政策のKPIの連携が「戦略」である
しかし、KPIさえあればいいわけではない。それぞれのKPIがどのように連携することで自治体存立の目的を実現するのかという問いに、十分に回答できない一連の取組みは、政策とは呼べない。単なる羅列だ。
それぞれの自治体の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を確認してほしい。KPIが散りばめられているはずだ。しかし、それぞれのKPIが達成されると、なぜ全体として自治体の目的が実現できるのかが十分に説明されているだろうか。もしも説明されていないとすれば、それは「戦略」ではない。戦略とは、目標の連鎖による目的実現への道筋を述べたものだ。
もちろん、同一の目的であっても、そこに至る道筋は多様にある。それぞれの地域の特性に応じ、あるいはそれぞれの首長の思いに応じ、様々だろう。そのとき、どの道筋を選ぶのかを決めるために必要なものがビジョンである。
自治体の目的はいずれも、地域に関わる人々の持続的な幸福であるとしても、その目的を実現するために必要な道筋は、それぞれの地域の特性を基礎とした自治体のビジョンによって異なる。そして、このビジョンは時機に応じて変化しうる。
提起された戦略において、なぜこの道筋、仮説をとるのかは、それぞれのビジョンによって説明されなければならない。このことは、ある施策について問うときには「その施策が、定量的なKPIの連携により成立する、どのようなビジョンに基づいたロジックモデルの【構成要素】になっているのか」を問う必要を示している。
シティプロモーションを成功たらしめる「ビジョン」はあるか
話をシティプロモーションに戻そう。シティプロモーションとは「地域を持続的に発展させるために、地域の魅力を創出して地域内外に効果的に訴求し、それにより人材・物財・資金・情報などの資源を地域内部で活用可能としていくこと」を意味する。
ここで最も必要な資源は人材であろう。モノ・カネ・情報を使いこなす存在がいなければ、まちは持続しない。しかし、このことは定住人口さえあればいいということを意味しない。地域のためにモノ・カネ・情報を使いこなす意欲がなければ、そこにある人口は、サービスを要求する顧客でしかない。そこに「担い手」は存在しない。
しかも、期待される担い手は、自治体のビジョンに共感する存在でなければならない。地域に関わる人々の持続的な幸福をどのように実現するのかへの共感を持たないまま、地域の担い手になることは困難だ。
そのためにも、シティプロモーションはビジョンをつくり出さなければならない。シティプロモーションについて問われるべきは、地域の魅力を個別的に訴求する方法にとどまってはならない。そのシティプロモーションと呼ばれる一連の施策によって、我々の地域の魅力をどのようにビジョンとして訴求し、共感を獲得するのかを問うことが期待される。我々は、他の地域と異なる、どのような差別的優位性に基づくビジョンを持って、人々が持続的に幸福になる地域を形成しようとするのかという思いが、その問いの背景にある。
シティプロモーションについて問うときは、何を行ったのかを問うだけでは不十分だ。そのシティプロモーションによって、どのようなビジョンをつくり出したのかを問うことが必要になる。
ビジョンに関わって差別的優位性と述べた。そして、差別的優位性に関わってブランドという考え方がある。シティプロモーションはブランドを構築するものということもできるだろう。ブランドはキャッチフレーズとロゴのことではない。我々の地域はどのような人が、どのようなライフスタイルを実現できる地域になろうとするのかを明らかにすることが、ブランドをつくり出すことであり、ビジョンを明確にすることになる。
そのシティプロモーションは、目指すべきライフスタイルとしてのブランドを構築しようとしているのか、あるいはすでに構築されているのか。そのシティプロモーションは、我々がロジックモデルを評価するためのビジョンを明らかにできているのか。
そうした問いとともに確認しなければならないことがある。シティプロモーションが、地域の顧客ではなく地域の担い手をつくり出しているのか、担い手となる意欲をつくり出しているのかである。シティプロモーションは、資源を獲得しなければ成功したとはいえない。たとえ自治体動画が10万回再生されたとしても、担い手となる意欲を地域内外に創出していなければ、シティプロモーションは成功ではない。