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2015.04.27 仕事術

第2回 良い視察先と悪い視察先~正しい視察先を選定するための視点(1)~

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一般財団法人地域開発研究所 牧瀬稔

 視察の実施に向けて準備するものや依頼文の書き方、最低限押さえておく質問事項といった具体的な技術に入る前に、今回と次回は、視察先選定のポイントに言及したい。良い視察先に行かなくては、政策づくりの良いヒントは得られない。しかし視察先を決める時点において、間違った(悪い)事例を選定してしまうことが意外に多い。

先進事例は必ずしも成功事例ではない

 筆者が、視察をしようとする自治体職員や議員に、視察先を選定した理由を尋ねると「先進事例だから」という回答が多い。ここで注意してほしいのは、先進事例は必ずしも成功事例ではないという事実である。先進事例とは、あくまでも「他に先駆けて実施した事例」である。言い方に語弊があるかもしれないが、「たまたま先に実施しただけの事例」である場合も多い。何も考えずに単に先駆けて実施した場合は、先進事例であっても失敗事例であるかもしれない。先進事例が本当に参考とすべき事例なのか客観的に検討する必要がある。その意味では視察は、実際に視察する以前から始まっているといっても過言ではない。
 「シティプロモーション」を事例に考えてみる。交流人口(特に観光誘客)の増加や定住人口の獲得を推進する可能性があるとして、近年ではシティプロモーションが注目を集めている。その中でH市は、シティプロモーションの先進事例と称されている。H市は早い時期に実施したため、マスメディアでも注目されている。しかし、H市の取組を冷静に捉える必要がある。確かにH市は、シティプロモーションの先行者利益を得てマスメディアに登場する回数が増えた。その結果、H市の認知度は上昇している。一方で、交流人口と定住人口は減少している。さらに財政も悪化している。このような状況でシティプロモーションの視察先として選択してもよいのだろうか。
 H市の様々な指標は悪化している。しかしシティプロモーションの先進事例と称されるため、視察が相次いでいる。当然、議員視察も多い。H市を視察したT議員は、議会で「H市を参考にしてシティプロモーションを実施し、人口を増やしたらどうか」と執行部に提案している。もしH市を参考にシティプロモーションを実施したら、様々な指標が悪化する可能性がある。これは愚の骨頂である。つまり、先進事例が成功事例とは限らないのである。読者が視察先を決定しようとするならば、その視察先が本当に成功事例であるか、しっかりと政策研究をしなくてはいけない
 繰り返すが、確かにH市はシティプロモーションの先進事例である。しかし、活用できるのは認知度の向上に関する部分だけである(それも先進事例だから取り上げられたという要素が強い。H市が認知度の向上を意識して戦略的に取り組み、マスメディアへの登場回数が増加したとは思えない)。交流人口や定住人口に関しては、むしろ失敗事例と捉え、反面教師にした方がよいだろう。

定住人口を増やしたければ定住人口が増えている自治体に視察に行く

 先に紹介したT議員の議会質問を、公開されている議会の会議録を参考にして、前後の文脈から把握し推察すると、「H市はシティプロモーションの先進事例だから、定住人口も増加させているだろう」と勘違いしている様子がうかがえる。T議員は、先進事例がイコール成功事例と短絡的に考えた点に視察先選定の間違いがある。当たり前であるが、シティプロモーションを実施すれば、確実に定住人口が増加するわけではない。シティプロモーションを推進しても、定住人口が減少している自治体は多い。
 もしT議員が「定住人口を増加させたい」と考えるならば、シティプロモーションに取り組んでいる自治体に視察に行くのではない。それは「定住人口を増やしたければ『定住人口が増えている自治体』に視察に行く」という当たり前のことをするだけである。そのためには政策研究をしっかりと実施しなくてはいけない。
 しかしT議員の視察の実態は「シティプロモーションに取り組んでいるし、何となくあの自治体は先進的だから、きっと定住人口を増やしているだろう」という理由で視察先を選んだと推察される。この安易な思考は注意しなくてはいけないだろう。

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牧瀬稔(関東学院大学准教授)

この記事の著者

牧瀬稔(関東学院大学准教授)

一般財団法人地域開発研究所上席主任研究員、法政大学大学院公共政策研究科兼任講師。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室等を経て、2005年より財団法人地域開発研究所所属。戸田市政策研究所(戸田市政策秘書室)政策形成アドバイザー、かすかべ未来研究所(春日部市政策課)同、新宿自治創造研究所(新宿区総合政策部)同、鎌倉市政策創造専門委員(鎌倉市政策創造担当)、横須賀市土地利用調整審議会(委員長職務代理)、三芳町芸術文化懇談会委員(委員長職務代理)等、多数歴任。シティプロモーション自治体等連絡協議会調査研究部会長。著書に『条例探訪─地域主権の現場を歩く』時事通信社(2012年)、『地域魅力を高める「地域ブランド」戦略』東京法令出版(編著、2008年)、『地域力を高めるこれからの協働』第一法規(共著、2006年)など。
ホームページ http://homepage3.nifty.com/makise_minoru/

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