ただ……先立つものがないと選挙に出馬しづらい時代
日本は寄附の文化が乏しい国だと思う人は少なくないと思います。ふるさと納税が返礼品競争で過熱していることはその典型だと思いますし、地方で選挙に熱心な有権者であっても「選挙運動は手伝うが、立候補者に寄附することはない」という人が少なくないでしょう。戦前の地方議員は名誉職で、生活に余裕がある名望家を想定した制度でした。寄附をしてもらう必要がない人たちが地域や組織・団体に推されて議員になる、という構図だったと思います。それが今でも残り、日本の一般の有権者は「身銭を切って選挙をすべき」という雰囲気が主流のように思います。
衆議院の選挙制度が中選挙区の時代では、与野党ともに国会議員と地方議員の間で系列を形成し、相互依存の関係をつくっていました。しかし、1990年代になると政治献金の規正、そして政党助成制度の創設によって、国会議員と地方議員の間の系列は解体していきます。国会議員は中央重視となり、地方議員に寄附して選挙を支援するという風景も少なくなりました。
日本では、議員報酬は抑制されていますし、「非常勤の特別職」ですので社会保障は国民健康保険・国民年金です。その状況下で、安定した職業を捨てて地方議員になろうという人を増やすことは容易ではありません。またそうした環境が、不祥事を生む原因ともなっています。政務活動費不正問題で議員が相次いで辞職した富山市の事例では、不正のきっかけの一つが議員年金廃止だったそうです(4)。
郡部では「かばんは選挙に有利」どころではなく、一定の資産がある人か、強い志を持つ人しか立候補できない時代になっているといえるでしょう。
政治献金を厳しく規正すると、選挙に立候補しようという意思のある人に寄附をする人は少なくなります。1990年代の政治改革にはそうした側面があり、結果的に選挙に立候補するための原資を集めにくくする副作用が、地方議員のなり手不足といった形で顕在化していると思われます(5)。
地方自治法89条が改正され、地方議員は「住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」存在と明記されました。住民の負託を受けて仕事をする議員が非常勤の特別職でよいのかも含め、かばんに係る課題について議論する必要があると思います(6)。
(1) ただし、告示後に一生懸命インターネット選挙運動をしても効果は乏しいという指摘もあります。インターネット選挙運動は付け焼き刃的にやるのではなく、政治活動期間中に地道にフォロワーを増やすことが肝要のようです。
(2) 2021年度末実施。市区議に対しては悉皆(しっかい)郵送調査(回収率は40.6%)、町村議に対しては6県(宮城・福島・石川・福井・山梨・熊本)の議員を標本とする郵送調査(回収率は46.1%)。調査は、KDDI財団の助成及び科研費(20H00059)を利用して実施しました。
(3) 関連して、河村和徳「地方議員のための選挙トリビア 特別講義 統一地方選挙を検証しよう」地方議会人2023年8月号、28~31頁などを参照。
(4) 「議員年金廃止、老後に不安 飲み代、一晩で何万円にも 富山市議辞職の元議長」朝日新聞2016年9月19日。
(5) 関連して、河村和徳「地方議員のための選挙トリビア 連載第1講 世界と日本の『選挙の哲学(フィロソフィー)』」地方議会人2022年5月号、44~47頁などを参照。
(6) これに関しては、河村和徳「地方自治法89条改正から導かれる地方議会改革の方向性─デジタル化を射程に入れて」自治実務セミナー2023年10月号、14~19頁。