トライアルアンドエラー
オンラインによる会議形式について、通信環境の不具合発生や意思疎通が図りづらいなど議事進行上の問題を指摘する声がある。しかし、実際の運用面においては一般的なミーティングとは異なり、必ず議長・委員長による指名を経てからの発言となることから、音声が重なることによる聞き取りづらさも発生しづらく、一問一答をはじめとする地方議会の議事進行はオンライン会議との相性がむしろ良いと感じている。
それでも、導入初期は想定外の通信トラブルや操作ミスが発生することもあったが、数回経験を重ねることでそれらの問題はほとんどなくなった。トラブルが発生したとしても、数分程度で解決できることに加え、出席者から議事進行上の異議が唱えられることもない。通信トラブル等によるリスクよりも、これまで育児や介護などを理由に議員としての発言の機会が奪われてきたことの方が、多様性のある議会を目指す私たちにとっては大きなリスクであるとの認識が、導入時より共有できていたからである。
手段としてのデジタル活用
登別市議会におけるデジタル化は、議員の業務効率性を高める手段として使われてきたことで、議員のデジタルマインドセットの醸成につながってきた。続いて、近年のオンライン質問をはじめとするDXに向けた取組は、「多様性のある議会」実現のための手段として運用されている。多様性ある議会の実現に向けては「女性のため」、「若者のため」との表現が目立ち、時にはそれが効率性を妨げたり、議員間の平等性を損ねたりするとの意見があるが、それは誤りである。例えば、傍聴規則から乳幼児の傍聴規制を廃止したことを受け、乳幼児が泣いた場合などの待機室として議会図書室にベビーサークルや絵本を新たに配置したが、先に紹介したとおり、今や議員が子どもと一緒にオンラインで委員会に出席する拠点ともなっている。一見すると女性・子育て世代向けに限定されがちな合理的配慮が、議会議論の機能を高める成果を生み出しているのである。
人口減少下でのソサエティ5.0は、省力化をさらに進展させる。デジタルネイティブの世代は地方・都市部問わず、これまでとは大きく異なる価値観を持って居住地を選択するようになる。同時に、議員のなり手不足や議員定数の減少は、住民自治の根幹としての議会機能が不全化する危険性をより高めている。その点において、様々な価値観や個性を受け止め、より多くの立場や意見、利害を包摂する機能は、これからの地方議会に不可欠なものとなってくる。私たちにとってオンライン会議は単に合理性や利便性の向上にとどまるものではなく、多様性あふれる地域社会の価値観に近づく効果的な手段であり、多様な人材による公平な議論を保障することで、住民自治の根幹たる議会として機能するための仕組みなのである。