政党内部に裁判所の判断は及ぶか
滝口〔弁〕 先ほど政党の話がありました。政党内部に裁判所の判断が及ぶことが必要な場面はあると思いますか。
松尾〔弁〕 例えば、職業的な政治行為の専従者が、除名や除籍という手続で排除されることがあります。形式的には自律的な内部処分ではありますが、「党員でなくなった。だから、あなたはクビだ」という事案。これでは争点にならざるを得ないでしょう。
渡邉〔弁〕 政党の事務局に労基署が調査に入ることがあると聞いています。司法権はともかく、少なくとも行政権は政党内部に立ち入ることはあり得ると思います。
松尾〔弁〕 紛争の実態は政党の内部自治というよりも、ハラスメント問題や残業代などの労働問題であることもあるでしょう。職業的な政治行為の専従者であっても、現代の問題に引き直すと、内部自治の問題で済ませてしまうのが本当に妥当といえるのでしょうか。
ハラスメント問題として争う方法
滝口〔弁〕 なるほど。松尾先生の問題意識としては、部分社会であれば内部はやりたい放題でよいのか。どのように救済を図っていくのかということですね。
内田〔弁〕 手続面で争うという方法があるでしょう。弁明や防御の機会があるのか。定まった手続に従っているのか。こういった手続面であれば、裁判所でも判断できるのではないかと思われます。
松尾〔弁〕 「ハラスメント」という概念が広く認められるようになってきて、一つの突破口になったように感じています。どのような部分社会であっても、ハラスメントは許されないはずです。
渡邉〔弁〕 スポーツの世界では、地位確認とハラスメントを組み合わせるというのは、実務的な争い方の工夫の一つといえます。
松尾〔弁〕 先ほどの大学の単位認定でいえば、戦い方として、単位認定が適切かではなく、アカデミックハラスメントということになるでしょう。
本当に裁判がよいのか
金岡〔弁〕 私には、そもそも、本当に裁判がよいのかという問題意識があります。裁判で白黒つけるのは最後の手段です。例えば、交通事故であれば、迅速に解決したいときには、裁判よりも紛争ADRの方が向いていると思います。
渡邉〔弁〕 残念ながら、裁判での解決には時間がかかります。スポーツの代表選考が争点となっているケースのような場合には、判断が出る前に大会が終わってしまうこともあるでしょう。それでは裁判をする意味がありません。処分を受けるとなるとオリンピックに出場することができないようなギリギリの案件もありますし、利害関係が絡むことだってあるでしょう。内部判断に委ねたときに本当に正しい判断ができるのでしょうか。
滝口〔弁〕 では、どのような方法で解決することができますか。
渡邉〔弁〕 スポーツの世界で当否が争い難いのであれば、双方の合意が条件となりますが、スポーツ仲裁という方法があります。また、スポーツ団体の中でも第三者的な処分機関を有している場合があります。即座に判断する仕組みがあれば、わざわざ裁判所に行こうということにはならないはずです。そのような仕組みがないから、裁判所で判断してもらおうかと悩むことになるわけです。紛争の形態に応じて、解決のためのルートをある程度仕分けできるはずです。
突き詰めると、内部自治とは何か
渡邉〔弁〕 内部の人がきちんとやっているからこそ、内部での判断が尊重されるという理屈が成り立つものといえます。本当の意味での横暴がまかり通るのはやはりおかしいので、たとえ仲裁が実施されるとしても、最終的な解決の途(みち)には裁判が残されていることは重要だと思います。
加藤〔議〕 確かに、自分たちの判断が検証される機会が残されているので、後になっても批判に耐えるよう緊張感のある判断を出そうということになるでしょう。
金岡〔弁〕 突き詰めると、内部自治というのは、「司法の力で解決する」というよりも「司法だったらどうなるかを参考に自ら解決する」ということだと思います。
おわりに
滝口〔弁〕 今回は、それぞれの参加者に強い問題意識がありました。司法権がわざわざ介入する必要もないような内部自治を実現していくことが大切だと思いました。議員と弁護士との相互理解がさらに深まることを祈念し、今回の勉強会を終わりにしたいと思います。
