早稲田大学マニフェスト研究所ローカル・マネージャー/元久慈市議会事務局議事係 長内紳悟
1 はじめに
筆者は、ワークショップ形式で楽しくワイワイ話合いをするのが苦手である。ましてやアイスブレイクと称して自己紹介したり好きな食べ物を言うなんて、気恥ずかしくて嫌いな方である。
田舎者で社交性に欠け口下手なだけに、協調性をもってグループで楽しく話合いをするワークショップには、いつも早く終わってくれないかと願い、終わった後にはどっと気疲れしていた。
そんな筆者が当時、議会事務局の職員として、議会の現場では全く取り入れられていなかった、ワークショップ形式での話合いを議員に提案し、なぜそのために「ファシリテーション」が大切だと感じたのか、そんなところから話をした方が、これから議会の現場にファシリテーションを取り入れようと迷っていたり、あるいはけん制している人には伝わるものがあるかもしれない。
2 会議規則の呪縛
そもそも議会の現場には、「ファシリテーション」といったしゃれた横文字・カタカナなど取り入れるような開けた文化は皆無で、日本語のみでつづられる会議規則に基づいて粛々と話合いは進めるものだという認識が、真面目な議会事務局の職員や古参の議員には強くある。筆者もその一人であった。
一般企業の企画会議であれば、創発・価値創造の場として当たり前に取り入れられている考え方やスキルかもしれないが、議会は重みが違うと話す議員もいる。
議員は選挙に当選することによって、議場や会議の場で発言する権利を得ている。その権利は尊いものであるがゆえに、発言は管理・制限されていると捉えることができるかもしれない。
議会における発言は、議長の許可を得られた者が順次発言していく。中には許可を得られない場合もある。そしてその発言とは、議案を審議する際に市長や執行部説明員に対して疑義を質(ただ)すために行われる「質疑」、その上で賛成・反対の態度決定をし、その理由を表明して賛同議員を募る「討論」、また、議案とは関係なく、広く一般行政に関して行政長である市長の考えを問い質すために行われる「一般質問」。主にこの三つの発言を前提に会議規則が設計されている。
さらに、発言には持ち時間や回数の制約があり、逸脱した場合には議長の議事整理権で抑え込むことができる。そのため、議長や議会事務局の職員は、常に発言時間と発言回数をカウントしつつ、その発言が議題や通告からそれた内容になっていないか、また説明員に答弁漏れはないかを注視している。いわば、発言は完全に管理・制限されており、その管理責任者が議長ということになる。
それが故に、その議長の諮問機関でもある議会運営委員会は管理型の組織になっている。首長野党といわれる議員の発言を制限し、質問時間や発言機会の確保をめぐって議運での攻防が続くという例は、どこの議会にもよくある話である。
一方、ファシリテーションとは「facilitate:促進する」という意味であり、発言を管理・制限する会議規則とは対局をなしている考え方であるといえる。そのため、真面目な議会事務局の職員や古参議員には嫌われて当たり前な横文字・カタカナなのである。