人口30万人を超える自治体前議会議員 木田弥
本特集のこれまでの記事などで、決算審査について理解が進んだことと思う。しかし、決算審査ばかりは、1回こなしてみないと具体的な様子がつかめない。そこで、新人議員に向けて、決算審査を議員として経験した立場から、決算審査に臨むための考え方や、決算書以外に使える具体的な道具とその利用法をご紹介したいと思う。
筆者は4期15年の地方議員歴で、これまでに4回、決算審査特別委員会の委員を経験している。1期につき1回のペースである。
また、筆者は、15年で1回だけであるが、決算を不認定とした経験がある。不認定の理由は、そもそも決算を審査した年度の予算を否決しており、否定した項目が執行されていたからだ。
一方で3回、議会選出監査委員(議選監査委員)として決算監査を行った。決算は、執行部で調製され、その後監査委員会に送られ、決算監査が実施される。監査委員の監査を経て、決算についての監査委員の意見を付して議会に上程される。つまり、決算を議会に上程する側の経験も3度あるということだ。この経験が筆者の決算審査力を大いに高めてくれた。詳細は、筆者の連載「議選監査のすゝめ」をご覧いただきたい。
決算審査力を高めるには、議選監査委員に就任することが最も早道ではあるが、新人議員には無理な話だ。そして残念なことに、議選監査委員は、地方議会では上がりポストとしての要素も強く、議選監査委員経験者が決算審査で「その経験を生かして大活躍」ということは、残念ながらあまりないようだ。
決算不認定を覚悟して審査に臨もう
過激な物言いで恐縮であるが、新人議員には、決算を不認定する覚悟で審査に臨むことを求めたい。特に、現状の市政や区政に対し、例えば「新庁舎建設に反対」や「待機児童の解消を」などと批判して当選した議員は、その批判した項目については、しつこく執行部に質問し、問題があれば不認定とする、あるいは附帯決議を付けるぐらいの覚悟が必要だ。
残念なことに、議員も期数を重ねてくると、決算審査に対する意欲が低下する傾向がある。意欲の低下の主たる要因は、決算審査が議員にとってうまみがないと思われているからだ。予算や条例であれば、否決や修正が可決すれば政策の変更が実現する。実現しなかったとしても、否決や修正を試みたことを議員活動レポートなどでアピールできる。ところが、決算を不認定としたところで、すでに執行済みの事業なので政策が覆ることはなく、インパクトが小さい。
決算の一部分が気に食わなくても全体を不認定とすることができる
江藤俊昭教授が本特集でも触れているように(2019年7月10日号)、地方自治法の改正により、議会が決算を不認定とした場合、長は不認定の原因となった事由について必要な措置を講じ、その内容を議会に報告することとなった。この法改正は、ある市長の独善的な市政運営の結果、改正されたと巷間(こうかん)いわれているが、その意味するところは、議会はもっと真剣に決算審査に向かうべきという国からのメッセージといえなくもない。法改正以後、神奈川県藤沢市では、平成29年度の一般会計と介護保険事業費特別会計が決算不認定となり、平成31年2月15日に藤沢市から議会へ措置について報告されている。詳細な内容は確認いただくとして、報告内容を見ると、決算不認定の原因となった不適正な事務執行に対する防止策が記述されている。
ここで、改めて認識してほしいのは、不適正な事務執行は決算全体の中では部分的なものであることだ。決算のある部分だけに問題があったとしても、議案として決算が上程されている以上、遠慮なく全体を不認定としてよいのだ。「決算の一部分に問題があるだけなのに、全体を不認定とするのはおかしい」という議員もいるが、予算の場合は修正議案の提出という手段があり、該当箇所のみの修正が可能である。しかし、決算に部分修正という概念はない。そのため、決算の一部が認定できない場合、全てを不認定とせざるをえないのだ。だからこそ、不認定とすることを躊躇(ちゅうちょ)しないことをお勧めする。そして、上記のようなことを先輩議員や同僚議員からいわれた場合は、藤沢市の例や、あるいはやはり平成29年度決算が不認定となった東京都小金井市の事例などを挙げるとよいだろう。
まずは前年度の決算審査議事録確認から
議会によっては、全員が決算に関わる委員会に属するケースもあるようだ。ある全員参加の議会では、会派ごとにその人数に応じて割当て時間が決まっているという。そうなると、よほど準備をしてかからないと執行部との満足なやりとりは、期待できそうもない。
さて、筆者の場合、決算特別委員会委員の当番が回ってくるのが4年に1回なので、どんな手順で決算審査を実施していたか、すっかり忘れてしまっていることが多かった。そこで、特別委員会開会までに、前年度の決算に関する委員会の議事録に目を通していた。同時に、決算に関わる委員会の委員長報告の議事録を確認した。こちらの方が、お勉強的な質問は報告から除かれるケースが多いので、より論点がはっきり見渡せた。
新人議員で初めて決算審査に臨む場合は、自分に関心のあるテーマについてどういった議論がなされているか、決算に関する委員会の議事録で確認するとよいだろう。ほとんど説明なしで数字しか羅列されていない決算書や分厚い事項別明細書にいきなり食らいつく前に、議事録を確認しておいた方が、方向性がつかみやすくなるはずだ。また、対象年度の予算に関する議事録も、余力があれば確認すべきだ。予算審査に当たっては、何が争点になっていたかをつかむことが重要だからである。
可能ならば、議会に提案される前の監査委員会の決算監査議事録を入手するとよい。しかし、この議事録の入手は、ハードルが少し高い。筆者は、決算特別委員会の全委員が決算監査議事録に目を通しておいた方がよいと考え、議会事務局を通じて資料を要求した。しかし、監査事務局からやんわり拒否された。仕方がないので、情報公開請求制度での公開を請求し、資料を全委員に配布した。原則、この方法を用いれば、新人議員でも議事録を入手することができるはずだ。理想は、こんな手間をかけなくても、議選監査委員が、決算審査に入るまでに監査委員会での議論の論点を報告することである。そうした事例もいくつか出てきているようだ。
同じ会派に議選監査委員がいれば、どんな項目が質問されたかだけではなく、監査委員向けの事務局作成資料などものぞき見することができる。厳密にいえば守秘義務があるので、おおっぴらに見せたり、コピーして渡すことなどははばかられる。守秘義務についてどう捉えるかについては、江藤先生はほとんど違法性がないという見解をお持ちのようだが、議会内では、そのことをネタに攻撃されたりするので、違法性の問題ではなく、議会内でのイザコザを避ける意味でも慎重であるべきだ。ただ、新人議員だけの会派や少数会派の場合は、現職の監査委員や監査委員経験者がいないことが多いので、情報公開請求制度に頼るほかない。
監査委員会の議事録のメリットは、質問内容を確認すると未執行の予算が発見しやすいことにある。我が市の場合、監査事務局が決算監査に当たって、監査委員向けに資料を作成するのだが、未執行予算をリストアップしてあるため、決算監査で未執行予算について監査委員が質問した場合、議事録に掲載され、それによって未執行予算の存在を確認できる。もちろん、後述するように、予算書と決算書を丁寧に見比べれば未執行予算を見つけることはできるのだが、分厚い資料をいちいち見比べるのは手間であるし、予算書の形式と決算書の形式が微妙に異なっていることもあり、見つけるのは骨が折れる作業である。
次に、同一年度の決算書と予算書を見比べよう
決算の議論がそれほど活発ではない、あるいは情報公開の体制が整っていない議会の場合、基本となるのが、同一年度の決算書と予算書を見比べることである。
この作業の第一の目的は、未執行予算を見つけることである。やみくもに最初の頁から最後まで見ていくと疲れてしまうので、まずは、それぞれの項ごとの不用額を確認しよう。不用額が発生していない項目は未執行予算がないので、確認しなくてよい。
項全体の金額に比べて、相対的に不用額が多い場合は、要注意である。あとは、細節番号が事業ごとに振られている場合は、細節番号を追っていくという方法もある。いずれにせよ手間がかかるが、頑張って探してほしい。予算の未執行というのは、執行部側にとっては議員が想像する以上に、重大な問題であると認識されている。できれば触れてほしくないのだ。わざわざ予算化したにもかかわらず未執行ということは、予算化の前提や調査が甘かったということでもあり、また予定していた補助が付かなかった可能性もある。何はなくとも未執行予算は議論の俎上(そじょう)に載せて、未執行となった理由を問いただすことが重要である。その理由があまりにずさんなものだった場合、不認定理由とすることが可能である。
続いて、予算に比べて実際の執行額が低い事業についても確認する必要がある。年度後半になり、予想に反して予算執行率が低くなることが予想された場合、何とか予算を消化しようとしたり、補正予算で減額修正をする、あるいは別の予算項目に流用するなど懸命に対応する。そのため、予算執行率が5割を切る事業というのは、なかなかお目にかかれない。筆者の経験では、景観条例に関わる予算執行率が5割を切っていた項目を見つけたことがある。その理由について質問した結果、次年度からは予算額そのものが大幅減額となった。決算審査を予算策定につなげる意味からいっても、未執行事業と予算消化率の低い事業は要チェックポイントである。
以上の2点に関連して注目すべきなのが、予算流用である。予算は、款・項・目・節と大項目から小項目に向かって分類されている。目・節間流用は原則認められているが、款・項間での流用は議会の承認事項となっている。流用は、必ず決算書に記載することになっており、流用元はマイナス表示、流用先はプラス表示で示されている。流用の項目を発見したら、流用元と流用先の使途と金額を必ず確認しよう。流用があるということは、流用元の予算消化率が低いことでもある。特に、同じ目・節間で流用が認められているとはいえ、例えば人件費を消耗品費に振り替えるなど、全く違う性質の予算への流用は、なぜ流用せざるをえなくなったのかを確認しておくべきだろう。
事務事業評価表を活用しよう
以上述べた点は予算の数値的な差異の分析、つまり定量的な評価である。当然、議会の決算審査は、予算で設定した当初の行政目的がどの程度達成されたかを審査することも重要である。いわば定性的な評価である。この点については、事務事業評価表や政策評価表などの行政評価に関連する文書を丁寧に見てみよう。これらの表には、成果指標として具体的な数値目標と、その目標が達成されなかった場合、達成されなかった担当部局の分析まで記述されている。定性的な評価は、事務事業評価表の様式が整い、扱っている範囲も広い自治体の場合は、各担当部局の自己評価を丹念に見ていくだけで、決算の問題とするべき項目が十分見えてくる。この際、担当部局の自己評価を鵜呑(うの)みにしてはならない。特にこだわっている事業については、他市事例なども調べて、達成できなかった理由についての自分なりの仮説を持って執行部と議論すべきであろう。ただ、決算審査は一般質問とは違うので、あまり深追いしたり、政策提案まで踏み込むことは避けた方がよい。
事務事業評価表は、事業についての評価なので、その事業が決算のどこに該当するかをひも付けるにはひと手間かかる場合もある。事業名と予算項目が一致していればよいのだが、実際には一つの事業に複数の予算項目がひも付いている場合、いったいどの項目で質問すればよいか悩むことになる。我が市の場合は、新規事業予算や重要事業予算については、事業名と事業に該当する予算をどの項目から引っ張ってきているかが分かる資料が、予算書の附属資料として執行部によって作成され提供される。しかし、そうした資料がない場合、事業と当該予算とのひも付けが分からないこともしばしばだ。そういった場合は、総括的な質問の時間で改めて確認するか、執行部に確認をしておく。会派の時間割当てがない議会では、各款の審査に入る前に、この事業は決算書のどこに対応するかを確認するというのも手である。
歳入こそ重要
経験上、多くの議員は、歳入部分への関心が低いようだ。しかし、筆者にとっては、歳入部分こそ、決算不認定の理由を発見できる可能性の高い宝の山である。ポイントは二つ。まずは税金に限らず保育園の利用料などの収納率をチェックすることだ。この場合、近隣他市区や財政規模が同規模の他市区のデータをあらかじめ確認しておこう。他市区と比べてあまりにも収納率が低い場合は、十分、決算不認定の理由となりえる。同時に、不納欠損額と件数もチェックしよう。不納欠損処理件数が多くなれば、収納率の分母が小さくなるので、見かけ上は収納率が高く見えることになる。直近3~5年の不納欠損の件数や金額の推移も確認しておこう。
次のポイントが、諸収入や雑入の項目だ。筆者の経験でいえば、ここに職員手当不正受給に対する返還金などが含まれていた。我が市の場合、諸収入の「その他」として処理されるので、積極的に説明されることはない。とにかく、諸収入に「その他」があり、かつ金額も相対的に大きいようであれば、「金額の大きい順に上位三つないし五つの項目と内容について説明いただきたい」といって追及してみよう。意外な内容が浮かび上がってくるかもしれない。
特別会計は、一般会計からの繰出し、一般会計への繰戻しを中心に確認しよう
一般会計は、それでも分かりやすい。厄介なのが特別会計である。例えば、国民健康保険特別会計や介護保険特別会計などは、制度そのものをしっかり理解しないと、読み解くのは難しい。後期高齢者医療特別会計は、ほとんど市区の裁量がないと考えていたので、筆者はノータッチであった。
介護保険制度を特に政策の中心に据えて議員活動を行いたいということなら、しっかりと勉強する必要があるとは思う。しかし、取り急ぎ見ておくべきは、一般会計から特別会計への繰出しや、逆に、特別会計から一般会計への繰戻しの部分である。特に、繰戻しには、何らかの課題が隠れている可能性がある。また、介護保険特別会計については、自治体の自由度が相当狭められているので、自治体の裁量が認められている部分を中心にチェックするとよいだろう。
以上、なるべく分かりやすくお伝えしたつもりであるが、やはり公会計は、日常使っている用語とはかけ離れていることも多く、とっつきにくいことこの上ない。今回お伝えした内容をお試しいただき、充実した決算審査を行っていただきたい。もちろん、決算審査の成果を予算審議にも十分生かしていただきたいことはいうまでもないが、今回は触れない。とにかく、納得がいかない決算であれば、遠慮なく不認定とする気構えで十分に準備をして、決算審査に臨んでください。