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2015.08.10 仕事術

基礎から取り組む一般質問 〜「質」を支える3つのポイント〜

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龍谷大学政策学部教授 土山希美枝

1 はじめに

 本年の統一地方選挙で当選した1期目議員諸氏の中には、6月に代表質問や一般質問を初めて経験した議員も多いだろう。首尾はどうだったろうか。初めてのことで要領を得なかったり、立ち位置や議論の姿勢について困惑した例もあったのではないだろうか。
 一般質問は議員にとって、議会の一員としての顔とひとりの政治家としての顔を両方重ねて立つ機会であり(1)、市(町村都道府県)政を監査したり政策提案したりしうる機会だが、十分に活用されているとは言い難い。残念な質問やもったいない質問も多いのが実情ではないか(2)
 一般質問は、一般事務つまりあらゆる行政活動について質問することができる(標準市議会会議規則62条)機会だが、「できる」規定であることからも分かるように、議員の義務ではない。それでも、一般質問が重要視されるのは、議員活動によって得た知見を集約し、まちのあり方に反映させうる機会だからである。一般質問によって行政に対し監査機能、政策提案機能を果たすことで、まちは変わる。だが、その機能が強化されていくには、一般質問の「質」の向上が不可欠である。
 そこで、本稿では、新しく議席を得た議員や一般質問の機能などを改めて確認したい議員を念頭に、「よい一般質問をする」ために、一般質問の「質」を支える基本的なポイントを確認してみたい(3)

2 一般質問の「質」向上のために

 「よい一般質問」とは何だろう。要求が通る質問だろうか。執行部をコテンパンに論破することだろうか。それもそうかもしれないが、議員活動での気づきによって行政に対し監査機能・政策提案機能を果たすという一般質問の特性から考えれば、まずそれをよく果たすものが「よい一般質問」だといえる。ではそれはどのように可能になるのだろうか。
 ここではそれをゴールから考えてみよう。ゴールつまり一般質問が目指すところは「その質問によって(監査機能や政策提案機能が果たされ)まちがよくなる」こと。そのためには、監査的指摘や政策提案を(積極的にであれ消極的にであれ)行政側が受け入れることが必要になる。質問の対象である「一般事務」を行うのは行政だからである。そのため、どの事務がなぜ問題なのかを伝え、その問題提起に「納得」を得ることが目指される。
 この整理から、本稿では、ひとつ目、争点を具体化すること、2つ目、一般質問をデータで強化すること、3つ目、質問の実施をめぐって留意することについて示してみたい。

(1)争点を具体化する
〈質問の争点と目的を明確に〉

 まず、何を問題とし、何を目指し、何を問い質(ただ)すのかを明確にすることである。
 自治体行政の対象は多様で幅広く、総合的である。自治体は、市民生活の基盤を支える〈政策・制度〉に最も近い政策主体だからである。政策課題は、生活という営みから生まれてくるため、相互に絡み合っていることも多い。例えば介護の問題が実は子育ての問題や雇用の問題であったというように。
 自分が目にした問題状況が行政へ指摘すべき点をいくつも内包していて、観光政策の話をしていたら広報や六次産業化の話になり、収拾がつかないまま時間切れとなるような失敗談はよく聞く。論点を整理し、何を争点にするか具体化することが重要である。
 そのとき、質問の論点を箇条書きに細かくリスト化しておくと、それらの各項目が監査機能を果たすのか政策提案機能を果たすのかが整理でき、優先順位付けやそれぞれにどのような調査・分析が必要かが可視化できる。ポストイットを使ってひとりワークショップのように整理してみるのもよいだろう。

〈施策・事業で捉える〉
 質問の論点を絞る中で、その論点がどのような施策・事業に当たるのかを整理しておくことは必須である。
 政策は、課題をめぐって、「目指す未来」を設定し、そこにたどり着くための「手段」を組み合わせる、〈組織・制御〉の技術である(4)。自治体の単位でみれば、それぞれの政策目標は具体的な施策・事業群のパッケージになっているはずである。具体的にそのどれが問題なのかの指摘がなければ、印象論で終わってしまう。
 つまり「人口減少の問題にしっかり取り組んでいますか?」と聞かれれば、「アレコレやってしっかり取り組んでいます」と答えて終わりにできる。だが本当は、その質問の背景には「しっかり取り組んでいないために起こっている問題」があるはずで、その問題は自治体でどのような「施策・事業」によって生まれているのか、その背景にある法規や条例、要綱などの制度を含め特定しておく。「しっかり取り組んでいる」かどうかは、これら具体的な施策・事業、関係する制度とその運用のありようによって判断されるのである。

〈「その質問によってまちはよくなるか」〉
 質問は問うのではなく「問い質す」行為である。「しっかり取り組んでいる」かどうかを尋ねるとき、「取組」そのものである「行政からみた施策・事業の現況」は一般質問でなくても確認することができる。「しっかり」しているかどうかは、問題状況に対しその「取組」が必要で効果的なものになっているかで判断される。したがって争点として提起するときには、それについて質問する議員自身の「判断」つまり評価が述べられることになる。
 単に「しっかり取り組んでいるか」「アレコレの事業を、しっかりやっています/これからもやっていきます」では施策や事業を紹介されたにとどまり、問い質していないのである。「しっかり取り組んでいるか」という問いが内包する「しっかり取り組んでいないのではないか」という問題提起は、実際の現況と、施策・事業、その背景にある制度と運用などから「しっかりしていない」論拠が示されることで、争点として具体化される。そうした争点がなければ、その質問をしてもまちがよくなることにはつながらないだろう。
 「残念な質問」の例として、個別要求にとどまる質問や、公表されている数字を確認するだけの質問が挙げられることがある。それは、そうした個別要求や数字を問うことが、「まちの課題」にどうつながっているかという争点を持たないためである。
 一般質問の前提として、まず、「その質問によってまちはよくなるか」、つまり政策課題をめぐる行政の取組について問い質すものになっているか、を確認し、その争点を施策・事業レベルで具体化して問題提起することが必要になろう。また、その「問い質し」が、監査機能を果たすものなのか政策提案機能を果たすものなのかによって、下準備は異なってくる。その点は次項で説明したい。

(2)データで強化する
〈質問を支える情報の重要性〉
 情報が質問にとってどれだけ重要かはいうまでもないが、中でも、情報を集めるというだけでなく、あふれる情報を選別するための技術の重要性が高まっているといえる。以下、政策をめぐる情報の3類型(5)ごとに、そのリソースをみてみたい。
 ひとつ目が①争点情報(6)である。いわゆるニュース的な〈状況情報〉、ウォッチャー型情報が挙げられる。議員活動、例えば市民相談などから得る情報は、まさにナマの争点情報といえる。新聞・雑誌報道、他自治体の動向などが挙げられる。インターネットでアクセスできる国会図書館の『調査と情報』は最近の政策論点をコンパクトにまとめたもので、一般質問に関連したタイトルがあれば目を通しておきたい。単なるコピーになっては意味がないが、各地の議会だよりを集め他自治体での一般質問を参考にすることもあり得よう。
 2つ目に②基礎情報(7)、調査・統計に基づく〈分析情報〉、自治体・国・公共機関の統計情報、地理・地勢・地図情報などである。狭義のデータといえばこれに当たる。IT化の進行によって、白書をはじめとした多くの情報がインターネット経由で手に入るようになった。政府統計のポータルサイトe-Stat都道府県広報などのコレクションがあるWARP名古屋大学の条例検索データベースeLenなどは便利だろう。国際的な統計には、OECDのデータベースがある。民間団体の出している白書など、オンラインで検索できない情報も確認しておきたい。
 我が自治体の調査・統計は特に重要だが、市町村の場合は都道府県に集積される基礎情報にも注目したい。同じ都道府県にある他地域との統計比較は重要であるし、市町村が集約していない情報がまとまっていることがある。
 政策課題をめぐる問題状況が「どのように深刻な、又はどのように良好な状態か」は、データに語らせることで説得力が生まれる。争点をめぐる基礎情報はできるだけ集めたい。
 3つ目、③専門情報(8)は政策開発に必要な専門的知見といえる〈技術情報〉、それぞれの分野の専門的知見である。専門書・論文、専門家などの分析、解説、調査報告などがある。専門的知見の活用は議会改革の中でもいわれているが、議員の争点提起にとっても重要な情報である。雑誌・論文情報のオンラインデータベースであるCiNiiには、主要な雑誌のほか大学紀要などのオンライン版へのリンクがあり、そのまま検索して読むことができるのである。議会図書室のレファレンス機能(9)は、議会の政策能力向上のために今後活性化が求められる項目のひとつといえるが、全国の図書館への文献調査依頼への回答事例集である「レファレンス協同データベース」は活用できるだろう。司書がいる議会図書室は残念ながら希少で、かなりの大規模自治体だが、一市民として公立図書館に文献調査依頼をかけることはもちろん可能である。三重県鳥羽市議会のように市立・県立図書館と連携する例もある。専門情報への窓口として、本棚としてだけではない図書館機能を使いたい。

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土山希美枝

この記事の著者

土山希美枝

龍谷大学政策学部教授 龍谷大学政策学部教授。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻〈博士課程修了〉博士(政治学)。専門分野は、公共政策、地方自治、日本政治。研究テーマは、変動する社会の構造と、政策、市民、政府の機能。著書に『高度成長期「都市政策」の政治過程』(日本評論社、2007年)、共著に『対話と議論で〈つなぎ・ひきだす〉ファシリテート能力育成ハンドブック』(公人の友社、2011年)、『「質問力」からはじめる自治体議会改革』(公人の友社、2012年)など。北海道芦別市生まれ。

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