大津市議会局次長 清水克士
二元代表制を災害から守る議会BCP
「災害時に議員にできることなんかないよ」。これは、大津市議会が策定した議会BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)について、私が説明したときの、ある地方議会議員のコメントである。また、「災害時まで議会対応などやっていられないよ」との意見も、ある執行部職員から聞いた。だが、地方議会は二元代表制の一翼を担う立場にありながら、本当に非常時には何もできない存在なのだろうか?
確かに、議会が合議制機関であるがゆえの弱みが、非常時には顕在化する。それは、非常時対応においては強固な指揮命令系統下における迅速な意思決定と直営対応力などが必要とされるが、議会はそのいずれも持ち合わせていない組織だからである。議事運営以外における指揮命令系統を持たず、合議制であるがゆえに意思決定に時間を要し、執行権もないなど、非常時対応を主任務とする自衛隊、警察、消防などの組織の特性と比べれば、その違いは一目瞭然である。
だが、一方で憲法93条に根拠を置く二元代表制については、平時だけのものとはされていない。つまり、非常時だからといって、東日本大震災のときのような新年度予算などの重要議案の専決処分の乱発を許容する法的根拠はなく、憲法はどのような状態においても、議会が議事機関として正常に機能することを求めているのである。したがって、災害時には議会は無力、不要との思い込みは、「議会不要論」を是認することになり、地方議会にとってはまさに自殺行為である。
逆に、議会ならではの強みもある。そのひとつは、執行権がないことの裏返しとして、現場対応の責任者とはなり得ず、結果として目前の業務に忙殺されることなく、一歩先を見据えた復旧、復興策についての議論を始めることができることである。もうひとつは、多様な属性の複数の市民代表で構成されていることである。災害時には地域の代表としての動きや政党活動を通じての中央とのパイプ役を期待できる。そしてここに、非常時における議事機関としての機能維持に資する「議会BCP」策定の必要性がある。
議会BCPの必要性
先にも触れたとおり、議決機関としての機能維持の観点から、議会BCPの必要性が論じ始められたのは、東日本大震災の際に多くの自治体で、新年度予算が専決処分されたことによる。当時、地方議会においては、本来の意味での業務継続計画が策定されている例はなく、「議会BCP」と名は冠していても、その実態は自治体BCP策定の一環での「議会事務局BCP」であった。
別の観点からの必要性としては、議員からもたらされる被災情報を議会で集約して、執行部に伝えるということである。これは、災害発生時の基礎自治体議会議員は、自発的に地域対応に奔走して執行部に被災情報や地域要望を伝えることも多いが、それはすでに飽和状態にある執行部職員を悩ませることになる。議員からの情報は、被災地域全体での優先順位が高いものだけが伝えられるわけではなく、個々の議員の善意の行動が全体の災害対応には困難をもたらすという合成の誤謬(ごびゅう)が生じるからである。したがって、非常時における議員からの情報・要望は、議会で集約してから一括して執行部へ伝え、生きたものとなるようルール化することが重要である。
このように、法令や内部規範でも想定されてこなかった非常時における議会の行動指針を、議会BCPとして確立しておくことは、二元代表制を常に担保するとともに、災害対応の全体最適化のためにも必須である。
大津市議会BCPの概要
大津市議会における議会BCP策定の議論は、同志社大学大学院総合政策科学研究科の新川達郎教授に助言を受けて、大津市議会の政策立案スキームである「政策検討会議」で、「想定外を想定する」をキーワードとしたワークショップで行われた。
ポイントのひとつは、非常時における指揮命令系統を議会に確立したことである。議会は、正副議長といえども議事運営上の指揮権があるだけで、基本的に平等な関係の議員で構成される合議制機関である。しかし、多様な意見を慎重に審議して意思決定する仕組み自体が、迅速な決断が求められる非常時においては大きな弱点となる。
したがって、執行部の災害対策本部が設置されると同時に招集される「議会災害対策会議」でも、議長に他議員に対する指揮命令権を付与し、平時とは異なる迅速な意思決定に資する組織体制を構築している。組織体制の詳細は、議長を委員長、副議長を副委員長とし、全会派の代表者を委員として構成している。設置基準は、執行部の災害対策本部設置に連動させており、任務としては、議員の安否確認、全議員を議会へ招集するタイミングの判断、地域にいる議員からの被災情報の集約、市全体の被災情報の議員への提供といったところが主なものである。
だが、災害時に議員を招集するには課題があった。それは多くの場合、地方議会議員の立場については、議会の構成員と地域団体の構成員としての二面性があるからだ。このすみ分けをどうするかというのが、最初に議論となった。最も優先すべきは公選職としての議員としての立場であり、これについては代替性がない。同時に地域でも、自主防災会や消防団などで議員が幹部を務めている場合も多く、その立場を放棄してまで直ちに議会に参集することが必要なのかという議論である。
これについては、当初3日程度の初動期は地域団体の構成員として、4日目以降については状況に応じて議員としての立場を優先することで決着した。7日目までの中期については、本庁舎が被災した場合には、代替施設への本会議場移転を議会災害対策会議で検討し、状況に応じて全議員を招集する。後期1か月までは、必要に応じて本会議等を開催し、議事機関としての活動を再開。また、この時期には、執行部ではまだ当面の対応に追われていると想定されるため、政党所属議員については、党中央とのパイプを生かして、中央への復旧予算要望などをダイレクトにつなぐ役割を期待している。そして、1か月後には、議事機関としての平常活動に復帰させ、必要に応じて議決事件に追加している「復興計画」についても議論を始めることとなる。
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