単身化する社会を前に自治体は何をするべきか
(1)壮年期の単身化への認識を高める
単身化する新宿区の影、又はリスクを軽視することはできない。これまで家族は人々の暮らしのセーフティ・ネットとして機能してきた。複数のメンバーで構成される家族・世帯の場合、住宅と家計の共用に始まり、子どもや看護や介護の必要なメンバーの世話を、何らかの役割分担によって遂行してきた。このような体制が、家族内外の環境条件の変化に伴って変容を遂げてきたのは全国共通であるが、2000年代に入ると一気に単身者の増加を含む家族の多様化が進んだ。新宿区はそのような動向の先頭集団にある。将来、男女を問わず非婚単身者がさらに増加すれば、現在以上に身寄りの少ない高齢者が増えることが予想される。しかも、低所得者が多くなることも予想される。行政としては、壮年期の段階で社会関係の希薄な生活困窮者を増加させない取組を進める必要がある。2015年度に始まった生活困窮者自立支援制度をはじめとする諸施策は、このことを十分念頭に置く必要がある。
家族の変容に対応して、暮らしの器である住宅の多様化を進める必要もある。特に、標準世帯を前提にした持ち家政策では、住宅保障からこぼれる人々が増加する。民間賃貸住宅に住む単身者は、年齢とともに家賃を払えなくなることや、契約更新時に保証人がいないこと、単身高齢者の入居拒否を恐れている人が多い。公営住宅を希望する例は多い。障がい者や認知症高齢者の共同生活の場であるグループホーム、高齢者などのコレクティブ・ハウスやグループリビング、シェアハウスなど、家族に代わる多様な集団が登場しているが、新宿においても住宅問題は大きなテーマといえるだろう。
若年層から高齢層まで、単身で暮らす人々が増加する中で、従来家族の中で調達できた対人ケアは、ますます得難いものになりつつあるが、失われた家族機能を商品として購入すること(家族機能の市場化)が解決の方向であれば、それについていける人々には限りがあり、ついていけない人々の問題が深刻になるだろう。
多くの先進工業国では、グローバル化の下で企業が柔軟な労働力を強く求めていることに配慮しながら労働者の生活をどのようにして安定させるか、また、失業時の所得喪失を補いながら、いかにして失業者を労働市場に復帰させるかという、両立の難しい課題への模索が続いている。日本も例外ではない。多様化する家族を前提に、女性に対しては就労による経済的自立を推進するための教育、職業訓練、多様で適正な労働時間や休暇制度、保育サービスの拡充を、重要な政策の柱に据える必要がある。男性に対しては就労支援と同時に社会関係をつくるための様々な取組が必要だろう。
新宿区の人口は移動性が激しいため、結婚に至る出会いの機会に恵まれない面がある。また、単身者が多いために結婚しようという動機づけが起こりにくいなどの環境が、壮年期の非婚化を加速させ、将来の単身高齢者を生み出しやすくしていることに留意する必要がある。単身者のニーズをくみ取る行政サービスの展開が必要であろう。
(2)大都市の利点を伸ばす
新宿区には都心に特有な職業として、IT系・情報系・ベンチャー系企業に勤務する人々や、専門的技術を有するフリーランスや経営者の人々がいる。これらの人々は仕事中心、長時間変則勤務、多様なネットワークを持つなどの特徴があり、高所得者から不安定所得者まで幅は広い。これらの人々を既存の地域社会に組み入れるという方向性だけではなく、その潜在能力を発揮しやすい仕組みや仕掛けを考えるという方向性も今後は検討していく必要がある。
その一方で、壮年後期になると、仕事と収入の不安定さや健康上の問題を抱え、社会関係も弱く、高齢期の不安を抱える例が増えてくることに留意する必要がある。移動性が激しいために結婚に至る出会いの機会に恵まれないことや、単身者が多いために結婚しようという動機づけが起こりにくいなどの環境は、壮年期の非婚化を加速させ、将来の単身高齢者を生み出しやすくしていることに留意する必要がある。
移動が激しいとはいえ、常に一定の若年人口が居住しているという点で大都市圏は特別である。若年人口の循環は年齢構造の変化を比較的緩やかにしており、同時に多様性と独創性にあふれた活気あるまちづくりにつながる要素でもある。このような大都市圏に特有な好条件を有効に生かす施策も求められる。
(関連資料)
・新宿区新宿自治創造研究所「研究所レポート2013 No.3〈新宿区の単身世帯の特徴─壮年期を中心として─〉」(2014年)
・同「研究所レポート2014 No.2〈新宿区の単身世帯の特徴(2)─単身世帯意識調査結果から─〉」(2015年)
・同「研究所レポート2015 No.1〈新宿区の単身世帯の特徴(3)─壮年期・高齢期の生活像─〉」(2016年)