2025.01.27 政策研究
第58回 組織性(その4):団体・法人・身体・機関
公共団体
自治体は地方公共団体であり、地方+公共+団体である。上述のとおり、団体については、人間の結合体を指すようであるが、自治体の場合にはいかなる人間──特に住民なのか職員(公務員)なのか──の結合体を想定しているのかは、いまひとつ判然としない。実感としては、首長と行政職員ということであろう。また、地方については、本連載(第10回~第14回)ですでに検討したところである。そこで、公共団体、又は、ここでの公共、とは何であるかを考えてみよう(11)。
公共団体とは、私的団体・民間団体ではないとしても、行政団体・統治団体・政府団体でもないという語感からは、直ちに、政府部門又は統治機構としての団体であるとは限らないような印象を受けるかもしれない。つまり、「地方行政団体」、「地方当局」、「地方政府」などと呼称しないのには、何らかの意味がありそうである。実際、自治体は、統治ではなく自治の領域、官ではなく公の領域、であるとすると、非政府的・非行政的な色彩を持っているともいえよう。また、地方官官制(6条)・市制町村制(各2条・各3章など)・旧地方自治法制では、公共事務と行政事務が区別されてきたように、公共と行政とは同じではないという見方もある。そして、例えば、政府部門ではない民間団体の中には、公益社団法人・公益財団法人などの公益法人や、公共法人(法人税免税法人)や公共放送や公共交通などもあり得るから、公共性が政府・行政の独占的な性格であるとは一義的にはいえない。
しかし、通常、公共団体とは、公権力の行使や強制設立・加入など、政府・行政としての性格を持つ団体を指すようである。逆にいえば、公共団体ではない通常の団体は、政府・行政としての性格を持たない。例えば、認可地縁団体の認可は、「当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない」(法260条の2第6項)とする。認可地縁団体は、「正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない」(同条7項)というように、単なる民間団体ではなく、区域に住所のある地縁住民の加入を拒絶できないように、政府・行政のような性格を持つにもかかわらず、である。
公共団体とは、実務上は、「国の下に、国からその存立目的を与えられ、公の機能を果たすべきことを認められた主体としての地位を有する法人」をいう(12)。団体であるとともに法人であることが想定されている。公共団体は、原則として国から独立して、公の行政を行うため国の定めた公共の目的の下に存在する団体であるが、公共団体の構成員の範囲及び加入又は脱退の事由、公権力の与えられる態様、国の監督を受ける程度等は、当該団体の存立根拠となる法令の規定によって異なる。
公共団体としては、一般に、地方公共団体、公共組合、営造物法人、独立行政法人が挙げられる、とされる。公共組合とは、土地改良区、土地区画整理組合、健康保険組合、水害予防組合等をいい、営造物法人とは、各種の公社、公団、事業団等をいう、とされる(13)。また、国家賠償法1条にいう公共団体は、同条の公権力の行使を委ねられた団体をすべて含むとされる。したがって、例えば、弁護士に対する懲戒権を行使する弁護士会も、そこでいう公共団体に当たる。法制上の概念は相対的なので、それぞれの法目的によって可変的であり、画一的な定義があるわけではない。
とはいえ、地方公共団体をその他各種の公共団体の中の一種とすることには、いささかの疑いがある。というのは、憲法に直接の制度保障を受けて、条文で明示されている地方公共団体と、その他の法律で設置されるにすぎず、憲法で明示されてもいない公共団体とでは、同じとはいいにくいからである。自治体は、「国の下」でもなければ、「国からその存立目的を与えられ」たものでもないのである。
(1) 法制上の正式名称である「地方公共団体」は、しばしば、一般的に「地方自治体」と呼ばれ、さらにそれが「地方」は不要又は不適切として、僭称(せんしょう)的に「自治体」に短縮されてきた。本連載も、あえて「自治体」という名称を作用している。なお、「地方公共団体」を省略して「地公体」と呼ぶことは、しばしば金融界で見られてきた。
(2) なお、「第3章 会計検査院規則」は、規則制定権限を定めたといえるので権限の一種であるが、そもそも、「会計検査院規則」という規範形式を創設する国会からの授権も含んでいる。
(3) 実際には、会計検査院情報公開・個人情報保護審査会も、組織である(19条の2以降)。
(4) 例えば、塩野宏『行政法Ⅲ〈第5版〉行政組織法』(有斐閣、2021年)は、以下のような目次構成である。
第四編 行政手段論
序 論 行政手段論の観念
第一部 行政組織法
序 章
第一章 行政組織法の一般理論
第二章 国家行政組織法
第三章 地方自治法
第二部 公務員法
序 章 公務員法制の理念とその展開
第一章 公務員法制の基本構造
第二章 勤務関係総説
第三章 公務員の権利・義務
第三部 公物法
第一章 公物法の意義
第二章 公物法通則
補 論 公物法論の位置づけと限界
つまり、行政組織は行政手段のうちの一つであり、行政組織は国家行政組織と地方自治からなるわけである。もっとも、宇賀克也『行政法概説Ⅲ─行政組織法/公務員法/公物法〈第5版〉』(有斐閣、2019年)では、表題のとおり地方自治法が切り離され、『地方自治法概説〈第10版〉』(有斐閣、2023年)として、独立している。
(5) 大森彌「大森彌の進め!自治体議会 議員になるということは法人の機関になるということ」議員NAVI 2016年6月27日号(https://gnv-jg.d1-law.com/article/20160627/6064/)。
(6) 宇那木正寛「自治体職員のための政策法務入門 第6回 自治体組織」自治体法務研究2012年冬号、107頁。
(7) 実際には機械化・電算化は可能である。例えば、住民票の写しの自動交付機では、人間を介さなくても、自治体の公証の意思決定はされる。市区町村長名で住民票の写しが発行されたとしても、市区町村長の肉体は不要であるし、市区町村長を補助する職員の身体も不要である。もちろん、機械を設置・維持補修する人間は必要ではあるが、ある程度は機械化がされている。AIや生成AIが発展すれば、自治体の意思決定をするときに、人間の身体は不要になるかもしれない。もちろん、責任を負うことは人間でなければできないという考え方はあるが、そもそも、対外的には自治体の決定の責任を生身の人間は負わないことが原則であり、団体かつ法人としての自治体が国家賠償責任を負うだけである。
(8) e-Govの法令本則検索で「団体」と入力すると3万件超がヒットするが、うち「地方公共団体」が1万7千件超と、多くが地方公共団体について用いられており、地方自治法に限られた現象ではない(https://laws.e-gov.go.jp/result)。
(9) 昭和24年2月7日九州各市議会事務局長会会長鹿児島市議会事務局長宛 自治課長回答。
(10) 図解六法。ホーム>用語集>団体・組織・結社・集会(https://www.zukairoppo.com/glossary-ketsugoutai)。法令用語研究会編『法律用語辞典〈第4版〉』(有斐閣、2012年)、高橋和之ほか編『法律学小辞典〈第5版〉』(有斐閣、2016年)。
(11) なお、自治体のことをシンプルに「地方団体」と称することもある。地方交付税法・地方税法での「地方団体」とは、都道府県・市町村を指す(地方交付税法2条2号、地方税法1条1項1号)。実は、普通地方公共団体と同じである。特に、地方交付税は特別区を直接の算定対象にせず合算算定しているので、このような限定には意味があるかもしれない。しかし、地方税に関していえば、特別区税が存在するので、準用・読み替えが必要になり、いささか不都合があろう。
(12) 福井市役所ウェブサイト「「公共団体」及び「公共的団体」、「公益事業」、「自転車利用サポーター」について」(https://www.city.fukui.lg.jp/kurasi/koutu/parking/jitensyasairiyou_d/fil/rist.pdf)。 新自治用語辞典編纂会編『新自治用語辞典〈改訂版〉』(ぎょうせい、2012年)。