地域を担う意欲とその定量化
さて、地域を担う意欲を創出することが必要だと述べた。また、「その施策が、定量的なKPIの連携により成立する、どのようなビジョンに基づいたロジックモデルの【構成要素】になっているのか」を問う必要があるとも述べた。
では、地域を担う意欲を創出することが、ロジックとして、地域に関わる人々の持続的な幸福の実現につながるだろうか。筆者の調査によれば、地域を担う意欲を持つ者は、地域産品の購入意欲、地域での就労意欲がいずれも高いことが分かっている。
つまり、地域産品の生産及び地域での就労機会というシティプロモーションとは異なる施策のKPIの達成と連鎖して、地域を担う意欲の増大があれば、地域産品の購入が拡大し、地域内での就労が増加することが、ロジックとして説明できる。このことが、地域に関わる人々の持続的な幸福の実現につながることは十分に肯定できる。
では、地域を担う意欲を、定量化したKPIとして設定することは可能か。それもまた問われなければならない。筆者は、地域を担う意欲の定量化手法として「修正地域参画総量指標」(mGAP)を提起している(河井孝仁『シティプロモーションでまちを変える』彩流社、2016年)。
mGAPはアメリカのマーケティング研究者であるF.ライクヘルドが提唱するNPS(ネットプロモータースコア)を基礎とする。NPSはブランドの力を「あなたはそのブランドを知人、友人にどれだけの思いで推奨しますか」という、たった一つだけの質問で評価可能とする考え方である。このNPSを取り入れる企業も増えている。大手の広告代理店も研究を始めている。NPSに興味があれば、ライクヘルドの『ネット・プロモーター経営』(プレジデント社、2013年)という著書も参考になるだろう。
mGAPは、このNPSを基礎にする。その上で、地域の担い手としての意欲の評価に活用するためのいくつかの修正や付加を行っている。mGAPの詳細な説明や活用方法、活用事例については、本特集の最後に紹介する予定である。
おわりに
シティプロモーションについて問うことは、地域に関わる人々の持続的な幸福の実現という自治体の目的に関わらせつつ、シティプロモーションの成功を、どのように定量的・論理的に評価できるのかを問うことである。
動画編集業者に委託してつくられた自治体動画、広告代理店などに依頼してのキャッチフレーズとロゴの制定、萌えキャラがにこやかに笑うポスター、自治体の定めた色に塗られた構造物、そしてイベントの数々。これらは、どのように自治体のビジョンを明確化し、どのように地域の担い手たらんとする意欲をつくり出しているのか、その成果は定量的に評価できるのか。
この問いに答えられない首長部局が行うシティプロモーションという名の施策は、高価なおもちゃ遊びにすぎない。