アルファ社会科学株式会社主席研究員 本川裕
健康寿命を地域で競い合う?
どれだけ長生きするかを表す平均寿命だけでなく、元気で長生きする期間を示す健康寿命が注目されている。自分ひとりで外出でき、介護が不要なまま生活できる期間を示す健康寿命は、個々人にとって、極めて大切な概念であり、病気で苦しむことなく突然死を迎える「ピンコロ」が高齢者の重大関心事となっている。長野県の佐久市にできたピンコロ地蔵や、その他北海道から九州に至る全国各地に「ぴんぴん長生き、ころりと往生」を意味する地蔵やお寺参りが流行しているらしい。
一方、高齢化に伴う社会保障費の増大や財政難の悪化を緩和する観点から、国や地方は、医療費や介護費を少しでも削減できるように、国民一人ひとりが健やかに暮らせる期間を長くする取組を重視している。
このため、経済産業省などもヘルスケア産業を健康寿命延伸のための産業と位置付け振興を図る考えであるが、保健医療を管掌する厚生労働省では、2013年から2022年までを計画期間とする「健康日本21(第2次)」(21世紀における第2次国民健康づくり運動)の中で、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を基本方向の1番目として掲げ、「健康寿命の延伸」の目標としては「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」、「健康格差の縮小」の目標としては「都道府県格差の縮小」を設定している。前者は、不健康な期間を短縮するための疾病予防、健康増進、介護予防などの施策によるものとされるが、後者は、健康寿命に関する信頼に足る地域データを整備して、地域が相互に競い合って健康寿命延伸と不健康寿命短縮に努める環境をつくるものとされている。
都道府県の競い合いの中で、健康寿命の低い県は、高い県に追いつこうとし、なぜ自県が低く、他県が高いのかを研究するだろうし、高い県はその地位を維持するための方策を練るだろうから、自然と国民全体の健康寿命が延びる(不健康寿命が短くなる)というわけである。
そして、手始めとして都道府県別の健康寿命が前提資料として公表された。
今回は、このデータの表し方をテーマとして取り上げるものとする。
都道府県の健康寿命
健康寿命は、2000年にWHO(世界保健機構)が提唱した概念であるが、厚生労働省の定義によれば、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいう。具体的には、厚生労働省が実施している国民生活基礎調査における質問の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」に対する「ない」の回答を日常生活に制限なしと定め、性・年齢階級別の日常生活に制限のない者の割合を得て、生命表のデータと関連させて算出される。なお、市町村別の健康寿命は、国民生活基礎調査がサンプル数の関係で県単位の集計しかないので、同じ設問の独自調査を行うか、市町村の介護保険の介護情報から近似値を得るという方法しかない。
都道府県別の健康寿命は表の形で公表されている。平均寿命と同様に男女の違いが無視できないので、男女別に公表されている。最も単純なグラフでの表し方は、2つの棒グラフを描くことであるが、ひとつのグラフにまとめて表現するために、少し工夫したグラフを図1に描いた。
自治体コード順に北海道から沖縄までの都道府県を並べているので、日本列島の東西、あるいは大都市圏か否かによる地域的な偏りがあれば、比較的目につきやすい表し方である。あまり端的な東西傾斜はないようである。ただ、群馬より北では、北に行くほど健康寿命が短くなる傾向が認められる。また、広島より西では、西に行くほど健康寿命が長くなる傾向が少し認められる。他方、東京、埼玉、滋賀、大阪、広島、福岡など大都市を抱える地域で女性の健康寿命が短くなる傾向が認められる。男性の場合は、青森、高知、長崎など地方圏で特に健康寿命の短い県が認められる。
このグラフだと地域的な偏りなどは分かりやすいが、男女の分布の違いなどはやや分かりにくい。もうひとつの表し方として散布図による表現を図2に掲げた。
これならば、都道府県の分布状況が男女の違いを含めて一望できる。静岡、愛知、群馬などが男女ともに健康寿命が長く、逆に大阪、福岡などが男女ともに健康寿命が短いことが分かる。他方、千葉では男性の健康寿命が長い割には女性の健康寿命はそれほど長くないこと、あるいは群馬から沖縄、島根、愛媛などを経て青森に至る一直線上の県では、健康寿命において、男性より女性の方が長い点が目立っていることが分かる。
散布図の方が分布状態がより分かりやすく、また、特に大方から離れた位置にある都道府県の特殊性が明確となるが、東西傾斜や大都市特性などは分からないし、一番の問題は数値を付記するのが難しいという点である。棒グラフ(それに近いグラフ)か散布図かは、目的に合わせて適切なものを選択したい。
健康寿命と不健康寿命との関係
次に、健康寿命と平均寿命から健康寿命を引いた残りの不健康寿命との関係はどうなっているかを見ることができるグラフを作成してみよう。平均寿命が長い県は健康寿命も不健康寿命もともに長いのであろうか。それとも健康寿命が長いと不健康寿命は短くなるのであろうか。この点を明確に判断するために、図3には、X軸に健康寿命、Y軸に不健康寿命をとった散布図を描いた。なお、この図は相関を確かめる散布図なので相関図とも呼べる。健康寿命が長い県は不健康寿命も長いのであれば、プラスの相関(右上がりの相関)、健康寿命が長いほど不健康寿命は短いのであれば、すなわち両者が代替的であればマイナスの相関(右下がりの相関)が認められるはずである。結果は、右下がりの相関であり、代替性が認められる。すなわち、ある程度決まっている寿命の中で、不健康寿命を短くすれば健康寿命は延びるという関係にある。特に、女性においては相関がはっきりしており、代替性が強いことも分かる。
具体的には、男性では、愛知や茨城といった県では、健康寿命が長く、不健康寿命が短い理想的な状態となっており、逆に、大分、岡山、高知、長崎などでは、健康寿命が短く、不健康寿命が長いという望ましくない状態となっていることが認められる。また、女性では、静岡や群馬では健康寿命が長く、不健康寿命が短い理想的な状況となっており、広島や滋賀では、健康寿命が短く、不健康寿命が長いという望ましくない状況となっていることが分かる。
この点をさらに端的な指標として得るために、ピンコロ指数とでも呼べるものを試算してみよう。これは、健康寿命を平均寿命で割ったパーセントで表している。ピンコロ指数が高ければ高いほどピンコロの確率は高まるわけである。相関図と異なり、ピンコロの程度が具体的な数値で表される点が指標化の優れたところである。
なお、図4や前掲の図1では、高い順あるいは低い順に都道府県を並べ直すパターンも存在する。これであると上位や下位の地域がどこかがはっきりするし、自分の県がどの程度の位置にあるかも明瞭である。場合によっては、このソート後のグラフを採用した方がよいであろう。ただ、私としては、地域別グラフについては、なるべく地理的な順序のままの方がよいと考えている。どうしてもソートした方がよい場合でも、北海道・東北、関東、九州といった地方ブロックの中でのソートにとどめた方が地理的な感覚を保持できるので望ましいのである。
まとめ
最後に、以上のデータを総合的に表したランキング表を掲げる。上位5位と下位5位を示しているので、目立った地位にある都道府県がどこかがはっきりする表現である。場所をあまりとらないがインパクトは強いので、紙面の一部にレイアウトするには適している。
表 健康寿命・平均寿命上位5位・下位5位の都道府県(2010年)
今回は、都道府県別のデータの表し方について健康寿命を例にとって種々のパターンを紹介した。グラフの目的や媒体のスペースの広さなどを総合的に考え合わせて、適切な表現方法を選択し、あるいはそれらをバランスよく組み合わせて、効果的なプレゼンテーションを図りたいものである。複数のグラフや表を描いてみてその中から適切なものを選択するという作業も重要である。今回の原稿は、実はこうした作業の成果である。




