青森中央学院大学准教授 佐藤淳
「ファシリテーション」と議会
昨今、様々な場面で「ファシリテーション」という言葉を聞く機会が増えてきた。「ファシリテーション」とは「促進する」、「容易にする」、「円滑にする」、「スムーズに運ばせる」等の意味の英語であり、「話合いを活性化すること」として一般的に使われている。また、「ファシリテーター」とは、話合いを促進していく役割を担う人のことを指している。
これまで議会にはファシリテーションやそれを行うファシリテーターは必要なかった。というのは、議会は本来、議員同士で議論するべきところではあったが、執行部への質疑に終始していたからだ。また、議会が住民の意見を聴く「仕組み」も存在しなかった。
そのような議会のターニングポイントになったのが、2006年に北海道栗山町議会が「議会基本条例」(以下「基本条例」という)を制定し、その条例の中に「議員間討議」と「議会報告会」が位置付けられたことである。その後制定された全国の多くの基本条例にもこの二つの項目が盛り込まれている。基本条例に位置付けられたことで議会報告会を開催する議会も増えたが、そのやり方は議員と住民の「対面式」の開催方式で、住民からの苦情、陳情、要望、個人的な演説等で炎上する議会報告会が全国的にたくさん出た。会場の雰囲気や進め方が改善されないままにつまらない場になり、参加者も減り、議会報告会の開催をやめてしまう議会も出てきた。そんな中、一部の議会の中では「開催方法を見直したい」、「何とかしたい」という動きも出てきた。
「議会報告会」における「ファシリテーション」
筆者にとってこの問題の解決のヒントになったのは、2014年3月に福岡県志免町の町民有志による「まちづくり志民大学」が開催した「議員と語ろうワールド・カフェ」だった。この現場を見て大きな衝撃を受けた。ワールド・カフェとは、「カフェ」にいるようなリラックスした雰囲気の中で、小グループ単位で、参加者の組合せを変えながら、模造紙に意見や感想を書きながら、話合いを発展させていくワークショップの手法だ。志免町では、津屋崎ブランチの山口覚さんと日本ファシリテーション協会フェローの加留部貴行さんの2人がファシリテーターとなり、議員と住民がワールド・カフェで直接楽しく対話をする等、筆者の常識の中では考えられなかったことが目の前で展開された。
志免町での「議員と語ろうワールド・カフェ」
この経験をもとに、同年8月、岩手県久慈市議会が議会として全国で初めて議会主催の議会報告会(「かだって会議」)をワールド・カフェ方式で開催した。筆者がファシリテーターを務めたが、このために、筆者は事前にワールド・カフェのファシリテーションの研修会に参加した。また、議員の皆さんがいきなり実践するのは難しいと考え、事前に議員同士でリハーサルを行って本番に臨み、大成功した。会場の雰囲気を明るくするために、赤と白のチェック柄のテーブルクロスを用意し、BGMを流す工夫もした。議員の方々も住民と対話ができる手応えを強く感じる場となった。2回目ではファシリテーションのスキルを持つ市民がファシリテーターになり、女性のみを対象に開催してこれも大成功だった。このような事例が続き、青森県六戸町議会も対面式からワールド・カフェにスタイルを変更。当初は筆者がファシリテーターだったが、今では議員がファシリテーターとなって継続して開催している。議員との意見交換は意外と楽しいということが口コミで広がり、参加者が集まっているという。
久慈市議会の「かだって会議」
さらに、宮城県柴田町議会では2016年の18歳選挙権導入に合わせて、県立柴田高等学校の高校生とワールド・カフェで意見交換を行った。高校生との意見交換は議員にとっても大人ほどのシビアさがない分だけ取り組みやすく、高校生にとっては地域を知る等、学びの効果が大きいことが特徴的だ。こうした議会と高校生との意見交換会をワールド・カフェで行う取組みは、久慈市議会、六戸町議会、青森県鯵ヶ沢町議会、三沢市議会、宮城県村田町議会、秋田県横手市議会でも行われ、広がりを見せている。
このように、住民との意見交換会は、これまでの対面式よりワークショップの方が取り組みやすい。その手法も、付箋を使うKJ法よりも、ワールド・カフェのような気楽なやり方の方が、議員も住民も気持ちの上でハードルが低く取り組みやすい。住民との意見交換会は、合意形成の場ではなく、住民に意見を発散してもらい、主体性と創造性、情熱を解放してもらう場だ。また、このような場の開催前の練習として、最近、若手職員と議員とのワールド・カフェも開催している。岩手県遠野市議会、宮古市議会、宮城県登米市議会、山形県西川町議会等、議員、職員双方に気づきの多い場になっている。住民との意見交換会のファシリテーターを議員が務めることができれば理想的だが、いきなりが難しければ議会事務局職員やスキルを持った市民に任せるやり方もある。
登米市議会の議員と若手職員とのワールド・カフェ