NPO法人自殺対策支援センターライフリンク代表 清水康之
2016年3月、改正自殺対策基本法が成立した。改正法では、すべての都道府県、市町村に対して自殺対策計画策定が義務付けられることになる。
「誰も自殺に追い込まれることのない社会」実現のため、改正法の内容及び政府の体制強化、予算の恒久化等の一体的な改革についての解説、そして自殺対策計画がどうあるべきか、策定に当たっての提言をいただいた。
1 全国紙1面トップに自殺対策の記事
「自殺対策 自治体に義務」との見出しで、本年2月16日付の朝日新聞(朝刊)が、1面トップで自殺対策基本法の改正に向けた動きを伝えた。
記事が紹介した改正のポイントは次の5点。
(1) 都道府県と市区町村に対策計画づくりを義務付ける
(2) 地域の実態を踏まえた対策に交付金
(3) 学校での自殺予防教育に努める
(4) 自殺予防週間(9月10〜16日)と自殺対策強化月間(3月)を法で規定
(5) 自殺対策を生きることへの包括的支援と位置付ける
その8日後、これら5点も含んだ「自殺対策基本法の一部を改正する法律案」が、参議院本会議において全会一致で可決され、翌月22日には衆議院本会議においてもやはり全会一致で可決され、無事成立に至った。
自殺対策に関する記事が全国紙の1面で取り上げられることは極めてまれである。しかも1面トップとなれば、私の知る限り、10年ぶりのことだ。自殺対策基本法の成立に向けた動きを、2006年5月31日付の毎日新聞が報道して以来である。
2 10年に一度の大改革
しかし、このように報道された自殺対策基本法の改正は、自殺総合対策の大改革全体の一部でしかない。あまり知られていないが、パソコンでいえば、OS(基本ソフト)が刷新されるような、自殺対策における地殻変動が起きた。
具体的には3つの改革が一体的に行われた。
ひとつは、まさに「自殺対策基本法の改正」である。詳細は後述するが、冒頭で引用した記事にあるように、都道府県だけでなく市区町村にまで自殺対策計画の策定を義務付けたことが、本改正における最大のポイントである。
もうひとつは、「政府の自殺対策推進体制の強化」である。昨年度まで内閣府が所管していた自殺対策は今年度から厚生労働省(以下「厚労省」という)に移管された。同省内に、厚労相が本部長を務める「自殺対策推進本部」が新たに設置され、すべての都道府県に「地域自殺対策推進センター」を設置することが決まるなど、自殺対策を推進する政府の体制が強化されることとなった。
最後は、政府による「地域自殺対策予算の恒久化」である。地域自殺対策のための予算は、昨年度までは、いつ打切りになるか分からない補正予算で毎年度計上されてきた。これが今年度分からは当初予算に盛り込まれることとなり、全国の自治体にとっては、ようやく安心して頼ることのできる財源になった。
こうした3点の改革を一体的に行ったことで、自殺総合対策の枠組みが飛躍的に強化された。今後は、「政府の新たな自殺対策推進体制が全国の自治体の自殺対策計画づくりを後押しし、そうしてつくられた基本計画が安定財源によって全国で実行に移される」という大きな流れができる。10年前に日本で自殺対策が始動してから最大の改革である。