オンラインで目指す多様な議員活躍
登別市は人口約4万4,000人、市議会議員定数19人。自然湧出量1日1万トン、九つの種類の泉質が湧くという世界的にも珍しい温泉地で、国内外から年間約400万人の観光客が訪れる、観光業を基幹産業としている。一方で、横長の地形において温泉地域と反対側に位置するのは、重化学工業で栄える室蘭市のベッドタウンとしての機能も有している。
かねてより、議会改革には熱心に取組を続けており、その原点はデジタルを活用した業務効率の向上にある。高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が成立し、インターネットの普及が本格化し出した2001年に「IT推進に関する特別委員会」が設置され、議会活動におけるデジタル技術の活用について議論が始められた。その後、全議員へのPC貸与・メールアドレス付与、例規集データ化、ホームページ作成などが行われた。
一般企業でのデジタル化創成期に、早くも議会としての取組が行われたのは、構成員にいわゆるサラリーマン議員が多い背景があると私は考えている。先に述べたとおり、登別市は室蘭市のベッドタウンとしても機能していることから、歴代議長には企業・労働組合推薦議員が多く、結果的に企業人特有の成果主義的思考の強さが、効率性向上につながるデジタル技術の導入を推し進めることに貢献したのである。このことは、導入当時からPCの議場持ち込みを認め、議員たち自身が行政とは別の独自アカウントによりホームページを作成するなどの行動に表れている。
その後、議場にモニターを設置し、グラフや写真等の資料を掲示しながら一般質問を行ったり、各常任委員会の重点活動テーマを設定した活動計画書をデジタル作成したりするなど、PCを「道具」として活用するマインドが、実践的活動を通じて登別市議会には形成されるようになっている。
オンライン委員会・一般質問の導入
2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の流行は、急速かつ強制的に社会全体のデジタル化を進めた。行政機関においてはテレワークやオンライン授業など、従来利活用が十分ではなかった分野でも一気に導入が図られたことにより、登別市議会でもこれまでのICT活用からDXへと段階を進められる可能性が広がった。
同時期に、登別市議会では議長選挙が行われ、就任希望者であった私はコロナ禍における議会運営についてのマニフェストを本会議演説の場において提示した。その内容は、これまでの仕組みづくり優先の議会改革から脱却し、目的と成果を明確化しようとするものであった。具体的には、若者や女性など様々なバックグラウンドを持つ議員が一層活躍できる「多様性のある議会」を議会改革のコンセプトとすることと、いずれ終息するコロナ禍を見据え、議会活動の復興加速にデジタルを活用することを提案した。
これを踏まえ、議長就任直後より、まずはオンライン委員会の実施に必要な委員会条例の変更を提案。議会運営委員会での協議を行う際、特に意識するよう呼びかけたのは、短期的なコロナ禍対策としてのオンライン会議ではなく、将来にわたり多様性のある議会活動を支えるための制度設計とすることであった。結果的に、委員会条例においては感染症まん延防止措置の観点のみならず、大規模災害発生時、育児、介護、その他やむを得ない場合にオンラインでの会議出席を可能とする幅広いものとなった。
実際の運用面においても、新型コロナ感染症の罹患(りかん)・濃厚接触による隔離者が利用するほか、子育て中の女性議員が子どもの発熱により保育所を利用できない際に、自宅から介護をしながらオンライン出席するようになった。さらに、子連れの住民傍聴者向けに議会図書室に設置していたベビーサークル・絵本等を活用して、議員が子どもを抱きながらオンラインで委員会に出席した事例もある。これは、自宅からのオンライン出席だけでは議員同士の意思疎通が十分に図れない場合があるとの当事者議員の意見を踏まえ、委員会室隣の議会図書室から出席することで、休憩時間を利用した議員間協議がスムーズに行えるようにしたものである。
続いて、2023年2月、総務省からの助言通知「新型コロナウイルス感染症対策等に係る地方公共団体における議会の開催方法に関するQ&A」にて、本会議の場で行う質問については法律に具体的な規定がないため、自治体が規則として定めればオンラインで質問することは可能との見解が出たことから、議会運営委員会での協議を経て、2023年9月定例会でオンライン質問を可能とする会議規則改正を行った。これにより、疾病、育児、看護、介護、配偶者の出産補助その他やむを得ない事由のため欠席する際は、議長への届出によりオンラインで質問をすることができるようになった。同年12月定例会では早速、妊娠中の妻と娘がインフルエンザに罹患したとして、介護と育児を理由に男性議員が自宅からオンラインによる一般質問を行っている。
具体的には、三脚にオンライン会議用カメラを設置し、答弁者に合わせてカメラ方向を手動で調整、すでに議場に設置されていた資料提示用モニターに質問者を投影、本会議場音響システムにオンライン用集音マイクを接続した。ちなみに、導入コストはウェブ会議用カメラ7,480円と集音マイク3万8,500円、ウェブ会議サービスライセンス(年間)3万6,300円を本会議・委員会共有とした。Wi-Fiを含むPCの使用環境がすでに整っていたことに加え、汎用的な民間クラウドサービスを主軸に構築したことで、安価かつ省力で実現した。
オンライン一般質問を行った議員からは「入念な準備が無駄になることなく、訴えるべきことを伝えられた」、「これからの議会活動においても、何かあれば支え合えることに家族は安心感を持っている」との感想が聞かれた。あらかじめ環境・制度整備を行っておいたことで、発言の機会を失うことなく、子育て世代の議員だからこそ持ちうる価値観を政策提案に生かせたことは、議会にとっても有用であったと感じている。