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特集 2019年統一地方選挙

2018.12.10 選挙

第24回 統一地方選挙を住民自治の進化に(下) ――マニフェスト選挙:再考――

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4 もう一歩の先に:マニフェストによる議会改革の進化

 マニフェストを議会改革のさらなる充実に活用する手法を考えたい。

(1)マニフェストの共有
 議会を討議空間として、また重要な議決をする機関として位置付けたい。議員や会派のマニフェストは、討議を巻き起こす素材である。選挙後には、議員や会派のマニフェストを議会として共通認識するために意見交換会・研修会を開催するとよい。そこには地域課題が散りばめられている。自らのマニフェストを豊富化するためにも、また新たな政策のためにも、他の議員や会派が提起したマニフェストをも活用すべきである。
 無投票当選による議会では、選挙公報も刊行されない。しかし、議員や会派のマニフェスト(選挙がないのでマニフェストらしきもの)を臨時議会だよりに掲載するとともに、こうした意見交換会・研修会は不可欠である。
 意見交換会・研修会は、公開すれば住民にもそのマニフェストの内容が伝わり、応援・支持を得るため、また監視のためのツールとなる。

(2)マニフェストと質問との連動
 マニフェストが明確ならば、質問(一般質問・会派代表質問)に際して、マニフェストとの関連を宣言することで執行部や住民にも背景が理解でき、質問内容が明確になる。筆者は、マニフェストには、総合計画への評価が組み込まれるべきであると提案してきた。そうすることで、マニフェストと総合計画とを関連付けた質問はより説得的なものとなる。もちろん、マニフェストに明記されていない総合計画等に関する質問は可能であり重要であるが、マニフェストとの関連を示唆するとよい。

(3)住民参加との連動
 犬山市議会が市民フリースピーチ制度を採用し(2018年に3回開催)、住民の意見を議会審議に生かしている。公募市民が議場で市政に関する提案を行い、それを市民からの提案として議会審議に生かすというものである。議場が開放され、発言する市民は主権者そのものとして登場した。また、一方的な提案ではなく、提案後に議員からの質問を受ける。そうした議員と市民のキャッチボールによって、提案はより明確になった。その提案を受けた議会は同じ会期中に開催される全員協議会における議員間討議によって、その後の対応を議論する(全員協議会とは異なる性格を有するため政策討論会等の名称が妥当であろう)。その提案を委員会所管事務調査とする場合、一般質問の素材にする担当を決めている。市民が議会のシンクタンクとして位置付けられる。
 このフリースピーチによって、一般質問の意味転換を行ったと筆者は考えている。「最もはなやかで意義ある場」といわれる一般質問だが、あくまで個人の提言である。議員間討議を軸に、市民の政策提言を精査し、委員会の所管事務調査とするもの、及び一般質問の担当者を決める。一般質問の担当者は、そのテーマに日頃から関心がある議員である。マニフェストが共有されることによって、より担当者は明確になる。そして、フリースピーチを活用することによって、深い質問が可能となる。こうしてマニフェストはより豊富化される。
 一般質問は個人から議会の質問へと転換する。一般質問の反省会を行い、追跡調査を行う議会、所管事務調査のテーマとする議会も増加してきた。また、委員会代表質問を採用している議会もある(岐阜県可児市議会)。一般質問を「議会の代表質問」にした。議会運営の大きな展開である。

☆キーワード☆

【新シビル・ミニマムの射程】

① 討議(熟議)によって設定される公準
 シビル・ミニマムは、都市型社会における「市民生活基準」である。市民の生活権であり、自治体の政策公準である。社会保障・社会資本・社会保険の総合システムとして数量的に指数化される。これは、自然科学的に設定されるものではない。市民(住民)参加と熟議(住民間、住民・議会・首長間)によって設定されるものである。「公共部門の総合化を可能にし、しかも市民の間の自発的な討議や審議や参加を機軸として下からの政策形成の可能性を切り拓いた」(千葉 1995:179)(3)。まさに、住民が政治・行政に参加し討議空間を創出するプロセスが重要となる。新シビル・ミニマムも同様に、住民参加と討議によって設定される公準である。
 なお、「政治や行政における社会工学的発想を重視する論点がみられるが、それは市民の協働に基づく手づくりの地域民主主義の議論とは両立しがたいのではないか」といった指摘もある(千葉 1995:180)。とはいえ、市民参加を強調する松下圭一にとっては、実践的にはいわゆる「革新官僚」に期待を寄せていたと思われるが、テクノクラートによる支配(テクノクラシー)とは異質なものである。

② 新シビル・ミニマムの要素
 新シビル・ミニマムも、すでに指摘したシビル・ミニマムの3つの要素によって構成される。とはいえ、シビル・ミニマムの設定の時代とは異なる環境を意識することが不可欠である。
 1つは、縮小社会の環境である。拡大志向から縮小志向への転換であり、その環境でのミニマムを探ることである。
 もう1つは、公共サービス供給主体の多様性の環境である。当該自治体はもとより、住民参加・協働により住民、NPO等、企業がかかわる。また、自治体間連携も重要な供給主体となる(市町村間連携、都道府県による補完)。
*人口増、豊富な自治体職員を念頭に置いて「サービス水準を政策の出発点にして政策革新を進める」時代から、「自治体職員の仕事の総量に限界があるという点を制度の出発点にする」時代への変化を読み取る指摘と親和性がある(牧原 2018)。前者は、シビル・ミニマムと重なる。後者は、政府業務の総量という意味で「ガバメント・マキシマム」を志向するが、これは自治体職員が減れば、「ガバメント・マキシマムは減る」。とはいえ、自治体間連携や住民参加・協働により「ガバメント・マキシマムを上回るサービスが可能となる」。「これを地域ガバナンスによる行政サービスの水準という意味で、『ガバナンス・マキシマム』」と呼んでいる(4)。
 こうした議論との親和性はあるが、本連載で新シビル・ミニマムとして提案するのは、シビル・ミニマム「達成後」の変化を視野に入れたいためである(民間活力の導入、それによる政治的無関心の増加)。また、サービス供給の主体だけではなく、〈住民参加と討議による公準〉を強調したいためである。

③ 新シビル・ミニマム設定における議会の役割
 以上の2つのことを考慮すれば、新シビル・ミニマムの設定に当たって議会は重要な役割を果たすことが理解できるであろう。
 1つは、新シビル・ミニマムは「住民参加と討議による公準」であるがゆえに、住民間での討議が不可欠ではあるが、同時に「公開と討議」を存在意義とする議会は、まさにこれを担うことになる。もちろん、議会は住民間の討議を巻き起こす制度設計にもかかわる必要がある。
 もう1つは、縮小社会の公準であるがゆえに議会・議員は、拡大志向の「口利き」ではなく、縮小社会の口利き、いわば「逆口利き」を担う。つまり、現状を住民に説明して討議し、合意を勝ち取る役割である。
 合議体の議会、「公開と討議」の議会は、新シビル・ミニマムの設定と実践にとって重要な役割を担う。

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