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2015.03.10 議会改革

議会が政策力を発揮するために~大津市議会全国初の「議会BCP」策定から見る政策検討会議の可能性~

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議会の政策力発揮のために

 大津市議会では、平成26年3月に市議会としては全国に先駆けて議会業務継続計画(Business Continuity Plan=BCP)を策定した。都道府県や市町村の議会では前例のない議会業務継続計画が策定されるには、長年の大津市議会における議会改革や政策機能発揮への努力の積み重ねがあり、蓄積された政策力を発揮しようとする議会人の強い意欲がある。
 もちろん、議会による政策機能の発揮は、地域社会における住民代表としての議会の役割を果たす上で根幹に関わるものであり、住民の負託に応えるためにも、議会としての政策立案、審議、決定、評価に至るプロセス全体について問われている。とはいえ、政策機能発揮のためには、議会が議会として適切に機能し続けていることが前提条件となる。いかなる事態にあっても、議会がその本来機能を果たし続けることができるかが問題となる。
 民間企業を皮切りに、国や地方自治体で業務継続計画(BCP)の策定が進められてきたのは、自然災害の多発、様々な事故や障害、テロなどの破壊行為等々、多様なリスクに適切に対応していくためである。そこでは、維持し続けなければならないその事業や機能を守るとともに、仮に被災したとしても可能な限り迅速に修復できる高い回復力が求められる。とりわけ公共部門の各機関には、そうした要請が強いはずである。
 確かに、国会や国・地方の行政機関では、BCPの策定はすでに大きく進んできている。しかしながら、地方自治体の議会では、大津市の試みが始まるまで議論すらなかったといってよい。現実には、東日本大震災で多くの地方自治体とその議会が被災しているにもかかわらず後手に回ってきた。その背景には様々な理由が考えられるが、基本的にはリスク管理や防災計画が行政機関の業務であること、緊急時には行政機関の長の下に対策本部が設置されることから、議会の問題としてこのことを検討する風潮にはなかったともいえる。
 しかしながら、民主主義の政治制度の基本となる機関は議会であり、それが機能しなければ公共部門は一時的であってもマヒする可能性がある。機能不全を回避すること、少なくとも、できるだけ早く機能回復をしていくことは、様々なリスクに直面せざるを得ない時代にあって、政府や議会にとっては、最優先の課題といえよう。
 大津市議会はこの課題に応えるべく、これまでに培われてきた政策力を発揮させることになった。前例のない政策形成を進めるためには、これまでの政策機能を十二分に発揮していくとともに、外部の政策資源を活用していくことが必須となる。大津市議会の場合は、政策機能の蓄積という点では政策検討会議に結集される知恵と技術であり、それを支える外部機関のネットワーク、とりわけ専門的知見を活用するという観点からの大学との連携協力がある。以下、これら諸資源がいかに動員され、新たな制度構築が進んでいったのかを紹介することにしよう。

大津市議会政策検討会議における議会BCP検討状況(「大津市議会議会だより特別号外」平成26年4月8日号より)大津市議会政策検討会議における議会BCP検討状況(「大津市議会議会だより特別号外」平成26年4月8日号より)

議会の危機管理体制整備は喫緊の課題

 東日本大震災では、東北地方太平洋岸を中心に、議会と議員、その職員が被災し、地方自治の機能が一時的にマヒをするという事態が発生した。中には議場を失うところもあった。そして、救援や復旧の時期においては、専ら執行機関の活動に全てを委ねることになり、議会の権能との関係でいえば、専決処分が繰り返されることになった。災害等への議会としての対策をルール化し具体的な行動方針を立て、日常の訓練を通じて対策を身に付けておくことが、議会や議員・職員を守り、議会機能を維持して、適切な地方自治の運営に資することになるという認識が広がった。そして議会として、自然災害などが避けられないとすれば、被災を想定しつつ危機管理を行い、減災を徹底するとともに、迅速な復旧に尽力することは、当然の義務となってきている。
 ところが、現実には、緊急事態への議会の即応体制は欠落したままのところがほとんどであり、議会の危機管理体制整備は喫緊の課題である。指揮命令系統の維持、情報の受信・発信と共有、被災時経営判断などをめぐる議会機能の維持方法の検討、例えば大災害時にあっても、会議の開催、招集、連絡体制、議長等の役割と委任、議会事務局の機能維持など、つまりは緊急時の業務体制を的確に構築しておくことである。一般に大企業等ではこれを事業継続計画(BCP)と呼び、組織の機能や存続を図る上では必須のものとして策定している。
 以上のような問題意識の下で、大津市議会が策定したBCPの概要は、以下のとおりである。基本的な考え方として、「1.業務継続計画の必要性と目的」には、議会機能の維持を掲げ、「2.災害時の議会、議員の行動方針」としては、意思決定機関、議事機関たる議会の役割と、住民代表であり議会の構成員たる議員の役割を示している。また、「3.災害時の市との関係」については、協力とチェックを柱とし、「4.想定する災害」については、市が策定する地域防災計画等に基づく災害(地震、風水害、原子力発電所事故、大規模事故、伝染病など)及び国民保護計画に基づく対策本部が設置される場合におおむね対応することとしている。
 こうした前提に立って、具体的には、「5.業務継続の体制及び活動の基準」として、「(1)業務継続(安否確認)体制の構築」のために、議会事務局の体制については、事務局職員の行動基準、議員への安否確認方法と確認事項を定める。事務局職員は、自身の安全確保と家族の安全確認、住居や施設の被害状況を確認し、必要な救援活動を行う。その後、非常時優先業務として、勤務時間外であれば第1次参集者に指定されたものが議会事務局に集まり、被災者の救援、議員や職員の安否確認、市の災害対策本部との連絡、施設の被災状況等の確認などを行う。議会の体制については、議長を委員長とする「議会災害対策会議」を設置し、各会派代表者が委員となる。市の災害対策本部が置かれる間に設置され、その議会側のカウンターパートとなる。議員の基本的行動の指針については、発生時期の状況の違いに応じた議員の行動基準を定め、まず自身と家族の安全確保、地域での救援活動、事務局への安否の伝達、議会災害対策会議の委員の参集、会議の決定に基づく各議員の参集などの行動基準と指揮・命令系統を明示している。
 「(2)行動時期に応じた活動内容の整理」では、災害時の行動時期に応じた活動内容の整理を行い、いわゆる発災時、直後の救援期、そして復旧期などに時期区分して、それぞれの行動形態、行動基準、議員の参集方法等を定める。大規模災害を前提とする標準モデルとして、発災後の72時間を初動期として職員参集、対策会議設置、安否確認、災害関連情報の収集などに努める。この間、議員は可能な限り地域の救援活動などにも協力する。発災後の3〜7日の間は中期として、災害情報の収集、把握、共有を進め、市の災害対策本部との連携と市の復旧活動の監視を行う。議員は災害対策会議からの参集指示に従う。発災後の7日から1か月の期間は後期と定め、議会機能の早期復旧を図り、復旧復興予算や関連事案の委員会・議会審議を行う。
 さらに議会機能を維持する環境づくりという観点から、「(3)審議を継続するための環境の整理」として、庁舎の建物・設備、通信設備、情報システム、備蓄品などの確保を掲げてそれぞれの方針を明らかにしている。議会の建物が使えなくなることを想定して、代替の施設を検討し、あらかじめ使用場所を用意する。通信設備や情報システムについては、多重の設備を用意する。また被災後の3日間の非常用食料や飲料水、トイレや毛布などの生活必需品、防災キットの配備、一般避難者向けの備蓄などの用意を進めるとしている。
 災害時に重要となる情報収集、災害に備えた計画と訓練、さらには運用の改善等については、「6.情報の的確な収集」として地域の災害情報の収集と、災害対策会議を通じた市の対策本部への伝達方法や、議会と行政の情報の共有方法を明定している。「7.議会の防災計画と防災訓練」では、被災時だけではなくあらかじめの備えや、事後の復興に関して議会の防災計画策定や防災基本条例(仮称)の制定などの整備を進めるとともに、図上演習など議会の防災訓練については定期的に執り行うことなどを定めた。防災基本条例(仮称)については、議員提案により政策検討会議が平成26年度に検討を進めている。
 なお、このBCPは完成されたものというよりは、今後の運用を通じてさらにより良く改善されていくべき性格のものという観点から、「8.計画の運用」において、議会BCPの見直しが定められている。今後の緊急時への対応状況を見ながらバージョンアップをしていくこととしており、実際に平成26年の台風災害における経験から、いくつかの修正の検討が始まっている。

図:災害時の議会・議会事務局の行動の流れ(大津市議会BCP(平成26年3月)15頁)図:災害時の議会・議会事務局の行動の流れ(大津市議会BCP(平成26年3月)15頁)

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