江東区福祉推進担当部長 武田正孝
決算は自治体の執行実績であり、通信簿といえる。その決算について、議会では審査を行い、認定・不認定を決めることになる。しかし、そもそも決算とは何なのか、決算からどのようなことが分かるのか、また決算審査における視点などについて整理してみたい。
1 決算とは
決算とは、歳入・歳出の執行の実績のことである。簡単にいえば、民間企業と同様に、歳入決算額が歳出決算額を上回れば黒字、反対であれば赤字となる。この決算により、自治体の財務状況が把握できるので、ある意味では自治体の通信簿ともいえる。
なお、予算は歳入歳出予算だけでなく、継続費、繰越明許費、債務負担行為などを含むが、決算は歳入歳出決算のみが対象となる(地方自治法施行令(以下「自治令」という)166条1項)。
また、決算額と対比するのは予算現額となり、これは、当初予算額に補正予算額、前年度からの繰越額、予備費、流用額を含むものである。予算現額に対する決算額が、歳入では収入率、歳出では執行率となる。
2 決算に関するスケジュール
決算に関するスケジュールは、おおむね以下のとおりとなる。
① 地方自治法(以下「自治法」という)233条1項には、「会計管理者は、毎会計年度、政令の定めるところにより、決算を調製し、出納の閉鎖後三箇月以内に、証書類その他政令で定める書類と併せて、普通地方公共団体の長に提出しなければならない」とある。つまり、会計管理者は6月1日から8月31日までに決算を調製し、長に提出する。決算を調製するのは、出納の権限を持つ会計管理者の役割となっている。
なお、決算書類とは、歳入歳出決算書、歳入歳出決算事項別明細書、実質収支に関する調書、財産に関する調書を指す(自治令166条2項)。
② 次に、長は、証書類等と併せて監査委員の審査に付す。監査委員は決算審査を行い、合議による決算審査意見書を長に提出することになる。
その後、長は議会での決算認定に付すため、決算書類、決算審査意見書、及び主要な施策の成果を説明する書類等を提出する。議会の認定については、次の通常予算を審議する会議までに行う必要がある。決算の審査に当たっては、予算の審査と同様に特別委員会が設置され、集中的に審議されることが多い。なお、議会で決算が認定されなくても、決算の効力には影響がない。
③ その後、長は決算を、議会の認定と監査委員の意見を併せて、総務大臣(市町村長は都道府県知事)に報告するとともに、決算の要領を住民に公表する。
3 決算に関する基本用語
(1)普通会計
普通会計とは、決算に用いられる会計区分で、すべての自治体で統一的に用いられるもの。各自治体の財政状況の把握、地方財政全体の分析等に用いられる統計上、観念上の会計で、総務省の定める基準により自治体の会計を統一的に再構成したものである。これにより、自治体間の比較が可能となる。対象となる会計は、一般会計を中心として、公営企業会計、準公営企業会計及び収益事業会計を除く特別会計となる。
予算では、何を一般会計とするか、何を特別会計(法律で定められているもの以外)とするかは、自治体の判断による。しかし、この決算では普通会計により、全国統一した会計区分となる。
このため、普通会計といっても、ある自治体では一般会計の一部だけが該当していても、他の自治体では一般会計と特別会計の一部を指していることがある。
(2)決算統計
決算統計とは、予算の執行を通じて、どのような行政運営を行ったのかを見る、自治体の決算に関する統計のことである。「地方自治法等の規定に基づく地方公共団体の報告に関する総理府令」(昭和28年)に基づく。毎年、総務省は地方財政状況調査(決算統計調査)を行い、この決算統計を集計したものが、最終的には「地方財政白書」となる。
主な内容は、以下のとおり。
(3)決算カード
決算カードとは、先の決算統計の主な指標や数値を一覧にしたもので、各自治体を1枚のカードにしたもの。総務省のホームページからその内容を確認することができる。
決算カードの主な内容は、以下のとおり。
◦人口、面積
◦産業構造(国勢調査結果)
◦収支状況
歳入総額、歳出総額、歳入歳出差引、翌年度に繰越すべき財源、実質収支、単年度収支、積立金等
◦一般職員等
一般職員、教育公務員、臨時職員の給料等
◦特別職の状況
定数、平均給料(報酬)月額等
◦歳入の状況
地方税、地方消費税交付金、地方交付税、分担金・負担金、使用料、手数料、国庫支出金、都道府県支出金、地方債等
◦市町村税の状況
普通税、目的税等
◦性質別歳出の状況
人件費、扶助費、公債費、物件費、維持補修費、繰出金、積立金、投資的経費等
◦目的別歳出の状況
議会費、総務費、民生費、衛生費、教育費等
◦経常収支比率
◦公営事業等への繰出
◦実質収支
◦健全化判断比率
◦積立金現在高
◦地方債現在高
(4)形式収支・実質収支・単年度収支
その年の決算が、黒字なのか赤字なのかを考える際に、歳入決算額と歳出決算額を比較することになるが、これについてはいくつかの見方がある。
① 形式収支
歳入決算総額から歳出決算総額を単純に引いたもの(歳入歳出差引額)を形式収支という。これは、出納閉鎖期日(5月31日)における当該年度中に収入された現金と支出された現金の差額で、現金主義における単純な差引収支となる。
形式収支が黒字の場合は、歳計剰余金(一会計年度における実際の収入額から実際の支出済額を差し引いた残額)を処分することになるが、赤字の場合は翌年度の歳入を繰上充用することになる。これは、出納整理期間において、歳出に対し歳入が不足しているため、支出義務を履行できないからである。
② 実質収支
実質収支とは、形式収支から翌年度に繰り越すべき財源を控除した額をいい、当該年度における実質的な収入と支出の差額を見るもの。
翌年度に繰り越すべき財源とは、自治法に基づくものと、決算状況調査による決算統計上のものの2種類がある。
自治法に基づくものとしては、継続費逓次繰越額、繰越明許費繰越額、事故繰越繰越額の三つの繰越財源(歳出予算の翌年度繰越額から、未収入だが翌年度に確実に収入が見込まれる国庫支出金、地方債などの未収入特定財源を差し引いたもの)となる。
決算統計上のものとしては、より実態に近い財政状況を知るため発生主義を徹底し、上記三つのほかに、事故繰越額と支払繰延額(当該年度に支出義務が発生している債務について、その支払を翌年度に繰り延べたもの)がある。
この実質収支は、自治体の実質的な黒字・赤字を示すので、自治体の財政運営を判断する重要なポイントとなる。もちろん黒字であることは重要だが、多ければ多いほどよいというものではなく、あまりに多いのであれば、行政サービスの向上や、住民負担の軽減に充てられるべきと考えられる。なお、一般的には、標準財政規模の3~5%程度が望ましい水準といわれている。
反対に、実質収支が赤字の場合で、一定限度を超えた場合には、地方債の発行が制限されることとなる。
③ 単年度収支
単年度収支とは、当該年度のみの収支結果を見るもので、当該年度の実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額をいう。実質収支は前年度以前からの収支の累積となっているので、当該年度のみの単年度の収支の状況を把握するためには、当該年度の実質収支から前年度の実質収支を差し引く必要がある。
単年度収支が黒字ということは、前年度の実質収支が黒字の自治体であれば、実質収支の黒字が増えたことを示す。反対に前年度の実質収支が赤字の自治体であれば、赤字が減少したことを示す。
また、単年度収支が赤字ということは、前年度の実質収支が黒字の自治体であれば、剰余金を使ってしまったということになり、反対に前年度の実質収支が赤字の自治体であれば、赤字が増加したことになる。