北海道町村議会議長会参与 勢籏了三
市議会が議員に科した出席停止の懲罰処分について、最高裁大法廷は2020年11月25日の判決で60年前の判例を変更し、「出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる」とする判断を示した。
一方、総務省は12月17日付で行政課長通知を発出し、11月25日の最高裁判決を踏まえ、地方議会の議員に対する出席停止の懲罰に関して新たな質疑応答文を示し、これに伴い47年前の行政実例を削除したことを伝えた。
本稿では、本事件(出席停止処分取消訴訟)の争点となった核心部分と判例変更による行政課長通知のいきさつを概述し、地方議会の懲罰処分問題について若干の考察を示すこととしたい。
1 事件の概要と訴訟の経過
元市議は現職議員だった2016年6月21日の議会運営委員会において、同僚議員が常任委員会を欠席したことを理由に陳謝の懲罰処分を受けたことに関連して発言し、「陳謝したのは政治的妥協であって事実とは限らない」と述べたことが問題となり、懲罰動議が提出された。
動議は閉会中の継続審査となり、審査を経た上で9月6日開会の市議会定例会において、「当該議員の議会内における言動が議会の品位の尊重について定めた市議会会議規則に反する」として、元市議に対し23日間の出席停止の懲罰を科すことが議決された。これに伴い議員報酬も27万8,300円減額された。
元市議は「懲罰は違法な処分」として2016年9月21日、地方自治法255条の4に基づき県知事に審決を申し立てた。知事は11月22日、「本件処分は議会内部規律の問題であることから、審決の申請は不適法なものであり補正できない」と裁決し、申立てを却下した。これを受けて元市議は12月12日、出席停止処分の取消しと議員報酬減額分の支払いを求める訴えを提起した。
一審(地裁)は2018年3月8日の判決で、最高裁大法廷1960年10月19日判決(後段で説明)を引用し、「地方議員に対する出席停止処分の取消しを求める訴えは法律上の争訟に当たらず、司法審査の対象とならない」として訴えを却下した。元市議はこれを不服として3月20日、控訴した。
控訴審の二審(高裁)は2018年8月29日に判決。「議員に対する出席停止の懲罰の適否は、議員報酬の減額を伴う場合には司法審査の対象となり、本件処分の取消しと議員報酬の支払いを求める訴えは適法である」と述べ、訴えは不適法とした一審判決を取り消し、審理を一審に差し戻した。市・議会側は判決を不服として9月11日上告した。
上告審の最高裁大法廷は2020年11月25日の判決で、「地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は司法審査の対象となる」と述べた。さらに、懲罰の判断は議会に一定の裁量は認められるものの、「出席停止になれば住民の負託を受けた議員の責務を十分に果たすことができなくなる」と指摘。「出席停止が議員の活動の一時的制限だとしても、裁判所は常にその適否を判断できる」と結論づけた。ついで、「これと異なる趣旨の最高裁大法廷1960年10月19日判決その他の判例(後段で説明)は、いずれも変更すべきである」とし、最も重い除名以外は司法審査の対象外、とした60年前の判例を変更した。市・議会側の上告が棄却され二審判決が確定し、懲罰処分の適否は地裁で審理されることとなった。
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一審判決が引用した「最高裁大法廷1960年10月19日判決」は、「地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は一律に司法審査の対象とならない」とする判断が示された。この判決はその後の同種訴訟におけるリーディングケースとなり、後続する司法判断において踏襲するところとなった。
また、11月25日の最高裁大法廷判決が「変更すべき」とした「最高裁大法廷1960年10月19日判決その他の判例」の「その他の判例」とは、最高裁第三小法廷1981年4月7日判決などが該当する。
最高裁において判例変更が行われることは例のないことではない。裁判所法10条3号は、事件によっては小法廷で裁判をすることができない場合の例の一つとして、「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」と定める。この場合、裁判は必ず大法廷で行わなければならないことになり、この規定そのものが判例変更の根拠となっている。本事件(出席停止処分取消訴訟)の最高裁における当初の審理が小法廷で行われた後、途中から大法廷へ回付となったのは以上の理由による。