2017.05.25 議会改革
第24回 可決される条例案をつくろう!
議会事務局実務研究会 林敏之
自治体議員の皆様、こんにちは。今回は議員が提案する政策条例の制定手法についてお届けします。実際に条例をつくるに当たり、どのように進めていけばよいのか、お悩みの解決の一助になれば幸いです。
どうすれば可決される条例案を出せるの?

全国市議会議長会によると平成27年中の議員提出の政策条例案は65市で95件あり、原案可決が42件、否決が46件でした。いわゆる野党会派が首長の施策に反する条例案を提出することが多いため、思ったより否決の数が多いかもしれません。否決される可能性が高い条例案であっても、毎定例会に提出することにより会派の姿勢を示すということは理解できますが、せっかく苦労して条例案を提出するのですから、できれば可決されるようにしたいものです。
では、可決される条例案づくりについてですが、複数の会派の議員が提出者になっている条例案は可決される可能性が高いといえます。例えば、和歌山市議会では全会派の代表者からなる政策条例策定協議会を立ち上げ、平成25年2月に「和歌山市みんなでとりくむ災害対策基本条例」を、平成26年12月に「和歌山市みんなでとりくむ生き活き健康づくり条例」を制定しています。可決される条例案づくりには議会としてのまとまりが不可欠です。各議会で政策条例の研究会などにより提案されている条例案は、その多くが可決・制定されています。議会による継続的な条例案提出を念頭に入れるならば、そのような「場」の設定が必要です。議会がそんな雰囲気になっていないときはどうすればよいのでしょうか。もしも議会基本条例が制定されているならば、政策提案を行うという条文を盾に場をつくってしまう方法が手っ取り早いかと思います。あるいは議員研修として、議会改革に精通した講師にお願いし、講演の中でうまく誘導してもらうのも一定の効果が見込めると思います。
慣れない条例案づくりは、最初は難航するものです。そこで、議員提出議案のサポート経験がある有識者を交えて行うと、比較的スムーズに案づくりが進みます。その後、多くの議会ではパブリックコメントを経て条例案を提出しています。議会におけるパブリックコメントについては「市民の代表としての議員の意見が市民の声なのだから、必要ない」との否定的な意見もありますが、市民との意見交換を行って内容を整理し、さらに議会で審議した方が、より密度の濃い議論ができるのではないかと考えます。
うちの議会ではつくれないと思うのですが?

議員提出の政策条例を制定したことがない議会では、そのハードルは富士山よりも高く、着地点が全く見えないと思います。いざ、条例案の検討を始めても、同じ会派内においてすら意見がなかなかまとまらず、前に進まなくなることはしょっちゅうです。それまで条例案なんてつくらなくても長く務めてきた議員から見ると、わざわざ多大な労力を用いてそんなことをする必要性を感じられないかもしれません。そのため、いわゆる長老議員が強力なストッパーとなって立ちはだかるという図式が往々にして見られます。ある議会では、全会派の有志からなる議会改革の検討会が立ち上がり、熱心に検討した結果をまとめた改革案を議長に提出したのですが、検討会のメンバーではない長老議員から「待った」がかかりお蔵入りとなってしまいました。検討会メンバーの落胆ぶりは想像に難くありません。なお、後日談としてその数年後、待ったをかけた長老議員を委員長とする議会改革の特別委員会が立ち上がり、検討会のメンバーが提出した改革案を多く含んだ議会基本条例が成立するという結末となったようです。いうまでもなく議会というのは議員の集合体ですので、各議員の意向を忖度(そんたく)し、タイミングを計るという政治的なセンスを発揮する必要が出てきます。
タイミングを計る方法としては、先に述べたように議員研修会で政策条例案づくりにたけた有識者に講師として来てもらう方法が一番だと思います。実際に条例案づくりをしている人の話は説得力があり、また自分たちにもできるような気にさせてもらえます。流れに乗る方法としては、議会基本条例を制定して気分がよくなっているときや、流行の条例に乗っかるのもひとつの方法です。流行の条例は参考にできる条文が多くあるため、イメージがつきやすく取り組みやすいと思います。一度条例案づくりを経験すると、富士山のように見えたハードルがケーブルカーで登れる高尾山のように見えてくるから不思議です。これは議員だけではなくフォローする事務局職員にもいえることですが。