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特集 今どきの選挙運動

2023.10.11 選挙

昭和から令和へ……変わる、地盤・看板・かばんの今

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コロナ禍は組織依存の選挙を難しくした

 2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、選挙運動に大きな影を落としました。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、3密(密閉・密集・密接)の回避が奨励されたからです。
 そもそも日本の選挙運動は、密を前提にしている部分がかなりあります。例えば、有権者との握手は票固めの一番の手段といわれますが、敬遠されるようになりました。選挙につきものだった決起集会も開けませんでしたし、開こうものならバッシングを受ける雰囲気でした。
 筆者がコロナ禍の選挙で興味深かったのが、後援会幹部のようなコアな支持者の周辺にいる有権者の動向でした。彼らはコアな支持者の働きかけがあって、投票先を決める傾向があります。彼らにコアな支持者が働きかけをきちんとでき、彼らがそれを受け入れれば予想した票が出てきます。しかし、コロナ禍はこのプロセスをやりにくくしました。コアな支持者が高齢であればあるほど普段のような働きかけができず、また彼らの周囲の人が高齢であればあるほど働きかけを断る確率が高かったと思います。
 新型コロナウイルスの感染が全国に広まった2020年から2023年統一地方選挙あたりまでの地方選挙を振り返ると、組織・団体から幅広く支持を得た現職候補や多くの当選回数を誇ったベテラン候補が落選した事例が平時に比べ多かったと思います(3)。ある選挙で票読みに定評のある政党の候補が大量に落選したのも、コアな支持者の周囲にいる有権者への働きかけが平時どおりでなかったことが影響したのだと思います。
 すなわち、地盤があっても機能しない可能性があることをコロナ禍の選挙は示したと思います。
 もちろん、陣営の中にはそうなる可能性があることに気づいていたところもありました。ただ、組織戦に依存した選挙戦しかしたことがないのか、とんちんかんな空中戦やサイバー戦をする陣営も見受けられました。
 例えば、ある選挙を調査した際、えっと思うような場所で辻立ちをしていた陣営がありました。そこはどこかというと、主要国道のバイパス沿いです。辻立ちには顔と名前を売るという基本があり、駅前など、人がゆっくり歩くところでするのが一般的です。車がひっきりなしに通るバイパスで辻立ちをされても、顔ものぼり旗の名前も認識できません。おそらく辻立ちをしたことがないか、基本が分かっていないのか、どちらかだろうと思いました。
 コロナ禍で人が集まって支持掘り起こしのための電話かけをすることができないため、オートコールを利用したという陣営がありました。この陣営には二つの誤算がありました。一つは、オートコールで投票依頼をしたら「誠意がない」とかえって不評を買ったことです。もう一つは、高齢者を中心に電話になかなか出てくれなかったことです。当時、アポ電強盗が多かったため、「知らない電話に出ないように」との警戒が背景にあるようです。
 インターネット選挙運動でも誤解がありました。インターネット選挙運動といいますが、告示後からSNSを始めても効果はほとんどありません。よほど世間の耳目を集める候補でないと、告示後にフォロワーになる人はほぼいません(告示後にフォロワーになるのはマスコミ若しくは学者、という声もあります)。組織戦ばかりをしてきた陣営の中には、政治活動段階でフォロワーを増やすという基本が分かっていないところもありました。


 

令和の地盤・看板づくりに求められるもの

 ただ、組織選挙が難しくなったことが可視化されたのはコロナ禍でしたが、そもそも後援会などの地盤づくりが難しくなっている点も指摘しておかなければなりません。
 地盤づくりが難しくなっている一つの背景にあるのが、個人情報保護に関する法制度の整備と人々の考え方の変化です。かつて、後援会を形成する上で手っ取り早かったのが名簿の入手でした。町内会や自治会といった地縁組織の連絡網はもちろんのこと、中学・高校の卒業生名簿や社員名簿、業界団体の会員名簿は後援会の組織形成に極めて有効でした。しかし、個人情報保護の法制度が整備され、個人情報を入手することは困難になりました。また、目的外使用されることを警戒し、それらの名簿に個人情報を掲載することに抵抗を持つ有権者も増えました。
 このような時代では、後援会組織というリアルなものを追求するだけではなく、選挙区外も含め社会的なネットワークを広げるという両にらみの選挙戦略が必要なように思います。
 仮に地盤が強固であったとしても、特定の層に偏っていれば組織的な新陳代謝が機能せず、また新しい選挙環境に適応できません。私には「地盤が強固すぎる陣営の後援会組織は高齢男性ばかりでネットに疎い」という印象があります。過去の経験も大事ですが、インターネット選挙運動の部分は若手に任せるという発想は必要でしょう。「若造のくせに」、「女のくせに」という言葉がまかり通る後援会組織では先行きは暗いと思います。
 自治体の外にネットワークを広げることは、「選挙の票に直接つながらないのでムダ」と思う人がいるかもしれません。しかし、選挙の得票に直接はつながらないけれども、政策形成などのサポートにつながる可能性もありますし、そのつながりが様々なネットワークを経由して自治体内の支持者を増やす結果につながるかもしれません。
 新しい技術を導入し、自治体の内外を含め新しい仲間を増やしていく努力が、令和の地盤・看板づくりの鍵なのではないでしょうか。


 

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