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2024.08.26 リーガルマインド

第14回 インフラ整備のあり方から条例の見直しを考える(宮古島市水道事業給水条例事件)

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断水はなぜ起きたか

上村遥奈〔弁〕 そもそも、今回の断水はなぜ起きたのでしょうか。
尾畠〔弁〕 断水の原因は、ボールタップの支柱が破損したことで配水池への流入量が制限されたことにあります。
千葉〔弁〕 トイレの水槽の中に入っている、あれのことですね。ボールタップが壊れることがあるのですね。
尾畠〔弁〕 破損したボールタップは、昭和53年頃に設置されて以降、交換されることなく約40年にわたって使用されていたものです。長年の使用による経年劣化が破損の原因だと思われます。
千葉〔弁〕 老朽化した設備の管理の問題ということですね。

設備の管理はどうあるべきか

加藤拓磨〔議〕 私は議員の前職では、水関係の仕事をしていましたので、水道事業の前提を説明させてください。例えば、東京都の場合、水道管は2万7,000キロという地球の半分の長さがありますが、漏水率は2%程度です。漏水率の低さは世界トップレベルであり、誇るべき技術力です。しかし、その一方で、設備の維持にはコストがかかります。今回の断水のようなケースも起きており、水道料金を上げる口実にもなりかねません。どうやって維持管理していくのか、今日は議論したいところです。
滝口〔弁〕 当たり前の話ですが、インフラの維持管理のためにはコストがかかるかと思います。インフラというのは、100%に近い形で維持管理すべきなのでしょうか。
石田慎吾〔議〕 もちろん、財源は無限ではありません。一定の負担は求めざるをえないとしても、現実的にいうと、メリハリをつけていくことになるのでしょう。
尾畠〔弁〕 予算を含めて限りある資源をどういう形で分配するのか。そこは基本的な考え方だと思います。
滝口〔弁〕 メリハリのある水道施設の維持管理のためには、どのような方法が考えられるでしょうか。
尾畠〔弁〕 水道事業者に対し、アセットマネジメント(資産管理)の手法を取り入れ、水道施設の更新を計画的に行うことが、近年ますます推奨されているものといえます。
滝口〔弁〕 アセットマネジメントの手法では、どのようなことを行うのでしょうか。
尾畠〔弁〕 考え方としては、施設の徹底的なリスト化を行い、施設ごとに重要度をランク付けした上で、それを予算に落とし込んでいく。その中で、徹底的な記録化をしていくということになります。
渡邉〔弁〕 記録化は裁判での立証に役立つでしょう。例えば、点検漏れがあれば、そのことは過失の裏付けになりますね。
尾畠〔弁〕 はい。記録化は裁判になったときには自治体側が立証責任を果たすためにも役立つでしょう。
又吉亮〔議〕 なるほど。記録化しておくことで、自治体側の防衛線を張っておくことにもなるのですね。
千葉〔弁〕 実際のところ、行政に設備点検の記録が残っていないということがあるのですか。
尾畠〔弁〕 残念ながら、実際に見受けられるところです。裁判への備えも大事ですが、平素から行政は市民への説明責任がありますので、やはり記録化はやっておくべきです。
滝口〔弁〕 アセットマネジメントの手法を取り入れるために、何か根拠規定などはあるのでしょうか。
尾畠〔弁〕 厚生労働省は平成21年7月に「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」と題する水道事業者向けの手引書を作成・公表しているところです。なお、現在では、水道行政は厚生労働省から国土交通省と環境省に移管されています。
滝口〔弁〕 ほかにはありますか。
尾畠〔弁〕 平成30年法律92号により水道法が改正されて、令和元年10月1日に施行されています。この改正では、水道事業者等に対し、省令の定める基準に従って水道施設の維持及び修繕をしなければならないこと、長期的な観点から水道施設の計画的な更新に努めなければならないことについて、明文の規定が置かれました。
加藤〔議〕 先ほどのアセットマネジメントの話でもありましたが、かつての右肩上がりの社会情勢からだいぶ変わってきています。小学校の建て替えとか、お金がなくて何の根拠もなく耐用年数を延ばしていることもあります。維持管理という考え自体が、行政全体に全くない。こういう裁判例から学んで、アセットマネジメントのようなマインドを行政にも持ってもらいたいと思います。
滝口〔弁〕 行政が先か、司法が先かという話にもなりますが、今回の判例が一つのきっかけになればいいですね。

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