株式会社選挙テックラボ代表/センキョタイムズ編集長/九州大学客員助教 大井忠賢
1 2016年のトランプ大統領誕生とSNS選挙
SNSの広がりが選挙のあり方や当選人の変化を生み出しています。
世界的な潮流でいえば、2016年のアメリカ大統領選挙とトランプ大統領の誕生は、その象徴的な出来事でした。
ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選出された際、多くのアメリカ国民はその勝利を予測できず、大手のメディアですら「隠れトランプ」の存在を見抜けなかったほどです。トランプ陣営が従来の選挙運動にとどまらず、SNS(特にTwitterとYouTube)を積極的に活用し、成功したことがその大きな一因でした。
今となっては、多くの政治家が活用しているX(旧Twitter)ですが、当時、トランプ氏は、そのはしりでした。政策や政治的メッセージを「素早く・頻度よく・ダイレクト」に有権者へ伝えるというトランプ流の情報発信で、多くの有権者ニーズを捉え、トランプ支持が拡大するという、好循環を生み出しました。
一方で、マスメディアはその存在感を著しく毀損することになりました。これまでのマスメディアに依存した政治活動は一変。政治家は世間に対して直接的に情報を発信できるようになったからです。
この風潮は今後も加速します。実際に、日本国内では、ここ20年で新聞の発行部数は半減し、夕刊やスポーツ紙の廃刊も目立ってきています。
選挙運動はさらなる変革を迎えます。世襲政治が主流だったこれまでの日本の政治家のあり方とは全く異なる、新たな政治家像が台頭します。その代表格がYouTuberやインフルエンサーです。
2 国政におけるYouTube選挙
YouTubeは、情報発信のプラットフォームとして急速に台頭し、政治家の選挙運動にも大きな影響を与えています。
日本では、NHK党の立花孝志氏、ガーシー氏、参政党の神谷宗幣氏など、多くの政治家がYouTubeを積極的に活用し、支持を集め、当選に至っています。彼らのYouTube選挙運動は、令和時代の新しい政治家像を提示するモデルとなりました。
YouTubeもX(旧Twitter)同様にスピーディな情報の拡散が可能なのですが、これ以外にも選挙運動において様々な利点をもたらしています。
(1)直接対話と情報発信の手段としてのYouTube
既存のマスメディアではなかなか実現しにくかった政治家と有権者の双方向の対話が、YouTubeを活用することで実現しています。場合によってはリアルタイムの会話形式による質疑応答も行われています。
個々の政治家の政治活動全般が可視化されることで、政治家にも有権者にもメリットがもたらされています。
(2)ユーザーが選択する情報の収集と政治参加
YouTubeでは、ユーザーが興味を持つコンテンツを選択的に視聴できるため、多様な政治的立場や意見にアクセスすることが可能です。これにより、多くの人々が政治に関心を持ち、選挙に参加する契機となっています。
(3)若年層へのアプローチ
2022年の「小学生が将来なりたい職業ランキング」(進研ゼミ小学講座)では、1位がYouTuberとなっていますが、若年層を中心としたレイヤーにユーザーが多いというのが特徴でもあります。
これが何を意味するか。10年後には彼らは有権者となるわけで、今後ますます、選挙や政治におけるYouTubeの存在意義が増してくるといえます。
2023年現在、YouTubeは政治家にとって新たな情報発信のプラットフォームとして不可欠な存在となりつつあります。従来のメディアに頼らず、直接有権者との対話を通じて新しい政治家像を提示する一方、多くの有権者に政治に関心を持たせ、選挙に参加する契機を提供しています。