政策財務審議能力向上の道具
政策財務に議会がかかわるには、連続性、つまり議会からの政策サイクルの作動が重要であることを強調してきた。これを豊富化するための道具を開発したい。
① 総合計画を政策財務の起点に。決算(そして予算)を政策財務として捉えるがゆえに、決算と総合計画の連動が不可欠である。作文計画では意味がない。実効性ある総合計画の策定が前提である。実効性ある総合計画は予算と連動するものであり、それを評価する決算の軸となるものである。こうした視点からの決算である。なお、予算と連動する総合計画といっても、1対1対応ではない。首長提案の予算案の優先順位を明らかにさせることが必要である。それに基づき評価(決算)を行う。それが住民の意向に適合しているかの視点を常に持つことが「議会から」の政策財務の視点である。
② 有用な乗り物の発見と作動。決算常任委員会、及び予算常任委員会を設置する議会も増加してきた。特別委員会ではなく常任委員会である。また、決算と予算の連動を目的として予算決算常任委員会を設置する議会もある。地域経営の本丸にかかわるのだから、当然、常任委員会である。予算決算常任委員会の設置は重要であるが、議長を除く全議員を構成メンバーとする場合、決算審査に当たって議選監査委員は、質疑等はしないなどの特別な配慮が必要になる。すぐ後に指摘するように、議選監査委員には決算審査に当たって特別な役割を与えたい。なお、会津若松市議会では、決算にしろ予算にしろ論点を明確にするのはその常任委員会ではなく、準備会だった。筆者は常任委員会、そして分科会でもよいと思っているが、議会独自の発想で進めるとよい。なお、会派が決算審査や予算審査を主導していれば、議会としてのまとまりは希薄になる。常任委員会主導を実践する運営が必要である(7)。
③ 監査(議選監査委員)との連動。決算審査に当たって、代表監査委員を呼んで論点や課題を明確にすることは必要である。首長及び委員等の出席義務(自治法121)を活用すればよい。そのためには、議会として論点を明確にしておかなければならない。議選監査委員から論点を学ぶ研修を行ってもよい。守秘義務は確かにあるが、情報公開が前提となる地域経営において、プライバシーや政争の具となる事項以外はオープンでも構わない。議選監査委員と議会の連動を構築することである。
④ 専門的知見の活用。政策財務に強い議会をつくり出すには、体系的な研修を行うことである。同時に、全国的な視点から財政を分析し、当該自治体の財政を理解している識見を有する者を「専門的知見の活用」(自治法100の2)によって招へいすることもできる。会津若松市議会は、連続的に小西砂千夫関西学院大学教授と連携し、政策財務の研修を実践的に行っている。
⑤ 附帯決議・要望的意見の重要性。議案に対して、賛成はするが附帯決議や要望的意見を付すことはある。問題はあるが反対するほどのものではないといった立場からは消極的(やむなし)賛成もある。議論があった議案に対して、そのまま可決してしまえば首長は100%承認されたと理解する。そこで、議案に賛成したとしても何らかの意見を議会から首長に示していれば、首長は無視できない。その意見として附帯決議や要望的意見がある。議会としても、この附帯決議が今後の執行を監視する際の基準となる。会津若松市議会では、「各定例会、特に9月の決算審査と2月の予算審査の際には、原案に賛成であっても附帯意見や要望的意見が付されて可決されることが多く、これが政策提言の1つの形として執行機関に大きな影響を与え、政策の軌道修正や補足などにつながっている」(会津若松市議会 2019:105)(8)。
政策財務にかかわる議会からの政策サイクルにとって、それを充実させる道具の開発は行われている。これを有効に活用しながら政策財務にかかわってほしい。議会改革の第2ステージも、これにより大きな展開を遂げる。
(1) 政策財務とは、財務によって政策を実現する手法である。会計のレベルを超えた政策実現としての財務である。議会・議員にとって財務(主要には予算・決算)の権限は、条例などとともに監視・政策提言の重要な道具である。
(2) 「決算の『認定』にも『不認定』にも、議決の法的効果が生じるものではない」(松本 2017:895)。
(3) 「改正前においては、決算が議会で不認定になつても、長がそのことを踏まえた対応をしたかどうか、対応をしたとしたらどのような対応をしたかどうかということについて、長の説明責任はない」(松本 2017:895)。なお、地方公営企業の決算についても、同様に規定されている(地方公営企業法30⑧)。
(4) 筆者は、会津若松市議会の議会からの政策形成サイクルについて、次のような論評をしている(「議会基本条例を活用することで構築した新たな『政策形成サイクル』の運用」(第4回マニフェスト大賞最優秀成果賞))。
「従来の政策サイクルといえば、行政主導の政策サイクルがイメージされる。自治型社会の時代には、住民主導の二元代表制を作動させなければならない。会津若松市議会は、議会側からの政策サイクル(会津若松市議会の言葉では政策形成サイクル)を理論化し実践した。三重県議会の『新しい政策サイクル』をさらに発展させシステム化した意義は大きい。議会基本条例に明記した政策形成サイクルを軸にした議会側からの政策サイクルの理論化と実践である。水道事業の民営化問題(議員定数・報酬)をこのサイクルで実践し成果をあげている。これ自体は高く評価されるべきものだが、地域経営に根幹にかかわる総合計画等にも活用してほしい。また、意見交換会を住民からの聴取としても位置づけられている。意見交換会だけではない議会への住民からの提案の制度化も検討してよいだろう。」
(5) 会津若松市議会が本格的に政策財務にかかわるために飯田市議会に視察に行き熱き交流を深めたことについては、「議会改革リポート【変わるか!地方議会】さらなる高みを目指し、議会改革のトップランナーが意見交換──福島県会津若松市議会&長野県飯田市議会」ガバナンス2012年9月号がある。この紹介にはその場に同席した筆者のコメントも掲載されている。議会改革の次のステップ(議会改革の第2ステージ)を感じることができた一場面であった。
(6) 「議会改革リポート【変わるか!地方議会】常任委員会で現年度の施策・事業の評価を行い、市長に提言書を提出──静岡県藤枝市議会」ガバナンス2012年2月号。
(7) 岐阜県可児市議会の質問は、一般質問と委員会代表質問だけになっている。筆者は、政策に基づいた会派を強調しているために、そうした会派ならば会派代表質問は必要だと考えている。なお、会津若松市議会は、市民との意見交換会のように会派を超えた班(意見交換の際の議員の班)のかかわりや、委員会審議によって「会派は溶解する」とまでいっている。
(8) 議会基本条例施行以降の決議・要望的意見等(市の計画・事務事業等に関するもの)については、会津若松市議会 2019:237-240を参照。
〔参考文献〕
◇ 会津若松市議会(2010)『議会からの政策形成──議会基本条例で実現する市民参加型政策サイクル』ぎょうせい
◇ 会津若松市議会(2019)『議会改革への挑戦 会津若松市議会の軌跡──市民の意見を起点とし「課題解決」を図る議会へ』ぎょうせい
◇ 稲沢克祐(2015)「基礎自治体における財源減少時期の予算制度改革」日本地方自治学会編『基礎自治体と地方自治』敬文堂
◇ 江藤俊昭(2016)『議会改革の第2ステージ』ぎょうせい
◇ 江藤俊昭(2019)『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』公人の友社
◇ 松本英昭(2017)『新版 逐条地方自治法〈第9次改訂版〉』学陽書房