3 議会の政策機能強化と事務局の役割
では、議会事務局が政策補佐機能を積極的に果たすべきだとすれば(前述の第3タイプか第4タイプをめざすとすれば)、どういう取組みをすべきだろうか。ここでは、まず議会が政策形成機能の強化のためにどういう取組みを行うべきかを4点に分けて指摘し(礒崎 2017:6章、8章参照)、それぞれ議会事務局がどういう対応を行うべきかを考える。
(1)議員の政策力の強化と事務局の対応
議会の政策形成機能を強化するには、まずそれを担う個々の議員の政策力向上を図る必要がある。ここで「政策力」とは、①政策の基礎知識(政策の視点や枠組みに関する知識)、②政策の実務知識(個別の政策分野や行政実務に関する知識)、③政策問題への応用力(問題を分析し対応策を考える力)の三つによって構成されると考えられる。こうした力を養成するために議会は何をすべきか。
第1に、議員活動の中で政策力を養成することであり、一種のOJT(on the job training)である。たとえば、地域住民から議員に相談・陳情があった場合に、担当課への単なる取次ぎに終わらず、そうした問題がなぜ生じているか、法制度はどうなっているかなどを調査し、一般質問で取り上げることが考えられる。
事務局は、こうした随時の調査を可能な範囲で(機動的に)補佐することが考えられる。
第2に、議会や会派として議員研修を実施することである。講演会形式で半日程度の議員研修を実施している議会は少なくないが、もっと実践的な研修にする必要がある。たとえば、都道府県単位の議長会が、市町村職員研修所等と連携して、系統的な研修プログラムを設けて、議員の初年度は必須の基礎研修(自治制度論、政策形成論、自治体法務論、自治体財務論、議会運営論)を、2年目以降は選択制の応用研修(条例立案論、予算評価論、都市計画論、福祉健康政策論等)を実施することが考えられる(礒崎 2017:121、図表8-1参照)。
事務局は、議長等の指示の下で、議会内の研修についてテーマ調整や講師や予算の確保を行うほか、都道府県議長会等による研修実施を働きかけることが考えられる。
第3に、議員個人として自己学習に取り組むことである。たとえば、①個人の学習として、テキストを読んだり、各種検定(自治体法務検定など)を受検する、②外部の研究会や学会(自治体学会など)に参加し、近隣の議員・自治体職員とチームで勉強したり、全国の研究者や自治体関係者と交流を行う、③大学に夜間・土日等に通学し、学位論文をまとめて議員活動に生かす、などの対応が考えられる。
事務局は、①の学習に対して図書室の充実、関係資料の随時配布、テキスト・検定の費用助成(政務活動費がある場合はそれによる)を行うことが考えられるし、②や③の活動に対しては、議長等の指示の下で、必要な情報提供、地元大学との連携、学費・旅費の助成(東京高判平成18年11月8日は議員が公共政策大学院の学費を政務調査費(当時)から支出したことを適法とした)を行うことが考えられる。
(2)議員間討議の拡充と事務局の対応
現在の議会の問題点は、議員の仕事は執行機関に質問することだという意識が強く(質疑主義といえよう)、議員間の討議を軽視していることにあると考えられる。熟議の機関たる議会が政策形成機能を発揮するには、議員間討議の機会を増やし充実させることが重要である。そのために具体的に何をすべきか。
第1に、議員提出の議案を増やすことである。議員の議案提出権(定数の12分の1以上の賛成による提出)を生かして、条例案の提案、予算案や自治体計画案の修正提案、意見書案の提案等を増やせば、議会の政策形成機能が高まるし、提案者たる議員が同僚議員の質問に答弁するという形で議員間討議が活発化する。議案をまとめる作業を通じて議員の政策力も高まる。
事務局は、議員や会派が条例案の提案、予算案や計画案の修正提案、意見書案の提案等を行おうとする場合は、必要な情報収集や調査のほか、適切な範囲で提案内容に関する課題の指摘や代替案の提示等を行うことが考えられる。
第2に、議会の意見書提出または決議の権限を活用することである。たとえば、各会期で各議員の一般質問が一巡した後に、その内容から重要と思われる事項を議会の意見書(「当面の施策事業に関する意見書」など)として議決し、執行機関に提出することが考えられる。また、予算編成時期に議会として予算に関する意見書(「〇年度当初予算編成に関する意見書」など)を議決し、首長等に提出することも考えられる(その後提出された予算案がこれに適合していなければ否決または修正する)。それ以外でも、地域の重要課題に関して意見書の採択や決議を行い、関係機関の対応や配慮を求めることも考えられる。
事務局は、議長等の指示の下で意見書案や決議案の作成作業を担当したり、関連する制度や政策の調査・情報収集を行うことが考えられる。
第3に、重要議案の採決前に「議員間討議」を行うことである。委員会では、当該議案の意見決定の前に、委員間で討論を行うことが考えられる。本会議では、現在も「討議」の時間が設けられているが、意見表明にとどまっているため、①各会派の意見表明→②相互の質疑応答→③表決という形で、実質的な討議(質疑応答)の時間をとることが考えられる。
事務局は、議事運営を補佐する立場から、これを可能とするよう会議規則・申し合わせ等の整備や、議会運営委員会等における合意形成をサポートすることが考えられる。
第4に、執行機関側の職員の議会出席を限定するとともに、出席させる場合は実質的な議論を行うことである。地方自治法では、首長やその委任を受けた者は「議会の審議に必要な説明のため議長から出席を求められたときは、議場に出席しなければならない」(121条)とされているが、多くの議会で執行機関幹部がそろって出席することが常態化している。その結果、前述の質疑主義のような誤解が生まれたり、議会が外部から情報を集める努力をしなくなっている。首長側も、職員を出席させる場合は、議長から出席を要する職員とそれぞれの説明事項を明確にするよう求めるべきであろう。
事務局は、こうした見直しを事務レベルで補佐するとともに、執行機関側の出席を求めない会議の資料作成や説明者について、議長や各委員長の指示の下で調整することが考えられる。