大津市議会局次長 清水克士
大津市議会の議会図書室改革の特徴は、全国で初めて大学図書館との連携関係を確立したことである。その前提としては、大津市議会には大学との連携によって専門的知見を活用してきた実績があったのであるが、図書館連携に関しての道程は決して平たんではなかった。もちろん、本庁舎における議会図書室についても大幅に見直したわけであるが、本稿では大学図書館との連携に重点を置いて論じたい。
改革の最初のハードル
地方自治法100条19項では「議会は、議員の調査研究に資するため、図書室を附置し」と規定され、議会図書室の設置が議会に義務付けられている。だが、多くの中小議会では看板だけは掲げているが、実質的には「物置」や「会議室」になっているのが実態ではないだろうか。
ご多分に漏れず物置化していた大津市議会図書室は、その蔵書構成も現実のニーズとはかけ離れ、百数十冊に及ぶ「法規集」や他市議会から贈呈された「議会史」など、見た目重視の豪華本をそろえて、議会の威厳を保つことがその存在意義ではないかと疑われるようなものであった。
私自身も議会局へ配属された頃は、その事実に接しても何の問題意識もなかった。それは、議会局としても人員体制に余裕がなければ、当面の議事運営をこなすことを優先せざるをえないということもあるだろうが、そもそもそれを必要とするレベルの議会活動自体がなされてこなかったので、「議会図書室」の必要性を感じることなどなかったのである。
しかし、政策立案機能の強化に重点を置いた議会改革が進展する中で、二元的代表制の一翼を担うにふさわしい、本来の立法機関としての権能を果たそうと思えば、ぜい弱な補助機関しか有しない地方議会にとっては、情報収集のリソースが必要と感じ始めたのである。
だが、それを本来のユーザーであるべき議員全員が実感していない状態では、いくらハード面を整備し体制を整えても、「仏つくって魂入れず」となろう。議会図書室改革を進める上での最初の難関は、議員自身にその必要性を理解してもらうことである。
議会図書室改革のはじめの一歩
大津市議会における議会図書室改革は、2011年には議会改革を推進する議会活性化検討委員会でも検討課題として挙げられ、芽生えてはいたが遅々として進まなかった。
2014年の議会活性化検討委員会での検討課題に再上程し、ようやく具体的な改善に着手することとなった。まずは、国立国会図書館の塚田洋課長と龍谷大学の土山希美枝教授を招へいしての議員研修会を企画して、議会図書室の主たる利用者である議員にその必要性を啓発する意識改革を試みた。しかし「図書室整備=蔵書整備」との固定観念は強く、図書室の整備は理解が得られても、レファレンス機能の活用についてはその必要性自体、認識を得るには至らず、その状況で実質を伴う改革を進めるのは難しいと感じ始めた。そこで、翌年には議員選挙を控えていたこともあり、議員、議会局職員とも新メンバーになってから仕切り直すこととした。
2015年になってから再度、改革に着手し、視察した兵庫県議会、三重県議会、東京都議会などの図書室は、どこも素晴らしく立派な施設、規模であったが、同様のレベルでのハード整備を目指すことが、大津市議会にとっての最適な選択肢とは思えなかった。
そこで、蔵書整備を進める一方で、当面は公共図書館との連携によって必要とされる機能を補うこととし、大津市立図書館との連携は容易に実現したが、蔵書や図書館司書の専門性を考えると、次の一手として大学図書館との連携も必要と感じていた。ここで、大津市議会の大学連携の概要に遡って経緯を説明したい。
大学図書館との連携経緯
大津市議会では、2011年1月に議会からの条例提案や政策提言を行うためのスキームとして、「政策検討会議」を設置した。
これは、議会からの政策提案について、具体的なテーマを提案した会派から座長を選出して議論をリードするとともに、各会派からは当該テーマに強い関心を持つ議員をメンバーとして選出可能とし、より深い議論を機動的に行えるよう制度設計したものである。
会議の運営上、多様な行政分野における政策提案を行うに当たっては、有識者からの助言が必要不可欠と思われた。その具体的手法として、龍谷大学、立命館大学、同志社大学政策学部など複数の大学と「パートナーシップ協定」という地域連携協定を締結することによって、包括的な協力関係の構築をし、専門的知見の導入を図ってきた。
しかし、図書館連携に関しては、協定を締結し一定の関係性が構築できた後に持ち込んだ企画であったにもかかわらず、どの大学ともその交渉は困難を極めた。
自治体も縦割り組織と揶揄(やゆ)されることが多いが、大学も学部ごとの縦割り意識が非常に強い組織であり、学内的にも外部展開を前提とした事業は必ずしも歓迎されない。大津市議会の担当窓口である大学事務局が、大学図書館の協力を取り付けることは、決して容易ではなかったのである。
それは、大学図書館側の抱く議員に対するイメージは、「議員を大学図書館に入れたら、どんな無茶な要求をされるか分からない」といったもので、部外者に対する強烈なアレルギー反応は、残念ながらどの大学にも共通していたからである。
龍谷大学との交渉においても大学内部での調整が難航したため、産業政策課在籍時代の産学官連携事業の経験や人脈を生かして、産学官連携の枠組みである「ビジネスネットワーククラブ」に議会として加入することによる課題解決を検討した。それは、大学図書館が利用可能となる会員特典を生かせば、議員の蔵書閲覧やレファレンスサービスを受けることが制度的にできるようになるからである。
だが、それが議会図書室の機能強化策として本来の形ではないのは誰の目にも明らかであり逡巡(しゅんじゅん)していたときに、龍谷大学エクステンションセンターから龍谷大学図書館事務部の杉山聖子課長(当時)を紹介された。杉山氏は市議会図書室の現状把握のためのヒアリングや議会傍聴など精力的な活動の末、最大の懸案であった大学図書館内部の調整も成し遂げ、こう着した状況は急展開した。
そして2016年4月から、大津市議会では龍谷大学図書館との連携を開始することができた。全議員に学生と同様の図書館利用者カードを配布し、5月には大学図書館利用のためのオリエンテーションも実施した。
この連携により、先に連携した大津市立図書館の蔵書79万冊を大きく超える210万冊の大学図書館蔵書の中から、より専門性が高い文献の利用が可能となった。さらには、大学図書館司書による、より質の高いレファレンスサービスを活用できるようになった意義が大きい。
議会図書室の機能強化に資する全国初の大学図書館との連携は、ここにおいてようやく体制整備が完了したのである。