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特集 議会×ファシリテーション

2020.04.27 仕事術

議会・議員活動とファシリテーション(特集4)

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早稲田大学マニフェスト研究所事務局長 中村 健

  新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中で猛威を振るっている。日本でも感染拡大を防止するため総理が緊急事態宣言を発出し、外出自粛・店舗休業を要請した。これにより従来の経済循環は完全にストップし、店舗閉鎖や廃業に追い込まれる者も出始めている。これに対して国や都道府県は、生活困窮者や休業補償など過去最大級の財政措置を講じて国難を乗り越えようとしているが、国民からは不満・不安の声が多く聞かれる。
 筆者は、こうした場面に中央集権時代の名残をみる。すなわち、北海道から沖縄まで全国津々浦々に商業店舗は存在し地域性やその業態などによって内容は各々異なっているにもかかわらず、国が画一的に助成金対象者の線引きをするから政策と現場とのギャップが生まれているとみるからだ。国は都道府県や市区町村に一定のルールを定めた上で助成金を渡し、あとは地域の実情に合わせて自治体の首長や議会が議論し判断すればよいと思うのだが。

 さて、この助成金にまつわる一連の行政と住民との関係性は、今の市区町村でもよくみられる。市町村行政は条例や規程、規則、要綱等のルールを定めて行政サービスを行っているが、それは画一的な内容のものが多く、今の多様化する住民ニーズに適切に応えられているとは言い難いものもあり、住民の声や地域の実情を上手に吸い上げる機関機能が期待されている。
 また、人口減少時代の行政や議会の役割は「縮小・廃止」という判断をせざるを得ない場合がある。生徒数の減少による学校の統廃合は今後も全国的に増加しそうだが、廃校となる地域住民にとっては大問題となる。それを行政や議会の一方的な決定にならないように時間をかけて住民と対話する政治が求められる。
 さらに、議会も議事運営の規程や規則、要綱といったルール(しかも昭和30年代〜50年代につくられた古いもの)のもとで運営されていることが多く、「これは以前からこうやるものと決まっている」、「今までそんなことをやったことがないからダメ」と旧来の方法で議会運営してしまうと、世の中の変化と旧態依然とした議会とのギャップはどんどん拡大する。議会運営手法に変化をつけるのも、議員が有益な対話が行え、自ら決定していくプロセスが求められているためである。
 このように社会全体が急激に変化する時代にあって、自治体の計画や予算も十分な審議のもとに作成され、住民が納得のいく行政サービスに税金を投入することが求められているが、計画や予算を議事決定していく議会には今、ファシリテーションが求められている。いくつかの事例を紹介する。

議会事務局によるファシリテーション(久慈市議会)

 新型コロナウイルスの影響により、IT化の遅れていた議会にもいや応なしにタブレット導入をはじめとするIT化の波が押し寄せているが、苦手意識の強い議員の抵抗に遭い、なかなかIT化が進まない議会も多い。
 岩手県久慈市議会の事例を紹介する。議会最年長議員は80歳(当時)、最もタブレットを活用している議員である。
2011年3月に発災した東日本大震災。電話が不通になり、議員の安否確認ができず集まって議論しようにも連絡をとる手段がなかった。その反省から導入された手法の一つがタブレット端末の導入であった。緊急時の連絡体制の構築と災害情報をリアルタイムで共有でき、後で議論する際のデータベースとして使えると考えた。しかし、最高齢80歳の議員を筆頭にITに不慣れな議員にとってタブレット導入は大きな壁だった。以前、パソコンを議員に貸与したがほとんど使われなかったことから、議会内には「同じことになるのでは」という意見もあった。最年長議員にタブレット端末に慣れてもらえるよう、議会事務局職員とのメール交換から練習を始めた。写真を撮ったり撮った画像をメールに添付したりと、次第にスキルが上がっていった。やがて、孫の写真を撮ったり、病院のスケジュール管理をするようになったりと活用が広がっていき、自ら進んでタブレット端末を使うようになっていった。議会事務局がIT活用のシナリオを描き、議会全体のITへの苦手意識を取り除いていった。
 2016年9月、東北を襲った台風10号。議員が5班に分かれ、タブレット端末を使って市内の被害状況の確認へ向かった。道路は土砂や濁流で分断されていたが、地元議員は抜け道を熟知している。独居老人宅には真っ先に声をかけて回った。地元事情をよく知る議員力が発揮された瞬間だった。被災状況をタブレット端末で記録して写真とデータを議会事務局へ送り、議会事務局がマップにとりまとめ、議会からの緊急提言と併せて災害対策本部へ進言した。これは災害対策本部が持っていた情報よりも早くて正確な情報だった。議員が個別に当たるのではなく、議会がチームとして力を発揮し、東日本大震災の教訓を見事に生かした。IT機器に不得手な議員が多かった当時の久慈市議会をコーディネートした議会事務局職員の姿が成功の裏にあった。

議会局によるファシリテーション(大津市議会)

 議会基本条例を具現化するため4年間の議会の実行計画を作成し、実践と検証のサイクルを回しながら議会の可視化を進めることで市民への説明責任を果たす「議会ミッションロードマップ」、災害時などの議会の行動指針を示し定期的に訓練も実施する「議会BCP」、条例の立案をサポートする「政策法制係」を新設し、毎年、議員提案条例を制定するなど、矢継ぎ早に従来の議会の常識を打ち破る活動を続ける滋賀県大津市議会。市議会の常識が次々に変わっていく舞台裏に議会局職員の存在がある。議員と議員との議論は時として感情のもつれなどから炎上する場面もある。そんなとき、議会局が間に入ってファシリテーションすることでうまくいくケースも多々あるという。時には議員と徹底的に議論するなど、これまでの議会局職員のイメージを一新している。
 大津市議会局は「“議員のお世話係的な役割”をするのではなく“議員と並んで一緒に成果を出していく存在”を目指している。だから組織の名称も『議会事務局』から『議会局』へ変えた。仕事を楽しむこと、人に嫌われることを恐れないことをモットーとする」と話す。仕事を楽しもうと思えば成果を求める⇒成果を出すなら引き継いだ仕事の進化を模索する⇒前任者からの引き継ぎ、業界の常識、国の通達、有識者の見解など全てを疑い、ゼロベースで考える⇒新たな手法を発見し、成果に仕立てる⇒外部からの評価を得る⇒議員も自分たちのステータスが上がり喜ぶ⇒議員からも評価され、ますます新たなことがやりやすくなる、といった好循環サイクルができるという。
 ただ、議会局の職員が目立てば面白く思わない議員や職員も当然出てくる。それについて議会局職員は「嫉妬やねたみはどの業界でもつきもので、嫌われることはやむを得ないと割り切る。八方美人では現状を変えることはできないから」と話す。しかし、その裏では人間関係の構築に労を惜しまない。例えば、議員は夜間休日関係なく活動しているから、職員が平日の8時半~5時感覚では信頼を得られない。時には議員ととことん時間を一緒に過ごし、休日の私的な誘いも断らず議員の相談にも親身になって応じる。だから議員も職員を信頼し、かけがえのないパートナーとして認めている。
 二元代表の一翼を担う機関であるといいながら、それぞれの背景で選挙戦を勝ち抜いた議員で構成される議会が一つにまとまっていくのは至難の業である。しかし、総合力を発揮しなければ市民の期待には応えられない。大津市議会は「チーム議会」を合言葉に活動を続ける。議会がチームとして活動できるためにファシリテーター役を買って出る議会局は、「常に市民に対する成果」を意識し議員と向き合っている。
 このように、議員や職員の間に立ち、議会をとりまとめていくファシリテーターの存在が議会活動に大きな影響を与えている。次の3例は、議会が地域を巻き込んで地域と一体となって成果を出している議会の事例である。

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