山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
はじめに──報告書への期待?──
本稿は、サブタイトルにある総務省「町村議会のあり方に関する研究会 報告書」(以下「報告書」という)を検討することを目的としている。当初、その報告書が対象とする「小規模市町村議会のゆくえ」(あるいは「小規模議会のゆくえ」)を主タイトルとしていた。しかし、本稿全体を読めば理解していただけるように、対象は小規模市町村議会であろうとも、その制度化に当たっての発想はそれに限った問題ではなく、地方議会全体、さらには住民自治の問題にかかわる。そこで、主タイトルを「地方議会のゆくえ」とした。
「報告書」が町村議会のあり方に関する研究会(以下「研究会」という)座長である小田切徳美明治大学教授より総務大臣に手渡された(2018年3月26日)。一部の例外を除いて市町村議会は、同様な権限と組織を有している(町村のみ議会に代えて町村総会が設置可能(自治法94))。それが今回、小規模市町村に限ってといった限定を付した上で、一般の市町村とは異なる権限・組織を選択することができるという、地方自治史上、特異な提案がなされた。
本稿では、この報告書について批判的に検討することになる。ただ、報告書について、議会像を明確にしたこと、従来不可能だった法律改正が可能となること、抽選制で選出された議会参画員が議会の議論を補完すること、さらに極め付きは、選択制によって地方自治制度が多様となること、といった好意的な論評も出されることだろう。
また、研究会委員(研究会では構成員と呼称)には、町村や町村議会の改革を支援した者もいる。きっと、町村や町村議会にメリットとなる改革が提起されるはずだという「淡い期待」があったことも知っている。
緊急に研究会が設置され、何とかしたいという研究会委員による熱き、しかも「刺激的な」議論が行われ、当初想定した回数を超えた慎重審議が重ねられたことは承知している。それにもかかわらず、その報告書は今後の住民自治、地方議会にとって大きな問題をはらんでいる。「選択制だから目くじらを立てることはなかろう」という方もいるだろうが、行論で明らかになるように、住民自治の問題として考えるべきである。この報告書の内容がすぐに制度改革に向かうわけではない。大きな改革となることから、地方制度調査会の設置とそこでの議論を踏まえる必要がある。報告書はあくまで、1つの研究会のものである。それにもかかわらず制度化に向けて動く可能性が高いものだと考えられる。
そこで、本稿では報告書の問題点を検討することにしたい。同時に、議員のなり手不足(以下「なり手不足」という)の解消をめぐる現場の試み、そして現場からの提案についても確認したい。これがまさに正攻法だからである。
なお、研究会の名称は「町村議会のあり方に関する研究会」であるが、この報告書は町村議会にとどまらず、「小規模市町村議会」が対象となっていることには注意していただきたい。なお、以下本稿では、小規模市町村議会を断らない限り「議会」と略記する。
〈目次〉
はじめに──報告書への期待?──
1 研究会設置の目的と報告書の概要
(1)研究会設置の背景と目的
(2)報告書の概要
2 報告書の基本的問題
(1)「国からの改革」、「集権制」、「行政体制強化」
(2)「議事機関」の軽視
(3)2つの議会は住民自治を推進するのか 〔以上今回〕
3 実現可能性からの問題と留意点
(1)パッケージの要素の連動性の疑問
(2)集中専門型の非現実性
(3)多数参画型の非現実性
(4)なり手不足解消策の非現実性
4 なり手不足を考える上での報告書の違和感
(1)現場からの声には応えず
(2)町村総会の非現実性という違和感
(3)小規模市町村に限定する違和感
(4)先駆議会が目指す議会
5 なり手不足問題の正攻法
(1)なり手不足の要因
(2)なり手不足解消の正攻法
6 小規模議会のゆくえ──さらなる一歩:多様な議会の創造
(1)なり手不足解消のもう一歩:地方議会間連携と法律改正の提言
(2)広範な制度改革に──「拡張性」のさらなる拡張を
(3)全国町村議会議長会や全国市議会議長会等からの異論 むすび