4 利用
司書が配置されてから令和元年度末で4年が経過する。改革前、図書室は全く利用されず、ほこりをかぶっていたが、現在では9割を超える議員が一度は利用しており、日常的に利用する議員や、定例会前は必ず利用する議員が増えている。また、4月に行われた改選により、新人議員の利用が日常化している。
しかし、当初は周知不足もあり、利用率は伸び悩んでいた。そのため、とりあえず司書に相談してもらうよう議会事務局職員が働きかけ、そのかいもあって今では様々なレファレンス依頼が舞い込むようになった。中には難しい依頼もあったが、その場合は議会事務局職員や他館の司書にも相談して資料や情報を提供したり、より専門的な情報やデータなどを提供する場合は、オープンアクセスの論文サイトや連携先の広島県立図書館や呉市立図書館を通して県内外へ文献複写依頼を行っている。そして収集したデータを、議員が読み取りやすいようにグラフや表に編集することも行っている。このほかに、レファレンスの回答の際は、依頼されたもの以外にそれらに関するプラスアルファの情報をできるだけ添えることを心がけている。そのためには、議員それぞれがどういった分野やテーマを研究しているか、どういった信念を持っているかなどを、会議での発言や日常の会話から読み取ることにも努めている。
5 成果
改革初年度の9月定例会から、議員は質問の前後に「議会図書室によれば……」との枕詞(まくらことば)とともに質問を行った。現在は議員間でこの枕詞は言わずに質問するということになっているが、定例会ごとに議員は資料探しや情報収集のために議会図書室を利用している。最近では、県内他市の議員の利用もあり、実際に質問資料としても使われている。このようにして改革を進めていった結果、改革初年度の平成28年度に議会審議の質的向上が評価され、政策コンテストである「第11回マニフェスト大賞」でマニフェスト大賞優秀成果賞を受賞し、平成30年度には横浜市で開催された図書館総合展において、「地方創生レファレンス大賞」で文部科学大臣賞を受賞できた。そして令和元年度は、加盟している専門図書館協議会より、新しい取組みを次々に試みたとして表彰をいただいた。
6 議会質問につながった事例
「根拠に基づく政策づくり」という点で、議会図書室のレファレンスは大きく成果を上げている。その一つとして議員の質問力の向上がある。レファレンスが議会質問に役立つことを知ってもらう努力を重ね、今では質問前に、法的根拠、関連データ、他都市の先進事例等の調査に議会図書室を訪ねる議員がほとんどだ。そして執行部職員からも、質問内容や進め方が以前と違ってきている、との声を聞き、変化を感じている。
ここで、実際に議会質問につながった例を二つ挙げる。
一つ目は、視覚・聴覚障がい者の支援についてのレファレンスである。レファレンスの内容は、従来の支援は手話通訳にしてもバリアフリーにしても外からの補助が中心だが、障がい者が主体的に活動できるサポートを提案できないか、というものだった。これからの時代は人手不足になっていくため、ICTを使った支援の情報を収集し、かつ自治体の先進事例がないか調査した。そして、電話リレーサービスや兵庫県明石市の手話対応型公衆電話ボックスなど、様々な先進事例を紹介した。
二つ目は観光分野の特集展示を見た議員からのレファレンスで、DМOという機関について、短時間で基本から押さえたいという依頼だった。まず資料として、日本のDMOの第一人者の連載記事で基本情報をつかんでいただき、その他必要なところは信頼性の高い実務書でチェックしていただこうと数冊案内した。リニューアルから2年、議員のバックデータ調べのツールの一つとして、議会図書室の活用は顕著となり、「質問のレベルが上がったことで、行政との間に良い緊張感が生まれた」と議員から評価を受けている。
7 産業分野の政策支援につながった事例
次に、執行部職員からのレファレンスから進んだ事例を紹介する。「呉市は、県内でも起業件数が少なく、商店街の空き店舗率も高いため、それを何とかしたい」という担当部署からのレファレンスであった。話を聞いていく中で起業コンテストの話が出たため、企業コンテストで成功した自治体の分析に役立つ資料、また、従来の補助金政策とは発想を変えて商店街の再生をしている事例も併せて紹介した。前者は、本市の弱点を改善した起業家支援プロジェクトとして実現し、後者もリノベーションまちづくりとして動いている。