仮に開発事業者が廃業や事業撤退した場合でも、他の事業者や、職員のみでも保守が継続できるよう、ノーコードツール(プログラミングのスキルがなくてもシステムが構築できるツール)を利用して開発を行い、専用アプリの利用料を町が負担して町内39の自治区へ配布した。
ノーコードツールは、開発期間やコストがそれほどかからず、比較的容易にシステム開発が行えることから、企業内の業務改善や効率化を社員が自ら行う場合に利用されることが多い。
今回、町内全ての自治区でノーコードツールが利用できるようになったことで、今後、新たなツールを追加配布することも可能になった。町全体を一つの組織と捉えれば、他の自治体や企業が組織内の効率化や業務改善のために作成したツールを利用していくことも可能であり、業務の効率化に有効ではないかと考えている。
ノーコードツール上で様々な業種や業務で作成されたアプリを入手することができる
LINEへの情報配信開始から約半年後には、効果測定のための住民アンケートを実施した。
自宅にいなくても情報が確認でき、読み返しができる点を評価する住民が多く、サービス継続を望む声は9割を超えた。
聴覚に障がいのある方や耳の遠い高齢者への情報伝達、翻訳アプリと連動させれば外国人への情報伝達にも有効であるとの意見もあった。
一方で、LINEによる告知放送があっても、現行告知放送システムのサービスは廃止せず継続してほしいとの意見が5割を超え、地元ケーブルテレビのアナウンサーや、自治区役員等(同じ人が長年アナウンスを担当する自治区もある)の肉声アナウンスを生活の一部として、愛着を持って利用している住民が多いことも分かった。
【寄せられた意見の一部】
「長い間聞き慣れており、放送を聞くと安心感が得られ、イベントにも参加してみようと活動意欲も湧く」
「昔から身近にあって親しみがある。なくなるのは本当に嫌」
「地域のニュースなど、長年愛着を持って使ってきた。新しいものの導入は情報弱者を生むこともある」
DXとは、「デジタル技術を用いて、社会の変革や新しい価値観を生み出すこと」であり、「効率化を目的にデジタル技術を活用する」ことではない。
これまで進めてきたことは、「単なるデジタル化」になっていなかったか、効率的、便利というだけで、それを望まない人への押し付けになっていなかったか、などをもう一度よく考える必要があると感じた。
また、故障対応等の保守については、現行告知放送システムは、放送設備~町内伝送路~宅内の配線~受信端末までの全ての保守を、アナウンス業務と併せて地元ケーブルテレビ会社へ委託しているため、復旧までに要する時間が半日程度とサービスレベルが高い。
一方でスマートデバイスによる告知放送では、各家庭のインターネット環境や住民所有のスマートデバイスが不具合の原因の場合もあり、不具合箇所の切り分けが難しいため、住民はどの事業者に相談すればよいか迷い、解決までに時間がかかることが予想される。
これまでは電話1本で依頼できていた故障対応を、町がどこまでフォローできるかも懸案の一つである。
スマートデバイスによる情報配信は一定の評価を得ており、今後もサービスを継続していく予定だが、インターネットやスマートデバイスを使いこなせない住民や、愛着を持って現行告知放送システムを利用している住民のために、併せて現行告知放送システムの存続も検討していく必要がある。
「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」のためには、画一的に新しいものへの入れ替えや置き換えを行うだけではなく、これまでに培われてきた町の生活文化や豊かさを大切にし、年代やライフスタイルに応じた様々な選択肢を住民に提供していくことが重要であると考えている。