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特集 伝える・伝わる議会広報

2020.05.25 広報広聴

大津市議会の広報改革の取組み 〜滋賀県市議会議長会研究事業との連携による可能性〜

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議会広報に関する第三者評価の内容

 大津市議会の「議会だより」は、中核市議会議長会・議会報コンクールでも最優秀賞を受賞した内容面での実績のほか、市民に身近な存在として手にとってもらえるようコンビニエンスストアにも配置するなど配布方法も工夫しており、高い自己評価をしていたが、複数の評価者から改善意見がついた。
 評価者の一人である真山達志・同志社大学政策学部教授の評価の総論部分を引用すると、「広報は、当事者は一生懸命に努力しているつもりでも、相手に伝わっていなければほとんど意味がない。広報は、伝える側の都合ではなく、受け手の都合や期待を十分に考慮する必要がある。したがって、市民が議会から得たい情報は何かを分析・検討した上で、広報の内容や媒体のさらなる見直しを行うべきである」と広報のあり方そのものについて指摘された。
 また各論においては「『議会だより』は、伝統的かつ主要な広報手段であることから、その充実は必須である。その際に、配布方法の整備も大切ではあるが、一番重要なことは内容の改善である。市民は、個々の議員が本会議や委員会でどのような質問をしたかに関心があるわけではない。議員毎の議会活動については、それぞれの議員が政務活動費を使って広報すれば足りることである。議会としてどのようなイシューが取り上げられ、何が問題となっているのか、と問題がどこまで解決したのか、今後の課題が何かを分かりやすく伝えることが必要であろう。議会は会派に分かれている機関であるから、1つの見解を表明することは難しいのは言うまでもない。したがって、現状についての客観的事実と論点整理が中心にならざるをえないが、それであっても、質問と答弁を中心とした『議会だより』よりは意味がある」との、議事機関の本質を踏まえた市民視点での指摘を受けた。

「広報のあり方検証」の概要

 これが、次任期への申送り事項である「次期議会へのメッセージ」に反映され、現任期4年間の実行計画である「大津市議会ミッションロードマップ2019」で、取り組むべきテーマとして「広報のあり方検証」が掲げられた。
 検証に当たっては、まず議論の土台となる情報収集を行った上で、どのような手法を用いた広報がこれからの時代にふさわしいのか、情報を届けるターゲットをどこに置くのか、との観点から、単なる紙媒体としての「議会だより」の編集手法の見直しではなく、ゼロベースでその必要性自体から検証する議論を始めることとした。
 そのために、まずは議会局で広報コンクールにおいて各賞を受賞されている議会を中心に、74議会に対して調査を実施した。
 次に広報広聴委員会で、議会広報に関する市民意見の聴取のための無作為抽出型市民アンケートを実施することとしている。過去には議会だよりの紙面上でのアンケートを実施したこともあるが、当然であるが回答者は従前から読んでいる市民に偏るため少なからず議会に関心のある立場での評価となる一方、読まない市民からの声は拾えないため、集計データが改善に資する議論につながらなかったからだ。市民が議会に何を期待しているか、議会に求める情報は何かといった分析や、情報の到達度を把握するためには、無作為抽出での市民アンケートでなければ意味がないのである。
 その結果を分析し、議会広報の方向性の検証、広報ツールごとの位置付けやターゲットを明確化して広報のあり方の案を作成し、最終的に方向性を決定する。
 現在は新型コロナウイルスの感染拡大によって、大津市役所内でクラスターが発生した特殊事情もあり、すぐには実施できない状況にあるが、時機を見て再開を予定している。

滋賀県市議会議長会「広報・広聴活動についての研究会」の功績

 最後に、前述の大津市議会における「広報のあり方検証」と時期を同じくして始まった、滋賀県市議会議長会における広報広聴に関する研究会活動についても触れておきたい。
 市議会に関する全国組織としては、全国市議会議長会が設置されており、その地方組織として都道府県単位での市議会議長会が組織されている。滋賀県市議会議長会においては、大津市議会局が事務局を固定で務めており、これまでも「軍師ネットワーク」と称する議会事務局職員の資質向上を目的とするスキームを構築、運営するなど、議長会事務局主導で県内市議会の水平連携事業にも取り組んできた。
 しかし、議長会に求められる主たる機能は、地域の議会の意見を集約し国に対して要望することと捉えられていたため、事業の方向性としては議長間の情報交換に重点が置かれてきた。議長会の構成メンバーである議長自身が多くの場合1年交代であることや、その任期が議会ごとに異なるという事情もあり、各市議会議長からの議長会事務局へ要望はあっても、自ら汗をかいて共同研究の基盤として活用しようという発想はなかった。
 それが変わる契機となったのは、当時の甲賀市議会議長であった林田久充氏が座長を、甲賀市議会事務局が研究会事務局を務め、2019年5月から始まった滋賀県市議会議長会「広報・広聴活動についての研究会」である。研究会は、各市議会の広報広聴委員を務める議員で構成され、第1回は「広報広聴の現状と課題」、第2回は「広報紙に議会・議員が期待する機能は何か」、第3回は「議会報告会の現状と課題、議会報告会からの政策形成」、第4回は「広報・広聴の工夫と問題点」、第5回は「研究会のまとめ」をテーマとして、全5回開催された。
 この論稿テーマである議会広報については、第1回と第2回で主に議論された。そこでの議論で個人的に重要だと感じたのは、大事なのはテクニカルな「議会だより」の編集方法ではなく、「何のために、何をどのように伝えるか」を明確にする「議会の広報戦略」を立てることだということである。そのような共通認識が生まれたのは、議会を超えての議論の場だからこそだと感じたのである。
 各々の市議会は、国会や県議会はもちろん、他市議会とも制度上は無関係であり、機関としての活動を自己完結できるスタンドアロンの存在である。議長会といえども議長である議員にとっては、横のつながりをつくるきっかけとなりうるが、それ以外の議員にとっては議長会の存在意義など感じられないという意見も、研究会の当初には参加者から聞かれた。だが、研究会での議論が進むにつれて、これからは議長会を議長同士の横のつながりだけでなく、議会間の連携関係を発展させる仕組みとして活用していく可能性と必要性を、参加者間で共有できたことが最大の収穫といっていいだろう。
 今後は広域で議論することによる気づきを、自らの議会にフィードバックして成果につなげるとともに、議長会事務局の立場からは、他のテーマでもこのような議論の場が生まれるよう尽力していきたい。

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