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第8回 立場の鎧を脱ぎ捨てて

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公務員は本当に対話が苦手なのか

 私は拙著『「対話」で変える公務員の仕事』(公職研、2021年)の中で「公務員は対話が苦手」と書いてきました。
 精密機械のように緻密な業務分担によって多岐にわたる業務を正確かつ迅速に処理することを使命付けられた公務員たちは、自らの職務に忠実であろうとするあまり、業務領域を超えた越権や干渉を嫌い、これが「縦割り」の弊害を生んでいます。
 また、市民から求められる行政組織の無謬(むびゅう)性や公平性を過剰に意識するあまり、本来耳を傾けるべき多様な市民の意見への向き合いを不得手とし、公務員の仕事の進め方やその体質について、市民意見の傾聴や理解が十分ではないとの批判をよく受けています。
 しかしながら、冒頭に述べた人事異動への柔軟な即応性を見ると、実のところは公務員は「対話」に必要な資質を十分に備えた職業人であるとの見方もできるのではないか、私はそう考えるようになりました。
 なぜなら、公務員は変幻自在に立場、視点を変えることを求められ、それができないと務まらない職業であり、この客観視と立場の境界線を越えて自由に行き来ができる柔軟性をもってすれば、自分の仕事が他人から見てどう見えるのかを相手側の立場に立って考えることができるのではないかと思うからです。

公務員は対話が得意なはず?

 では、多岐にわたる業務分野を幅広く知るゼネラリストの育成を目的に人事異動で複数の分野での職務経験を積んだ自治体職員が、その時々の所管業務を領域を超えて互いに連携することができず「縦割り」のわなに落ちるのはなぜなのでしょうか。
 それは自らの組織の外側にいる相手方のことを理解することができないのではなく、その時点で自分が組織の中で置かれた立場を重んじ、与えられた役割を演じ切ることが自らの使命だという責任感の表れ。
 この職務への強い責任感こそが、外側に対するかたくなさとして表現され、それが「対話が苦手」という弊害を生んでしまうのではないでしょうか。
 「対話」は相手の立場や主張をありのまま許容することが必要ですが、それは同意することと同義ではありません。
 むしろ、相手方の立場や主張を理解することで、自分の組織の立脚点や理解してもらいたい主張を述べ、互いの主張の隔たりを縮め、溝を埋めていくことが可能になります。
 立場を変幻自在に操れる我々公務員だからこそ、自分の役割を脇に置きつつ相手の立ち位置に立ったり、第三者的な立ち位置で俯瞰(ふかん)的に眺めたりすることもできるはずだし、むしろ得意なはず。
 必要なのは、自分に与えられた役割に完全に没入せず、自分を別の立場から客観視するもう一人の自分を常に脇に立たせておくこと。
 頻繁な人事異動のたびにコロコロと立場や意見を変え、自分を自由自在に操ることができる私たちなら、日常的に二重人格でいることなど朝飯前のはずなのです。

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