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2015.01.10 仕事術

“使える”議会図書室のすゝめ~説得力のある一般質問のために~

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一般質問に"使える"議会図書室

(1)一般質問に必要な情報とは
 このように司書の情報収集力は、政策立案の様々な場面で役立つ。ここでは議会の一般質問を例に、司書のノウハウを具体的に紹介してみたい。
 その前に、一般質問の準備に必要な情報とは何かを確認しておこう。一般質問とは、全ての議員が、市(県町村)政に関わる全てのことを問いただすことができる機会を指す。最近では、「ひとりでも始められる議会改革」の手段として注目され、議員が質問の失敗事例を持ち寄って改善点を検証し合う「議員質問力強化研修」も開催されている。
 研修を担当する土山希美枝・龍谷大学准教授によれば、公表された数字を確認するだけの質問、合理的な根拠のない批判、その自治体の権限に属さない事柄への質問等、一般質問の失敗の多くは調査不足が原因である。
 また、説得力のある質問は、3つの情報を踏まえているという。第1は、論点を明確化する「争点情報」である。これは日常の議員活動のほか、新聞記事からも得られる。第2は、課題状況を裏付ける「基礎情報」であり、これは法令や統計で確認できる。第3は、専門家、研究者がその論点をどう論じているか、争点情報、基礎情報をどう解釈・分析しているかを示す「専門情報」である。これは雑誌論文や図書の中から、目的に合ったものを選べばよい。つまり、テーマに即して、これらの資料を集めることが、一般質問を成功に導く第一歩なのである。そして、そうした場面こそ、議会図書室の出番である。

説得力のある一般質問の ための3つの情報


(2)差がつくネット情報の調べ方
 一例として、議会図書室の司書が3つの情報を収集する場合に、最初に使うインターネット情報源を紹介しよう。皆さんは、インターネット情報など、検索エンジンにキーワードを入力する方法(ここでは「ググるだけ調査」と呼ぶ)で、たやすく手に入ると思い込んでいないだろうか。しかし、ここに挙げるように、インターネット上には、「ググるだけ調査」では見つけにくいデータベースも多数ある。司書はそれらを駆使して、「差がつく」調べ方を実践している。
① 争点情報(新聞記事)
 新聞社の無料サイトでは情報に限りがあるので、「聞蔵」(朝日新聞)、「ヨミダス」(読売新聞)、「日経テレコン」等の有料データベースを使う。特に日経テレコンは、日本経済新聞だけでなく、地方紙や業界紙も検索でき、使い勝手が良い。有料データベースが使えない場合は、政策課題ごとに地方紙のスクラップを掲載する『自治体情報誌D-file』(イマジン出版)に当たる。
② 基礎情報(法令・統計)
 法令や統計については、インターネット上に無料のポータルサイト(検索窓口)がある。総務省の「電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)」からは現行法令が、「政府統計の総合窓口(e-Stat)」からは各府省の統計が、一括検索できる。また、自治体の条例を調べる場合は、名古屋大学の「eLen(エレン)条例データベース」が威力を発揮する。全国の自治体の9割に当たる1,606自治体の例規データ約100万本を、キーワード、自治体規模、地域等で自由に検索できる。例えば、全国各地のいじめ防止条例から、参考にしたい条例を選び出し、条文ごとの比較表を作成するといった作業も簡単である。
③ 専門情報(雑誌論文、図書)
 まず、国立国会図書館の蔵書検索システムNDL-OPACや、国立情報学研究所のCiNii(サイニイ)を使い、質問テーマに関連して、どのような文献が刊行されているかを確認する。あとはNDL-OPACで得た情報を基に、国立国会図書館や近隣の公共図書館から雑誌論文の複写や図書の貸出しを受ければよい。CiNiiで検索した雑誌論文の一部は、無料で全文をダウンロードできる。
 専門情報を集めるメリットのひとつは、失敗事例が手に入ることである。例えば、商店街の活性化について「ググるだけ調査」をしても、「がんばる商店街77選」(中小企業庁)のようなモデル事業しか見つからない。しかし、NDL-OPACやCiNiiを使えば、関連の雑誌論文や図書が数百件リストアップされ、それらの文献に当たれば、「レトロ商店街」や「キャラクター商店街」は模倣が難しいという分析や、モデル事業も成功例ばかりではないという関係者の証言が得られる。
④ 司書のノウハウ・調査事例
 司書のノウハウの一部も、インターネットで確認できる。国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」には、政治・法律・行政をはじめ、各分野の情報収集法がまとめられており、これに目を通してから調査に入れば効率的である。また、「レファレンス協同データベース」には、全国の図書館が扱った調査事例が、調査の手順とともに紹介されている。「医療、買物弱者、地域交通等の中山間地域の課題」といった事例もあり、参考になる。

脱「物置」宣言を!

 ここまで、議会図書室活用のメリットを、司書の情報収集力に焦点を当てて説明してきた。議会図書室は、一般質問の準備をはじめ、政策立案の様々な場面に役立つ。現地視察や専門家からの意見聴取等で得た知見も、文献調査の成果と組み合わせれば、審議の厚みは格段に増すだろう。
 ネット情報の調べ方等、司書のノウハウの一部は、議員一人ひとりが身に付けても役立つものである。しかし、情報検索の世界は日々進化を続けており、最新の検索手法を誰もがフォローし続けることは難しい。さらに、図書館の連携による情報収集や、集めた情報の目利きには、司書ならではのものがある。「餅は餅屋」である。ぜひこの機会に、脱「物置」宣言をして、議会に、司書のサポートが受けられる環境を整備してほしい。


⑴ 片山善博「図書館のミッションを考える」情報の科学と技術57巻4号(2007年) http://ci.nii.ac.jp/els/110006242732.pdf?id=ART0008264577&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1406675327&cp=
⑵ 鯨岡真一=野口武悟「都道府県議会図書館(室)の現状と課題」図書館綜合研究12号(2012年)によれば、回答のあった38の図書室のうち、貸出システムの導入は15、ホームページの開設は14、蔵書目録の公開は4にとどまる。
⑶ 福田健志「空き家問題の現状と対策」調査と情報791号(2013年) http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8214649_po_0791.pdf?contentNo=1
⑷ 髙萩綾子=木下厚美「大阪府立図書館における政策立案支援サービスの満足度調査報告」大阪府立図書館紀要42号(2013年)http://www.library.pref.osaka.jp/uploaded/attachment/822.pdf
⑸ 「議員質問力強化研修」については、土山希美枝「議員実力養成講座 質問力を上げよう 第1回~第3回」本誌Vol.41~43(2014年)か、土山希美枝編著『「質問力」からはじめる自治体議会改革』公人の友社(2012年)を参照。
⑹ 全国の議会事務局に配布されたIDとパスワードで利用可能。
⑺ 登録しなくても検索機能は使える。登録して申し込めば、自宅でも資料のコピー(有料)が受け取れる。

塚田洋(国立国会図書館)

この記事の著者

塚田洋(国立国会図書館)

1990年から国立国会図書館に勤務。国政審議に関する調査、議事堂内図書館の運営、議員向けセミナーの企画など、主に国会議員向けの調査・情報サービスに従事。専門図書館協議会の地方議会図書室担当委員として、研修教材「一般質問に使える議会図書室」を作成。現在、地方議員、議会事務局職員を対象に各地で研修を実施している。議会事務局実務研究会会員。

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