(3)議会内の政策検討の体制づくりと事務局の対応
議会の政策づくりで難しいのは、一部の議員や会派が政策づくりに熱心でも、他の議員が賛成しなければ前に進めないことである。特に議員は選挙等では相互にライバル関係にあるため、合意形成が難しい。ある議員・会派が政策提案に熱心でも、他の議員・会派は「あの議員(会派)の提案には乗れない」となりがちである(出る杭(くい)は打たれる)。そこで、政策検討の習慣や体制をつくる必要がある。
第1に、議会内で日常的に政策検討の習慣をつくることである。そのため、①会派を核にして政策づくりを進めること(会派内で定期的な勉強会を開いたり、継続的な調査研究を行う)、②委員会を拠点にして政策検討の習慣をつくること(委員会で講師を招いて勉強会を行ったり、議員提案条例をつくるための研究会を開催する)、③問題意識を共有する議員間で勉強会等を行うこと(政策課題を決めて継続的に研究会等を開催する)等の取組みが考えられる。議会で毎週のように勉強会・研究会が開かれ、議員は自由に参加・傍聴できるという雰囲気ができることが望ましい。
事務局は、こうした勉強会・研究会の開催について、開催計画の相談への対応、講師の人選・紹介、資料の調整等を担当することが考えられる。ただし、前述のとおり議員・会派間の公平に留意する必要があるほか、議員が勉強会等の「お客様」になっては逆効果になるため、こうした開催事務も中心となる議員・会派に担ってもらい、事務局は(議案にする段階で補佐する必要があるため)オブザーバーとして出席するという選択肢もあり得よう。
第2に、議員提案の政策を検討する場合に、適切な検討体制をつくることである。議員による政策案の検討体制には、①議員主導型(議員個人が政策案を作成し、他の議員の賛成を得て議会に提案する場合)、②会派主導型(会派が中心となって政策案を作成し、議会に提案する場合)、③検討組織主導型(議会内に会派横断型の検討組織を設置して政策案を検討する場合)、④外部連携型(外部の住民、NPO、有識者等の参加を受け、連携して政策案を検討する場合)が考えられる(礒崎 2017:122-124)。それぞれのメリット・デメリットを考えて、有効な体制をつくる必要があろう。
事務局は、議員や会派が政策提案(条例提案、予算案・計画案の修正等)や意見書・決議の提案をしようとする場合には、できるだけサポートすべきである。そのうえで、こうした検討組織をつくる段階になれば、議長等の指示の下で、事務局機能を引き受けることが考えられる。特に③検討組織主導型の場合は、講師の調整・依頼、資料の準備等を担当することが考えられる。
(4)住民・有識者の情報活用と事務局の対応
議会が政策形成機能を発揮するには、外部の情報や知恵を生かすことが重要である。冒頭に述べた「閉鎖型議会から協働型議会へ」の改革である。執行機関から提出された資料だけで審議するのでは、執行機関側の情報に限定され、これに依存せざるを得ない。情報は力である。議会は様々なチャンネルを使って情報を収集し、執行機関の提案が適切か、ほかに代替案はないか、検討できるようにする必要がある。
第1に、公聴会・参考人の制度を活用することである。地方自治法では、公聴会は「会議において、予算その他重要な議案、請願等について公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができる」ものであり、参考人は「会議において、当該普通地方公共団体の事務に関する調査又は審査のため必要があると認めるときは、参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる」とされている(115条の2第1項、第2項)。これらの制度は、自治体議会ではあまり活用されていない。特に参考人制度は幅広く利用できる制度であるため、もっと活用すべきであろう。
事務局は、参考人招致等の細則を整備し、予算を確保するとともに、他の議会における活用事例等の情報を提供し、いつでも活用できることを議員に知らせることが必要であろう。
第2に、議会内の勉強会等に住民、関係者、有識者の参加を求めることである。議会・委員会・会派として様々な課題を検討する場をつくり、そこに報告者、助言者等として外部人材を招き、外部の情報や意見を審議に生かせば、多面的な検討が可能になる。
事務局は、勉強会・研究会に有識者等を招へいする場合の謝金・旅費の支払規程を整備し、予算を確保する(議会の政策調査関係費か議員の政務活動費から支出)とともに、講師等の候補者情報を提供したり、候補者に依頼したりすることが考えられる。そのため、事務局は特定の政策・制度についてどういう専門家がいるかを把握し、地域の人材であればいつでも呼べる関係をつくっておくことが望ましい(こうした人脈や行動力のある職員がいるか否かによって事務局の力量に差が生じよう)。
第3に、議員が関係機関や現場を訪問して、ヒアリング調査や意見交換を行うことである。現在でも個々の議員は、地域のイベントや会合に参加して住民の意見に接しているし、遠隔地への視察は定例化しているが、地域内で調査や意見交換を行うことは多くない。そこで、特定の議案や課題に関して、委員会あるいは会派として地域内の現場を訪問し、関係者の話を聞くことを習慣化することが考えられる。
事務局は、議員・会派の要請に応じてこうした調査・意見交換の場を設定したり、取り次いだりすることが考えられる。実は、事務局職員自身が地域や住民のことを知らない場合が少なくないため、事務局職員も議員の調査・意見交換に同行したり、地域に出て話を聞くことが必要になろう。