公益財団法人日本生産性本部上席研究員 千葉茂明
「三位一体」の一翼
筆者はこれまでに300近くの地方議会を取材してきた。取材の大半は議会事務局に電話することから始まる。そのため議会事務局職員の電話対応がその議会の第一印象になった。レスポンスとアポイントメントが早ければ取材への期待が高まるし、その逆の場合は不安を抱えることになった。
取材先は正副議長や議会改革の中心議員が多かった。同時に議会事務局職員からも話を聞くよう心がけた。議員への遠慮なのか辞退するケースもあったが、取材に応じてくれた職員はおおむね議会改革や議会の補佐活動に熱心で、少しでも議会を良くしたいという思いが伝わってきた。
議会事務局職員も取材対象としたのは、ある時から改革が進んでいる議会に共通項があることに気づいたからだ。
それを個人的に「三位一体」と名づけた。すなわち、①改革志向と行動力のある議員、②包容力のある議長(自らが推進役のことも)、そして③積極的に政策提案する議会事務局職員という存在だ。この三翼がそろうと改革が加速する(最初からではなく、結果としてそのようになっているケースもある)。小泉内閣の「三位一体の改革」ではないが、「三位一体」が議会改革推進のキモではないかと思った。
「上下主従」の議会の衝撃
そのことを痛感したのは全国初の議会基本条例を制定した北海道栗山町議会、「議会評価・議員評価」で知られる北海道福島町議会を取材したときだった。当時、議会事務局長だった中尾修氏(栗山町)、石堂一志氏(福島町、故人)は議員同士の会議にごく自然に加わって発言、議員側もそれにごく普通に応じていた。
一方で、15年ほど前、ある県議会の取材で衝撃的な光景を目撃した。議会事務局で取材した職員は法科大学院を修了して入庁したとのことで、おそらく政策条例など議会の立法補佐を期待されて配属になったのだろう。ハイヒール姿のその女性職員は椅子に座る議長に、ひざまずいて話していたのだ。上司の議会事務局長は、知事のことを「知事様」と呼んでいた。当然のごとく、議員の呼称は「先生」だった。
議会事務局職員は一般職として県庁に入庁したはずだ。想像の域を出ないが、はじめから議会事務局への配属を希望して入庁した職員は皆無に等しいだろう。議会事務局に配属されると、なぜか議員が主(上)で職員は従(下)の関係になるところが少なくない。その風潮がはびこっていることに違和感を覚えずにいられなかった(執行機関でも長─職員の関係はいびつなことがあるが、議会ほど露骨ではないと感じる)。
2000年の地方分権一括法で機関委任事務は全廃され、国と地方は「上下主従」から「対等協力」の関係になったのに、その県議会からは(あえて強い言葉を使うが)“治外法権”の雰囲気さえ感じたことを今でも忘れない。
異動希望者が続出する議会事務局に
自治体では半ば公然と、特定の部署を「困難職場」と呼ぶことがある。その多くは住民対応の困難さに起因する。「住民」を「議員」に置き換え、その一つに議会事務局がなっていたらどうだろうか。職員としてやる気に満ち、異動希望者が続出するような「人気職場」に議会事務局がならなければ議会改革は進まないし、結果的に住民福祉の向上にもつながらない。
議会事務局(職員)には、そんな問題意識を長らく抱いていた。
そうした中、日本生産性本部の研究会が「地方議会成熟度評価モデル」を開発。2022年度からいくつかの議会が実装化に取り組み、そこで注目されたのが「地方議会からの政策サイクル」の確立・作動だった。
このサイクルを回すアクターは広義にとらえれば住民や首長(執行機関)も含まれるが、エンジンとなるのは議員と議会事務局職員だ。サイクルを確立・作動させる観点から議会事務局(職員)の「補佐の射程」を検討し、確定させたいという願いが「議会(事務)局分科会」の設置に至った。
いやいや配属される「なり手不足」の議会事務局ではなく、異動希望者が続出し、職員としても成長できる「人気職場に議会事務局がなってほしい」という願いもあった。