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2015.01.10 仕事術

“使える”議会図書室のすゝめ~説得力のある一般質問のために~

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国立国会図書館 塚田 洋

地方議会図書室の理想と現実

 皆さんは地元議会の図書室を訪れたことがあるだろうか。図書室といっても、小さな本棚に古い法令集や会議録が並ぶだけで、普段は「物置」代わりになっているかもしれない。
 地方自治法は、議会の調査活動の「要」として、議会図書室の設置を義務付けている(100条19項)。なぜなら、執行部から独立した情報源を持たなければ、議員は条例制定も行政監視も行えないからである。例えば、執行部提出の条例案を審議する場合を考えてほしい。執行部の説明資料からは、不都合な情報が抜き取られているかもしれない。そうだとすれば、議員は、別の情報源から得たデータや分析と比較できない限り、問題点の指摘も、代案提示も困難であろう。
 近年、全国で制定の動きが広がる議会基本条例も、議会の機能強化のために、図書室の充実をうたうものが多い。また、自治体関係者からは、議会図書室を通じて得た情報を基に執行部への「対抗軸」を築くことこそ、自治体の質を高める早道だとの声も聞かれる
 それでは、議会図書室の現状はどうなっているだろうか。県議会レベルでも、司書1人の確保がやっとで、貸出システムの導入等、最低限の情報化も遅れているところが多い。町村議会レベルでは、図書室の体裁をなしているところは4割ほどしかなく、「物置」代わりが必ずしも例外でないことがうかがわれる。このように議会図書室の理想と現実には、大きな隔たりがある。

議会図書室は「宝の山」に変えられる

(1)議会図書室をめぐる誤解
 このような隔たりが生じるのは、議会図書室の役割、とりわけ司書の情報収集力が正しく評価されていないためである。地方議会では、実際に次のようなやりとりも行われている。

 (ある地方議会の議会改革検討委員会にて)
A議員:調査活動に役立つので、議会図書室に司書を置いてはどうか。
* * *
B議員:反対だ。議会図書室は、官報、公報など地方自治法指定の刊行物を置く書庫にすぎない。スペースがあるので、福利厚生のために週刊誌やベストセラー小説を置いているまでだ(誤解❶)。
C議員:書籍は、議員のリクエストで購入するだけであるし、雑誌論文のデータベースも導入済みだ。司書に頼む仕事はない(誤解❷)。
D議員:同感だ。議会図書室の資料整備には、議会や行政の専門知識が必要だ。司書にはそうした蓄積がなく、置いても役に立たない(誤解❸)。
* * *
A議員:……分かった。提案を取り下げる。

 この辺りが多くの議員の本音ならば、図書室整備が進まないのもうなずける。しかし、このやりとりには大きな誤解がある。
誤解❶ 議会図書室は、官報・公報の書庫!?
 これは明らかな認識不足である。地方自治法の規定からも、議会図書室は、議員の調査研究を支える重要なインフラだといえる。現状はどうでも、行政監視や政策立案を文献調査で支援するのが、本来の姿である。資料もそのためにそろえるのであって、福利厚生目的は論外だろう。
誤解❷ 行政経験があれば、必要な資料は集められる!?
 最近では、政策調査レポートを、インターネット上に公開する議会事務局もある。筆者もいくつか目を通したが、行政経験だけの情報収集には心細さを感じる。政策調査レポートの質は、脚注を見れば見当がつく。中には数十頁に及ぶ大作もあるが、説明の根拠が示されないものや、国や自治体のサイト情報を引用するだけのものが、実に多い。これらのレポートからは、執行部以外の情報源に当たって、①正確かつ客観的な事実・根拠を確認する(これは、執行部情報のウラをとることにつながる)、あるいは、②ひとつの事象・案件に対して複数の見方や分析結果があることを確認する(これは、執行部への代案提示につながる)といった姿勢が見られない。文献調査を尽くさないレポートを良しとする議会で、実りある議論が行われているとは、とても思えない。
 皆さんには、ぜひ一度「図書館育ち」の調査部門の仕事を見てほしい。例えば、国立国会図書館の議員向け調査レポート「空き家問題の現状と対策」は、行政情報だけでなく、新聞報道、各種統計・データ、有識者の論文等、様々な情報に当たって、論点や課題を整理している。紙幅の割に脚注が多いのは、根拠を明示する姿勢の表れである。
誤解❸ 司書は、議会図書室に置いても役に立たない!?
 近年、議員や行政職員を対象に、「政策立案支援サービス」を行う公共図書館も出てきている。大阪府立図書館は、府内全自治体の議員、職員を対象に、資料の貸出し、複写、レファレンス(図書館資料に基づく調査)を行っている。東日本大震災のがれき受入れ問題に関連して、放射性廃棄物についての国内外の法規制を調べる等、府(市町村)政に直結する情報提供が特色である。利用者からは、「司書の視点で様々な資料が提供され、ひとりで調べる場合より、思考の広がりが得られる」と、評判も上々である。府立図書館の司書に行政経験はないが、その情報収集力は、政策立案に確実に役立っている。

(2)カギは司書の情報収集力
 ここまで、議会図書室をめぐる誤解を解きながら、図書室活用のメリットを説明した。まだ数は少ないが、三重県議会図書室のように、司書の情報収集力をフル活用して、成果を上げているところもある。2013年に制定された「三重県飲酒運転〇(ゼロ)をめざす条例」は議員提出条例だが、条例案は司書が集めた豊富な資料を参考にして作成された。
 自前の司書を置く余裕のない小規模議会でも、司書の情報収集力は活用できる。最も簡単な方法は、公共図書館と連携することである。三重県鳥羽市議会は、市議会図書室、市立図書館、三重県立図書館の連携によって、議員が資料入手や調査依頼を円滑に行える仕組みを導入した。県立図書館から借り受けた資料を参考に、一般質問が行われた例もある。工夫次第で、議会図書室は「宝の山」に変えられるのである。

一般質問に"使える"議会図書室

(1)一般質問に必要な情報とは
 このように司書の情報収集力は、政策立案の様々な場面で役立つ。ここでは議会の一般質問を例に、司書のノウハウを具体的に紹介してみたい。
 その前に、一般質問の準備に必要な情報とは何かを確認しておこう。一般質問とは、全ての議員が、市(県町村)政に関わる全てのことを問いただすことができる機会を指す。最近では、「ひとりでも始められる議会改革」の手段として注目され、議員が質問の失敗事例を持ち寄って改善点を検証し合う「議員質問力強化研修」も開催されている。
 研修を担当する土山希美枝・龍谷大学准教授によれば、公表された数字を確認するだけの質問、合理的な根拠のない批判、その自治体の権限に属さない事柄への質問等、一般質問の失敗の多くは調査不足が原因である。
 また、説得力のある質問は、3つの情報を踏まえているという。第1は、論点を明確化する「争点情報」である。これは日常の議員活動のほか、新聞記事からも得られる。第2は、課題状況を裏付ける「基礎情報」であり、これは法令や統計で確認できる。第3は、専門家、研究者がその論点をどう論じているか、争点情報、基礎情報をどう解釈・分析しているかを示す「専門情報」である。これは雑誌論文や図書の中から、目的に合ったものを選べばよい。つまり、テーマに即して、これらの資料を集めることが、一般質問を成功に導く第一歩なのである。そして、そうした場面こそ、議会図書室の出番である。

説得力のある一般質問の ための3つの情報


(2)差がつくネット情報の調べ方
 一例として、議会図書室の司書が3つの情報を収集する場合に、最初に使うインターネット情報源を紹介しよう。皆さんは、インターネット情報など、検索エンジンにキーワードを入力する方法(ここでは「ググるだけ調査」と呼ぶ)で、たやすく手に入ると思い込んでいないだろうか。しかし、ここに挙げるように、インターネット上には、「ググるだけ調査」では見つけにくいデータベースも多数ある。司書はそれらを駆使して、「差がつく」調べ方を実践している。
① 争点情報(新聞記事)
 新聞社の無料サイトでは情報に限りがあるので、「聞蔵」(朝日新聞)、「ヨミダス」(読売新聞)、「日経テレコン」等の有料データベースを使う。特に日経テレコンは、日本経済新聞だけでなく、地方紙や業界紙も検索でき、使い勝手が良い。有料データベースが使えない場合は、政策課題ごとに地方紙のスクラップを掲載する『自治体情報誌D-file』(イマジン出版)に当たる。
② 基礎情報(法令・統計)
 法令や統計については、インターネット上に無料のポータルサイト(検索窓口)がある。総務省の「電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)」からは現行法令が、「政府統計の総合窓口(e-Stat)」からは各府省の統計が、一括検索できる。また、自治体の条例を調べる場合は、名古屋大学の「eLen(エレン)条例データベース」が威力を発揮する。全国の自治体の9割に当たる1,606自治体の例規データ約100万本を、キーワード、自治体規模、地域等で自由に検索できる。例えば、全国各地のいじめ防止条例から、参考にしたい条例を選び出し、条文ごとの比較表を作成するといった作業も簡単である。
③ 専門情報(雑誌論文、図書)
 まず、国立国会図書館の蔵書検索システムNDL-OPACや、国立情報学研究所のCiNii(サイニイ)を使い、質問テーマに関連して、どのような文献が刊行されているかを確認する。あとはNDL-OPACで得た情報を基に、国立国会図書館や近隣の公共図書館から雑誌論文の複写や図書の貸出しを受ければよい。CiNiiで検索した雑誌論文の一部は、無料で全文をダウンロードできる。
 専門情報を集めるメリットのひとつは、失敗事例が手に入ることである。例えば、商店街の活性化について「ググるだけ調査」をしても、「がんばる商店街77選」(中小企業庁)のようなモデル事業しか見つからない。しかし、NDL-OPACやCiNiiを使えば、関連の雑誌論文や図書が数百件リストアップされ、それらの文献に当たれば、「レトロ商店街」や「キャラクター商店街」は模倣が難しいという分析や、モデル事業も成功例ばかりではないという関係者の証言が得られる。
④ 司書のノウハウ・調査事例
 司書のノウハウの一部も、インターネットで確認できる。国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」には、政治・法律・行政をはじめ、各分野の情報収集法がまとめられており、これに目を通してから調査に入れば効率的である。また、「レファレンス協同データベース」には、全国の図書館が扱った調査事例が、調査の手順とともに紹介されている。「医療、買物弱者、地域交通等の中山間地域の課題」といった事例もあり、参考になる。

脱「物置」宣言を!

 ここまで、議会図書室活用のメリットを、司書の情報収集力に焦点を当てて説明してきた。議会図書室は、一般質問の準備をはじめ、政策立案の様々な場面に役立つ。現地視察や専門家からの意見聴取等で得た知見も、文献調査の成果と組み合わせれば、審議の厚みは格段に増すだろう。
 ネット情報の調べ方等、司書のノウハウの一部は、議員一人ひとりが身に付けても役立つものである。しかし、情報検索の世界は日々進化を続けており、最新の検索手法を誰もがフォローし続けることは難しい。さらに、図書館の連携による情報収集や、集めた情報の目利きには、司書ならではのものがある。「餅は餅屋」である。ぜひこの機会に、脱「物置」宣言をして、議会に、司書のサポートが受けられる環境を整備してほしい。


⑴ 片山善博「図書館のミッションを考える」情報の科学と技術57巻4号(2007年) http://ci.nii.ac.jp/els/110006242732.pdf?id=ART0008264577&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1406675327&cp=
⑵ 鯨岡真一=野口武悟「都道府県議会図書館(室)の現状と課題」図書館綜合研究12号(2012年)によれば、回答のあった38の図書室のうち、貸出システムの導入は15、ホームページの開設は14、蔵書目録の公開は4にとどまる。
⑶ 福田健志「空き家問題の現状と対策」調査と情報791号(2013年) http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8214649_po_0791.pdf?contentNo=1
⑷ 髙萩綾子=木下厚美「大阪府立図書館における政策立案支援サービスの満足度調査報告」大阪府立図書館紀要42号(2013年)http://www.library.pref.osaka.jp/uploaded/attachment/822.pdf
⑸ 「議員質問力強化研修」については、土山希美枝「議員実力養成講座 質問力を上げよう 第1回~第3回」本誌Vol.41~43(2014年)か、土山希美枝編著『「質問力」からはじめる自治体議会改革』公人の友社(2012年)を参照。
⑹ 全国の議会事務局に配布されたIDとパスワードで利用可能。
⑺ 登録しなくても検索機能は使える。登録して申し込めば、自宅でも資料のコピー(有料)が受け取れる。

塚田洋(国立国会図書館)

この記事の著者

塚田洋(国立国会図書館)

1990年から国立国会図書館に勤務。国政審議に関する調査、議事堂内図書館の運営、議員向けセミナーの企画など、主に国会議員向けの調査・情報サービスに従事。専門図書館協議会の地方議会図書室担当委員として、研修教材「一般質問に使える議会図書室」を作成。現在、地方議員、議会事務局職員を対象に各地で研修を実施している。議会事務局実務研究会会員。

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