「あるけるまち」に向かうみち ~八王子市の戦略~
1 シティプロモーションは目的ではなく、手段の一つ
シティプロモーションの定義や目的は自治体により様々ですが、八王子市の場合、目的は、「人口減少社会の中でも市民のしあわせがずっと続くこと」です。
人口構造の変化がもたらすインパクトを少し乱暴にまとめるなら、「地域経営の資源は減るのに、コストは減らない」ということです。ここでいう地域経営の資源とは、物的資源(お金やインフラ)と人的資源(まちの担い手)のことです。
地域の持続的経営に向けては、使えるお金を増やすため、観光客の誘致や企業支援、税外収入の確保など、全国で様々な取組みが行われています。一方で、行政の効率化、健康寿命の延伸、民間資本の活用など、コストを下げるアプローチも大変重要です。
これに対して、まちと人、人と人との関係性に着目し、まちの担い手を増やしていくアプローチが、八王子市のシティプロモーションです。
まちの担い手を増やすといっても、今の日本で「定住人口を増やそう」というのは現実的ではありません。そこで、八王子市では、地域の課題を自分の課題と考え、自ら地域に関わる「活動人口」を増やしていくことを重視しています。
2 戦略の全体像
では、どのようにしてまちの担い手を増やしていくのか。八王子市は、「ブランディング」を土台にして、具体的な「行動変容」に向けた施策を積み重ねていくという、2段階の戦略を考えています。
話を分かりやすくするために、皆さんが定食屋を経営していると考えてみましょう。
お客さんが店を選ぶときは、「ほかの店と比べて、味や値段、店の雰囲気が自分に合っているか(ブランド価値の問題)」、そしてその価値を「直接・又は間接的にどれだけ知っているか(ブランド評価の問題)」が基準になります。
他店との差別化や一貫したイメージ形成ができないと、お客さんの選択肢に入ることすらできません。
また、以前嫌な思いをした店や、ブラックバイトで有名な店、店先のごみを放置している店には行く気にならないお客さんも多いでしょう(ブランドマネジメントの問題)。
ここまでが戦略の1段階目ですが、これをクリアすればお店は安泰というわけではありません。何しろ世の中にはそば屋、フレンチ、中華、料亭、弁当屋、そしてもちろんほかの定食屋があふれています。
そこで、すでにブランド価値を知っている人に対しても、「今あの店に行きたい」、「またこの店に来たい」と思ってもらう戦略が必要になります(具体的な行動変容の取組み)。
季節限定の目玉商品やSNS広告で目を引くのもいいでしょう。ポイントカードを発行したり、お客さん同士が交流できるイベントを行ったりして、リピート率を上げるプランも考えられます。
欲をいえば、「大好きな店をみんなに知ってほしい」と思ってくれるコアなファン(≒活動人口)も増やしたいところです。
(1)土台をつくる都市ブランディング ~三つのアプローチ~
さて、ここからは定食屋ではなく、八王子市という「まち」のブランディングを考えてみましょう。
① 「ブランド価値の向上」に向けた取組み
一言でいえば、市民にもっと「あなたのみちを、あるけるまち。」としてのしあわせを実感してもらうための取組みです。
そのためには、
・全職員が、「私の仕事は、『あなたのみちを、あるけるまち。』をつくることなんだ」と意識し、普段の仕事にちょっと工夫をプラスする。
・「あなたのみちを、あるけるまち。」実現にどれだけ貢献できるかを、施策の優先順位判断や人財獲得・育成・活用における共通の「ものさし」とする。
・ブランド価値向上に向けた工夫を積極的に評価・推奨する文化をつくる。
といった内部の変化が必要です。
シティプロモーション担当課である都市戦略課は、全体の戦略を描くとともに、庁内の意識醸成に向けた取組み(インナープロモーション)を主導する役割を担っています。
2019年度の前半は、全職員向けのeラーニング研修や、全部長職を対象としたワークショップ型研修を実施したほか、名刺へのブランドメッセージ印刷等により職員自身をメディア化する取組みを進めてきました。
今後は、自らの仕事と結びつけてビジョンを理解して実践に移していける職員、言い換えれば「魅力を語り、つくるひと」を増やすため、さらに進んだインナープロモーションを検討しています。
② ブランド評価の向上に向けた取組み
①と並行して、「あなたのみちを、あるけるまち。」としての魅力を市内外に届ける取組み(アウタープロモーション)を進めます。
ここでは、各所管がブランドを意識して、「あなたのみちを、あるけるまち。」を構成する地域資源・施策を発信していくことがメインとなります。
都市戦略課は、ブランドメッセージの周知や「暮らし」の魅力発信など、特定分野に限定しないプロモーションを担っています。