地方議員が官民共創を手掛ける意義
官民共創というと、「行政と企業が話し合って進めるもの」というイメージが強いかもしれません。しかし私は、地方議員こそが官民共創のハブになり得ると考えています。
第1に、議員は執行主体ではないからこそ、フットワーク軽く新しいテーマをカジュアルに検討できます。行政は日々の業務でさまざまな案件を抱え、ゼロから新規事業を立ち上げる余力が限られていますが、議員は企業側にも踏み込んだ発言がしやすく、担当部署と企業の双方の事情を踏まえた「整理役」になることができます。議員があらかじめ構想を整理し、担当課との打ち合わせに同席しながら調整することで、行政職員にとっても動きやすいプロジェクトになります。
第2に、民間の知恵を借りることで、議員や行政だけでは思いつかない課題設定や解決策に気づくことができます。スタートアップやNPOなどのプレイヤーが加わることで、「その発想はなかった」というような論点が見えてきたり、新しい解決策を見いだすことができます。その結果として、地域課題の解決が加速されるのです。
第3に、議員は最終的な価値提供の対象である住民の利益を代表する存在です。高齢者、子育て世帯、働き盛りの世代、事業者など、日々受け止めている多様な声を官民共創の設計に反映できるのは、議員ならではの強みです。「この施策は本当に住民の暮らしを良くするか」という視点を、常に真ん中に置くことができます。
地方議員が官民共創を仕掛ける際の三つの壁
とはいえ、「官民共創に興味はあるが、一歩目が踏み出せない」という声も多く伺います。issuesで全国の議員の皆さんとお話しする中で、特によく出てくるハードルを三つ挙げてみます。
一つ目は、ジェネラリストゆえの専門知識不足です。地方議員は教育・福祉・産業・環境・防災などあらゆる分野を扱います。それゆえ、一つひとつの政策課題について所管部署を動かすだけの専門知識を短期間で身につけるのは簡単ではありません。
二つ目は、行政を動かす手法を議員側が十分理解しきれていないケースがあることです。予算は年度単位で組まなければならない、公平性や競争性を確保する必要がある、監査や議会での説明責任がある、多くの住民から税金を預かっている以上大きな失敗は許されない──こうした行政側の前提条件を踏まえ、議員の立場からさまざまな手法で担当部署や財政を動かしていく必要があります。しかし、当選回数の少ない議員ほど、どういう手法で行政を動かせばよいか分からず、「空回り」してしまうケースも少なくありません。
三つ目は、地元活動で出会う住民が偏りがちだという課題です。駅頭や地域の会合などで日常的に接するのは、高齢者や政治への関心が高い層が中心になりがちです。その結果、官民共創の際にサイレントマジョリティや若い無党派層の視点が抜け落ちてしまい、住民利益が十分に反映されないリスクがあります。
