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2015.06.03 政策研究

総合区設置が次の焦点に~否決で国政にも影響~「大阪都構想」の住民投票

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一般社団法人共同通信社編集委員兼論説委員  諏訪雄三

  「橋下劇場」が8年目で終演となりそうだ。伝統ある大阪市を廃止して広域行政は府に統合、住民に近い部分は5つの特別区をつくる。こんな統治機構改革、いわゆる「大阪都構想」を推し進める橋下徹大阪市長は、その賛否を問うた5月17日の住民投票で惜敗し政界引退を表明。これを受け最高顧問を務める「維新の党」の代表が交代した。野党再編、憲法改正の動きに影響する可能性が強い。
  橋下氏の都構想は、なぜ生まれ、住民投票に至ったのか。その意義や否決によって大阪市政、国政はどうなっていくのかを説明していく。

政治闘争始まる

  まず、都構想の誕生から住民投票までを振り返っておこう。
  テレビで「茶髪の風雲児」と呼ばれ人気を博していた弁護士の橋下氏が府知事に当選したのは2008年1月。自民党大阪府連と公明党大阪府本部が推した候補だった。当選後は府職員、国を仮想敵にしながら財政改革などを訴えた。
  さらに「ぼったくりバー」などと直轄公共事業の負担金問題を痛烈に批判した。橋下氏の発信力と目の付け所は秀逸だった。2009年9月には自公政権が倒れ、政権交代となった。橋下氏の攻撃的な発言も一定の役割を果たした。
  その後、大阪府と市の連携強化が必要とし、大阪都構想の実現を目指して地域政党「大阪維新の会」を2010年4月に設立。2011年4月の統一地方選では、自民党のくら替え組も含めて高い人気を集め、府議会では単独過半数、市議会でも第一党となった。
  維新の会が勢力を大きく伸ばしたことで橋下氏と、自民、公明、民主、共産の各党とのいわば政治闘争の段階に入った。
  さらに市水道局と大阪広域水道企業団との合併が市側の反対で失敗すると、橋下氏は平松邦夫市長を追い落とすとして知事を辞職した。2011年11月の府知事とのダブル選に勝利し、橋下市長、松井一郎知事という協力タッグが誕生している。
  この勝利は各党に、維新の会の国政参加を恐れさせるには十分だった。いわば橋下氏の言いなりになる格好で、「大阪都」構想を後押しする大都市地域特別区設置法が2012年8月、民主、自民、生活、公明、みんななど与野党7会派の議員提案で成立した。
  設置法の内容は、政令指定都市を含む総人口200万人以上の市町村を廃止し、東京23区のような複数の特別区に分割する手続を定めている。実現には、地元首長らが区割りなどを明記した協定書をまとめ、議会と住民投票で賛成を得る必要がある。
  つまり、大阪都構想を実現するための手続を明確にした。これによって、協定書の策定と住民投票の実施が橋下氏の明確な政治目標となった。
  また、橋下氏が国政政党「日本維新の会」を結党、自民、民主、みんなの所属国会議員の一部が加わった。さらに石原慎太郎氏が率いる太陽の党と合流し、2012年12月の総選挙で大躍進している。
  この国政参加と躍進によって国レベルの政党間の対立が府議会、市議会に一層持ち込まれることになる。これに、どうすれば次の選挙で勝てるのかという各議員の生活に直結した問題が絡まり、余計に争いの収拾がつかなくなった。
  首長が政党色を鮮明にすること自体の是非も問われそうだ。さらに首長の仕事が住民を守ることとすれば、自説だけにこだわり、妥協をせずに行政運営することで結果として行政を停滞させることは、住民のためになるのか。橋下氏の行動は暴走する首長の一形態とみることもできるだろう。

僅差で否決

  都構想の具体策を決める法定協議会は2013年2月に設置されたが、他党の協力を得られず区割り案はなかなかまとまらなかった。事態の打開を図るためとして橋下氏は2014年2月に市長を辞任、6億円かけて出直し市長選を実施した。各党が対立候補を見送ったため、橋下氏は過去最低の投票率23.59%で再選した。低投票率、無効票の多さは、対立する相手を徹底的に追い込み、自らは譲らない橋下氏の政治手法に市民が違和感を持っていることを示したといえる。
  これに対し橋下氏は、都構想に市民の信任は得られたとして、府議会選出分の法定協議会の委員を全て維新の会に差し替えて協議会の過半数を確保し、単独で協定書を決議したが、少数与党の府議会、市議会でそれぞれ否決された。
  このまま“あだ花”に終わるとみられたが、公明党が突然、「都構想に反対するが、住民投票を行うことについては賛成する」との方針に転換した。2014年12月の総選挙をめぐって維新の党が公明党現職のいる選挙区に候補者を立てないといった何らかの密約の見返りだとの見方が一般的だ。
  この結果、2015年3月の府議会、市議会で維新の会と公明党の賛成で協定書が承認され、都構想の賛否を問う住民投票が実施されることになった。
  構想から5年。政令市の存廃を住民投票で決めるという初のケースとして注目された投票は5月17日に実施された。有権者は210万人で、投票率も66%を超えた。
  橋下氏が代表を務める大阪維新の会が推進に対して、「自民、公明、民主、共産各党」が共闘して反対という国政では考えられない組み合わせだった。この包囲網下での闘いだったが、その差はわずか1万票で否決された。
「たたきつぶすと言って、たたきつぶされてしまった」。開票直後の記者会見で橋下氏はさばさばとした表情だった。12月までの市長任期を終えた後、政界を引退することを宣言した。

深まらぬ議論

  次に、住民投票に向けて正確な情報が十分に提供されたのかを考えたい。
  大阪市は「特別区設置協定書について」とする説明パンフレットを全世帯に配っている。都構想とは、市の仕事のうち保健医療、福祉、子育て支援など身近な行政は5つの特別区(人口35万〜70万人)、産業、大学、地下鉄、バスなど二重行政の問題が指摘される広域機能は府に移す考えと説明する。
図 大阪都構想のイメージ図 大阪都構想のイメージ

出典:大阪市資料(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseidokaikakushitsu/cmsfiles/contents/0000308/308845/1.pdf)

 この再編に必要なコストはシステム改修費や新庁舎建設などで約600億円と算定。これに対し、事業の統合や地下鉄、一般廃棄物などの民営化、職員体制再編で2017年度から16年間で計3,386億円の再編効果があるとした。
  ただ、ただし書として「税収の伸び率など一定の前提条件をおいたうえで行った粗い試算であり、相当の幅をもってみる必要がある」と逃げの言葉もある。さらに地下鉄の民営化にしても、大阪府議会の議決が必要。維新の会が第一党とはいえ、過半数に達していないだけにすぐ決まるわけがない。このような不確実性が高い費用対効果分析である。
  維新の会はこれに上乗せして、2033年までに都構想効果が約5,000億円、橋下・松井行政の効果と合わせて約1兆円の収支改善総額があると政治的に宣伝した。
  一方、自民党などは、地下鉄民営化などは関係ないとして、生まれる財源は1億円しかないと反論している。つまり、メリット、デメリットでは確たる数字はなかった。
  経済政策についても、維新の会がカジノの誘致、万博の開催に加え、リニア新幹線の名古屋、大阪同時開業を挙げた。都構想を実現したことによって生まれた強い知事のリーダーシップによって可能になると訴える。
  一方、自民党もリニア新幹線の同時開業に加え、東京オリンピックを起爆剤とした観光戦略、副首都機能を大阪になどを訴えた。これらはよく考えれば、政府やJR東海などにお願いするしかない。つまりは他人に頼る政策でしかない。
  結局、経済戦略についてはどっちもどっち。東京に次ぐ地位を取り戻す妙案はない。維新の会は「大阪都になれば将来はばら色」のイメージを出すが、決して約束されたものではない。といって、各党もこれに代わる強い対案があるわけではない。都構想自体はよくいえば起死回生策、言い換えれば、ばくちのような政策であった。

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