3 見直されるべき自治会・町内会の仕事
普通の団体ならば、このような広報と勧誘は基本的な活動なので、それなりの力を割くのが当たり前である。ところが、自治会・町内会がそうでなかったのは、これまで慣習に頼っていたこともあるが、他にやることが多すぎるからである。
自治会・町内会の仕事の多くは、自治体行政からの依頼に応えて、様々な協力を行うことである。ごみ集積所の設置と管理、街灯の管理、広報の配布や自治体からのお知らせの配布、防災訓練への参加動員、様々な行事への協力、それ以上に高齢化した役員層への大きな負担になっているのは、様々な行政関係の会合への出席である。お祭りなどの地域の行事を取り仕切ることも、役員が高齢化してくると、負担の大きいものになってくる。
そこで自治会・町内会の仕事を見直し、いく分かでも減らすことができないかということが課題になってくる。外部の要請に基づく依頼仕事ではなく、自治会・町内会の組織を維持していくための基本的な業務に役員がもっと注力できるようにすべきであろう。
そのためには、改めて自治会・町内会とは何のために存在しているのか、どんな役割と意義があるのか、ということを見極める必要がある。それはそのまま、若い世代に参加を呼びかける際に、どう説明するのかということとも関連している。
そこで、次に自治会・町内会の存在意義について考えてみたいのだが、その前に自治会・町内会が他の市民団体と、どのように異なるかについて確認しておきたい。
4 全戸加入原則という自治会・町内会の特質
自治会・町内会の一番の特徴は、全戸加入原則と呼ばれる特質にある。全戸加入原則とは、実際には全戸が加入しているわけではないが、全戸が加入していることを前提に、あるいはできれば全戸が加入してくれることを望んで活動していくという意味である。戦後の自治会・町内会は、その大半が規約上は任意加入になっている。それでも、活動はつねに特定地域の住民全戸のために行うことが原則となっている。それゆえ好きな人が好きなことをやるというわけにはいかない点に、自治会・町内会の活動の難しさがある。同時に、各戸に対する直接のメリットがあるとは言いにくい理由がある。
なぜ、そんな不思議な民間団体ができたかについては、ここでは述べられないが、いずれにせよ、それはいわば地域住民の誰にとっても必要な、公的な活動を目的としているということになる。それゆえ自治会・町内会は行政に積極的に協力し、行政もまたこれを当てにするのである。実際には全戸加入ではないにしても、全戸加入を前提に活動している団体ということで、行政は自治会・町内会を住民を代表する団体とみなすことができる。事実、衰えたとはいえ、住民の半数近くを組織している団体など、自治会・町内会以外に存在しない。
これは自治会・町内会にとって強みであると同時に弱みでもある。公的な意味づけをもちやすいというのは、他の団体に比べて特質すべき点だが、その分、構成員の関心を活かした自由な活動がやりづらい。自分の好みよりもまずは地域のことを考えて、自分の関心は二の次になるので、どうしても奉仕的で義務的な活動になってしまう。奉仕活動が好きだという殊勝な人はあまり多くないので、慢性的な担い手不足になりやすい。
そんな特質をもつ自治会・町内会の役割と意義は、どこにあるのだろう。
5 自治会・町内会の役割と意義
自治会・町内会の活動が、地域住民すべてにとって必要な、行政と同じ公的な性質をもつことがわかっただろう。それは全戸加入原則という特質から生じる必然的な性質である。単なる民間の任意団体にもかかわらず、そのような特質をもった活動を続けてきたのである。そのうえで現在でも多くの住民を組織している。このような市民団体は、考えてみれば、大変貴重な存在である。行政にとっては進んで自分たちに協力してくれるのだから、こんなありがたいものはない。そうすると逆に、自治会・町内会の意見や要望ならば、行政はそうむげに扱うわけにはいかないことになる。事実、昔は個人で行政に文句を言っても相手にされず、自治会・町内会を通すように言われたものである。
とすると、これまであまり注目されることはなかったが、自治会・町内会の一番の強みは、住民の総意として行政に要請ないし要求ができる点にある。通常あまりそのような必要がないので、日頃は一方的に自治会・町内会が行政に協力しているだけのように見えるのである。つまり、自治会・町内会の一番の強みであり、住民にとってのメリットは、いざというとき行政との交渉をスムーズに進められる窓口になりうるということである。ただし、それはいざというとき、何か問題が起こったときのことなので、日頃は直接のメリットを感じることが難しい。いざというときスムーズに住民同士の意思疎通が図れるように、日頃から親睦活動を通してコミュニケーションを図り、行政とも連絡を密にしているのである。そして何より、より多くの住民が日常的に自治会・町内会に親しんでおく必要がある。それゆえ、最低限、会費を納めて会員になってもらうということが、何より重要な活動であるべきなのである。