選でそれぞれ主権者教育(模擬選挙)の支援を行い、約1万人の未来の有権者が実際の選挙を題材にした模擬選挙を体験した(図1)。弊所では模擬選挙をテーマとした書籍を発刊し、主権者教育の実現を目指す「シティズンシップ推進部会」を発足した。教育現場、生徒たち、そして行政や議会、民間と連携し、未来の有権者の目線に立った「政策を比べて選ぶ選挙」の実現を目指す。

図1 実際の選挙を題材にした模擬選挙を通して、生徒は「生きた政治」に触れることができる。図1 実際の選挙を題材にした模擬選挙を通して、生徒は「生きた政治」に触れることができる。

スマートフォンが政策と有権者を近づける

 2016年6月の沖縄県議選では、沖縄タイムスと協力して、全13選挙区 71候補の情報を収集し、公開した。共通フォーマットに加えて、さらに沖縄タイムス独自のテーマとして「基地への考え方」、「経済振興どうする?」、「貧困問題どう解決?」、「子育て支援策は?」、「雇用を増やすには?」も聞いている。
 これらを、政策を比較するウェブサイトとして掲載するだけでなく、候補者の事務所で顔写真をピン立てし、地図上で候補者の政策を比べる「沖縄県政策マッピング」を公開している(図2)。「地図で政策を比べる」という新しい政策や選挙の見せ方であり、翁長県政に対する支持・不支持・中立の態度は顔写真の縁取りの色合いを変えて情報提供するなどの目新しさもあり、特に政策マッピングは、TwitterやFacebookで多くのソーシャル・アクションを引き出した。ウェブサイト政策マッピングは、告示前から投票日後の約2週間で約25万ページビューを記録し、PCとスマートフォンの閲覧比率はほぼ半数だった。また、閲覧者の年代割合も18~34歳で約半数、18~44歳でいえば約8割となった。こうした傾向は、ウェブサイト大手のニュースサイトなどでも見られているという。

図2 政策や県政への姿勢がビジュアルに一目で確認できる沖縄県政策マッピング図2 政策や県政への姿勢がビジュアルに一目で確認できる沖縄県政策マッピング

 これまで遠かった有権者と選挙や政策情報の距離を、スマートフォンが近づけている。若者たちもこれまでより容易に政治の情報に触れられるようになっている。あと5年、10年もすれば、あっという間に政治や選挙の情報が若者にとって「身近なもの」になる時代が来る。今、マニフェストスイッチにIT技術者の関わりが増えていることや、人工知能「AI」の興隆も考えれば、時代の変わり目に差しかかっているといえる。

地方紙が選挙報道を変える

 マニフェストスイッチが約1年間に、いくつかの選挙で一定の有権者の認知を得られたのは、「選挙報道を変えたい」という地方新聞紙の記者たちの思いと行動力が根底にある。ある記者は「これまで、新聞の紙幅の制限や中立・公平性の観点から、新聞紙では有権者に投票に資する十分な情報を提供できていなかった。特に地方紙は、ウェブを活用すればできることはもっとある」とし、特に議会議員選挙における情報提供の不足を悔いていた。彼らの思いと、マニフェストスイッチが目指している「政策型選挙」のベクトルは同じなので、違和感なく手を組むことができた。
 これまで実施順で、神奈川新聞社(海老名市長選・市議選、参院選)、熊本日日新聞社(熊本知事選)、沖縄タイムス社(参院選)、北陸中日新聞社(参院選)などの地方紙と連携してプロジェクトを推進してきた。

図3 「選挙報道を変えたい」という地方紙の記者たちの思いと行動力がマニフェストスイッチの根底にはある。図3 「選挙報道を変えたい」という地方紙の記者たちの思いと行動力がマニフェストスイッチの根底にはある。

 そもそも「候補者へ共通フォーマットでアンケート」という手法は、選挙のたびに新聞社や青年会議所が実施しているもので、追加的な手間暇をほとんどかけることなく、新聞、テレビ、その他メディアでもできる。もっと多くの地域で選挙を「政策を比べて選ぶ」ものとすべく、共通フォーマット自体の提供は無償で行っている。ぜひ思いを同じくするメディアとは積極的に協力していきたいと思う。

政策のあり方・伝え方が変わる時代に、地方議員は

 マニフェストは進化している。こうした取組の根底には、問題意識として「地方選の候補者の人物や政見が分からなくて誰に投票したらよいか決めるのに困る」と回答した有権者が、53.4%もいることだ(第18回(2015年) 統一地方選挙全国意識調査〔総務省・明るい選挙推進協会〕)。
 これまでの選挙情報の提供のあり方、例えば選挙公報のあり方や選挙管理委員会の変わり方も含めて、再検討する時期に来ている。特に18歳選挙権の実現もあり「有権者や新有権者の立場に立った情報発信・活用」へと、舵(かじ)を切るべきときだろう。そして、受け手起点の情報提供がインフラとして整えられた先には、選挙の投票は「有権者の責任も問うもの」になっていくだろう。
 18歳選挙権は「政策を比べる練習をした有権者」が増えることと同義である。スマートフォンで政策を比べる時代、数年であっという間に「政策は身近なもの」へ移り変わる。今まん延している政治不信に対し、政治の信頼を高めるには、彼らを育て、地域のために活動し情報提供する地方議員の姿が求められているともいえる。一足先に、地方紙も本格的に「選挙報道」を政策型へと舵を切った。ウェブの活用で「政策を比べて選ぶ」ための情報提供がより広がるはずだ。今後はさらなる地方紙との連携、そして青年会議所・市民その他主体との連携を進めていき、2017年東京都議選での実施や衆院選、神奈川県内首長選での実施も検討している。
 国の動きとしても、2016年4月の参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会で「公職選挙法の一部を改正する法律案に関する附帯決議」を全会一致で可決している。地方議員の「マニフェスト解禁」が見込まれる中、地方議員・議会も今よりも「有権者や新有権者の立場に立った情報発信・活用」へと活動変容し、政策で勝負する議会へと、舵を切るときが来ている。

 これまでのマニフェストスイッチプロジェクト

 ◇沖縄県議選(2016年6月)
 【沖縄タイムスと連携】
 ・マニフェストスイッチ沖縄
  http://manifestoswitchokinawa.strikingly.com/
 ・沖縄県政策マッピング
  http://manifesto.mapping.jp/okinawa/
 ◇参院選(2016年7月)
 【神奈川新聞と連携】
 ・マニフェストスイッチ参院選神奈川
  http://manifestoswitchsangikanagawa.strikingly.com/
 ・神奈川県政策マッピング
  http://manifesto.mapping.jp/kanagawa/
 【北陸中日新聞と連携】
 ・マニフェストスイッチ参院選石川
  http://manifestoswitchsangiishikawa.strikingly.com/
 ・石川県政策マッピング
  http://manifesto.mapping.jp/ishikawa/
 【沖縄タイムスと連携】
 ・マニフェストスイッチ参院選沖縄
  http://manifestoswitchokinawa.strikingly.com/6

青木佑一

この記事の著者

青木佑一

早稲田大学マニフェスト研究所事務局次長 1985年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒、同大大学院公共経営研究科修了。選挙サイト、世論調査会社勤務を経て、株式会社パイプドビッツ「政治山」で行政・議会・議員を対象に記者職、選挙情勢調査・分析に従事。現在、早稲田大学マニフェスト研究所で議会改革、選挙事務改革、人材マネジメント部会、政策のオープンデータ化「マニフェストスイッチプロジェクト」を担当。 Facebook:yuichi0613

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