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2015.09.25 仕事術

第7回 視察のための質問ポイント(3)~移転可能性を見据えて視察を進める~

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一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔

視察時に確認したい10の質問

 今回から、視察時に視察先に確認するとよいと思われる10の質問項目を紹介していく。筆者が、しばしば視察先で尋ねている質問項目である(そのまま質問事項として採用していただいても構わない)。小見出しに【問】とあるのが、そのまま活用できる質問項目である(なお、視察の趣旨や目的等は、依頼文に書き込んでおくようにしてほしい)。
 本連載において何度か指摘しているが、質問項目は事前に視察先に提出しておくことが望ましい。しかも箇条書きで、端的に書き込む方がよいだろう。ここでいう「端的」とは、主語と述語を明確にして、1文が100字以内にすることが目安である。1文が長くなれば長くなるほど趣旨が曖昧になり、伝えたいことが理解されなくなる傾向がある。

【問1】その政策の目指す方向性と取り組んだ背景は何ですか?  この問いにおける見出しの「その政策」には、読者が視察の対象とする政策(施策や事業を含む)を当てはめてほしい。視察は具体的に動いている政策を対象とすることが多いが、それだけを視察で把握するのではなく、政策により何を目指すのか(目指しているのか)、またその政策の背景(政策を実施するに至った経緯)をしっかりと確認する必要がある。つまり「What」と「Why」と「How」になる。その関係を示すと図のとおりである。

図 政策づくりのスキーム図 政策づくりのスキーム

 これは、政策づくりの基本的な概念図(スキーム)である。一般的に、政策づくりは最初に「何を目指すのか」という「①What」がなくては始まらない。政策づくりは「What」を明確に設定することが大事である。例えば「定住人口を300人増やす」とか、「子育て世帯の半数に対して医療費補助を実施する」などである。
 次いで、何を目指すのか(What)の背景に当たる「なぜ、それを実施するのか」という「②Why」も明確にしなくてはいけない。例えば、定住人口を300人増やす場合は、「毎年300人の自然減であるから」とか、子育て世帯の半数への医療費補助の場合は、「子育て世帯の半数に病気がちの子どもが見られるから」という理由になる(この背景は定性的ではなく定量的に把握することが肝要である)。
 政策による「What」と「Why」が明らかになれば、あとは「どのように実施するか」という「③How」となる。ここで具体的な施策や事業として現れる。多くの視察は、この「How」を対象に実施されることが多い。しかし「How」だけを視察しても不完全である。具体的な施策や事業(How)の上位にある目指す方向性(What)と、そもそも施策や事業を実施することになった背景(Why)もしっかりと把握しなくては意味がない。そうしないと、視察した政策の移転可能性が弱くなってしまう。この「What」と「Why」と「How」という3点を視察において明確に確認し、自分たちの自治体の政策展開に生かしていくことが求められる(上記図は政策づくりの初歩的なスキームである)。

【問2】その政策のアウトプットとアウトカムは何ですか?  一般的に政策は「アウトプット」(output)と「アウトカム」(outcome)の観点から評価していく。しばしばアウトプットは「結果」といわれ、アウトカムは「成果」と指摘される。
 具体的に言及すると、アウトプットとは、政策の実施によって行われる「自治体の直接的な対応の指標(取組)」を指す。アウトカムとは、自治体の直接的な対応によって「もたらされた地域住民への指標(影響)」を意味する(つまり「アウトプットの結果がアウトカムという成果になる」と考えてもよいだろう)。
 例えば、税収の減少に悩んでいる自治体があるとする。この問題に対応するため「徴税訪問件数を20件増やした」という結果があった。この「20件増加」は自治体の直接的な対応であるため「アウトプット」となる。そして20件徴税訪問に回った結果により、もたらされる成果として「税収が500万円増加した」が「アウトカム」になる。
 あるいは、待機児童を解消するために「保育所を5施設増設した」という結果は「アウトプット」になる。その成果として「待機児童数が200人減少した」は「アウトカム」になる。視察では政策のアウトプット(結果)とアウトカム(成果)をしっかり確認しておく必要があるだろう。
 余談であるが、アウトプットとアウトカムは行政評価において活用される指標である。行政評価の意義について、誤解を覚悟で指摘すると、アウトプットやアウトカムという設定する指標は「モノサシとして活用することが大事」と考えている。行政評価を実施するときに、当初掲げた指標(目標)どおりに達成できないことがある。この場合は、達成できなかったという事実をマイナス視するのではなく、「なぜできなかったのか」と検証することが大事である。当初設定した指標が達成できなかった理由を明確にし、次に生かしていくことに意義があるのだ。そうすることで、行政活動の継続的なブラッシュアップが可能となる。この一連の流れは、行政活動を改善する仕組み(PDCAサイクル)の確立につながっていく。
 筆者がよく活用する残りの8問は、次回以降で言及していきたい。以下では、視察全般にいえることを述べておく。

移転可能性を考える

 視察に行った後の報告が「とても参考になりました」や「有意義な視察でした」では、単なる感想であり視察をした意味がない。視察先で得られた知見を自分たちの自治体に移転してこそ意義がある。その意味で視察に当たっては、「移転可能性」を常に考えておく必要がある。「常に」というのは、視察先の選定から報告まで常に考えておくのである。つまり視察先の決定に際しては、移転可能性を前提として選定することが望ましい。
 視察で得た知見を自分たちの自治体にすぐに移転するためには、「同規模の自治体に視察に行く」といいだろう。町村が政令市や都道府県に視察に行くことは全く意味がないとはいわないが、そこで得た知見を移転することは難しい現状がある。町村と政令市を比較したとき、そもそも人・物・金といった行政資源の量が異なる。そして権限も違ってくる。そのため、得られた知見を移転しようとしても「人材が足りない」、「道路整備の権限がない」などの障害があることが少なくない。もし視察の成果をすぐに活用したい場合は、できるだけ同規模自治体や類似団体に行った方が移転可能性は高まる。
 また、移転可能性を念頭に置いて質問項目を考えることが大事である。移転可能性を考えずに質問項目を設計すると、何ら視察の成果は得られない。視察の成果がなければ、議員は執行部に対して政策提案ができないし、鋭い質問も不可能となる。そのため、視察先を探す段階から、実際に視察に行き、視察報告書を書いて終了するまで、一貫して移転可能性を頭に入れつつ進めていく必要があるだろう。

視察は結果だけではなく過程にも重きを置く

 先に、視察は同規模や類似の自治体に行った方がいいと記した。その方が簡単に移転可能性の要素を見つけることができるからである。しかし、それは規模の異なる自治体への視察を否定しているわけではない。また、民間企業への視察を無意味といっているわけでもない。
 規模の異なる自治体への視察や民間企業への視察により得られた知見を活用するひとつのポイントは、「過程を確認する」ことである。
 一般論として、数ある成功事例の中から視察先を選定し、行くことになる(なお、本連載ですでに言及しているが、成功事例と先進事例は異なるため注意が必要である)。そして視察に行くと事例の「結果」だけに注目してしまう傾向が強い。しかし、実は「結果」の移転は難しい。
 例えば、葉っぱビジネスで有名な「上勝町」や、IT産業の集積で知名度を高めている「神山町」など視察先として人気のある事例は多々ある。年間、これらの成功事例に多くの視察者が訪れる。しかし、第二の上勝町や神山町が誕生したということは聞かない。つまり既存の成功事例という「結果」は、自分たちの自治体になかなか移転できないことを意味している。視察のポイントは、成功事例の結果も把握しつつ、成功までに導いた「過程」をしっかりと把握することである。
 筆者が特に実感しているのは、視察で学んだ成功事例はなかなか移転できない現実があるということである。しかし、成功事例にたどり着くまでの「過程」は比較的移転しやすい。上勝町を視察して、葉っぱビジネスの歴史を学び、その「過程」を移転することが大事である。その結果、上勝町と全く同じ葉っぱビジネスという政策は実現されないかもしれないが、葉っぱビジネスのような新しいビジネスが誕生する可能性がある。
 視察は「結果」に重きを置くのではなく、「過程」の一つひとつを確認することにより、移転可能性に向けた様々な知見を得ることができる。この過程に重きを置いた視察であるならば、同規模の自治体や類似団体でなくても、また民間企業に行っても、多くの知見を得て、政策展開に活用することができるだろう。
 繰り返すが、政策は過程こそが再現性がある(移転可能性が高い)ということを知ってほしい。だからこそ、過程を把握するために視察に行くのである。しかし、既存の多くの視察は結果を知ることに重きが置かれている。議会質問をのぞくと、「上勝町を目指したらどうか」や「神山町のような取組を実施すべき」という結果だけに注目した質問(執行部への提案)が多い。政策の結果は簡単に移転できないため、注意してほしい。

●視察項目の検討のポイント
(1)実施している政策だけではなく、目指す方向性とその背景も聞く。
(2)政策によるアウトプットとアウトカムも聞く。
(3)視察は「移転可能性」を終始念頭に置きながら進めていく。

●筆者が勧める視察先
 ここ数年の議員提案政策条例の成功事例は下記のとおりである(あくまでも現時点における成功事例である)。
 ・和歌山市議会
   近年、「和歌山市みんなでとりくむ災害対策基本条例」や「和歌山市みんなでとりくむ生き活き健康づくり条例」などの議員提案政策条例を実現させている。
 ・鎌倉市議会
   議員有志による政策法務研究会が推進してきた議員提案による「鎌倉市自転車の安全利用を促進する条例」を実現させ、それ以降、活発に議員提案政策条例に取り組んでいる。
 ・松江市議会
   各会派から選出した議員11名で構成する「政策条例研究会」で調査・研究を重ね、「松江市自転車安全利用条例」を実現させた。

 議員提案政策条例の傾向を確認する。朝日新聞社のアンケート(2011年)によると、2007年から4年間で、議員提案の政策条例が1つもない「無提案」議会が91%であり、1本以下に限定しても98%に達している状況が明らかになった。
 一方で毎日新聞社のアンケート(2015年)によると、2011年から4年間で、議員提案の政策条例(改正含む)を可決した議会は、全体の17%(274議会)となっている。アンケート調査機関が異なり、また母数も違うため一概に比較はできないが、議員提案政策条例が9%(2007~2011年)から、17%(2011~2015年)に拡大している様子が理解できる。着実に議員提案政策条例の機運が高まっていることがうかがえる。
 これからの4年間で議員提案政策条例の「熱」はますます高まっていくと推測される。読者の議会も、積極的に政策条例を提案したらどうだろうか。

●推薦する図書
 筆者が執筆した図書で恐縮であるが、推薦しておきたい。
 ・牧瀬稔『議員が提案する政策条例のポイント』東京法令出版(2008年)
 同書の目的は、議員提案政策条例の現状と経緯について実例を踏まえながら解説するとともに、議員が政策条例を提案していくためのポイントを示している。その目的を達成するために、本書は様々な視点から、議員提案政策条例を実現していくためのポイントを提示している。同書を執筆した2008年当時は議員提案政策条例の事例を探すのに苦労した。しかし、昨今では、かなりの議会で議員提案政策条例に取り組みつつあり、少しずつであるが「当たり前」になりつつある。

牧瀬稔(関東学院大学准教授)

この記事の著者

牧瀬稔(関東学院大学准教授)

一般財団法人地域開発研究所上席主任研究員、法政大学大学院公共政策研究科兼任講師。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室等を経て、2005年より財団法人地域開発研究所所属。戸田市政策研究所(戸田市政策秘書室)政策形成アドバイザー、かすかべ未来研究所(春日部市政策課)同、新宿自治創造研究所(新宿区総合政策部)同、鎌倉市政策創造専門委員(鎌倉市政策創造担当)、横須賀市土地利用調整審議会(委員長職務代理)、三芳町芸術文化懇談会委員(委員長職務代理)等、多数歴任。シティプロモーション自治体等連絡協議会調査研究部会長。著書に『条例探訪─地域主権の現場を歩く』時事通信社(2012年)、『地域魅力を高める「地域ブランド」戦略』東京法令出版(編著、2008年)、『地域力を高めるこれからの協働』第一法規(共著、2006年)など。
ホームページ http://homepage3.nifty.com/makise_minoru/

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