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2016.05.25 政策研究

第1回 新宿区客引き防止条例の改正~条例の実効性確保とその法的検討~

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(4)過料の選択及び立入調査権の行使
 過料は、平成11年の地方自治法改正による同法14条3項に基づく行政上の秩序罰である。過料は、罰金や科料などの刑罰と異なり、刑法及び刑事訴訟法が適用されず、刑事手続によらずに地方公共団体の長の判断で科すことができる(同法255条の3)。また、違反者が任意に支払わない場合には、地方税の滞納処分の例によって強制徴収することができるなど、「使い勝手のよい」罰則である。
 ただし、強制徴収する費用が過料額(最高5万円)を大きく上回ると予想されるため、最終的な実効性には疑問が残る。
 これらの処分を事実認定の側面から担保する仕組みとして、改正条例は立入調査権限を区長に付与した。区によれば、実際に立入調査等を担当する職員は、警視庁からの出向者である職員2名と警察OBの職員の計3名であり、警察と連携しつつ行うとのことである。
 犯罪捜査の経験を持つ警察出身者に調査等を担当させることは、効率的な調査の観点からは意義のあることである。他方で、令状主義(憲法35条)及び黙秘権の保障(憲法38条)が行政調査にも及ぶと解されていること(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(川崎民商事件)参照)に照らせば、身分証明書の携帯提示義務規定(改正後条例13条2項)や、立入調査等の権限を犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとの規定(同条3項)を設けたことは当然である。罰則として刑罰である罰金ではなく過料を選択したことも、罰金としてしまうと、立入調査権限の行使が刑事責任追及を目的とする手続になってしまうことに配慮したものであると思われる。
 ただ、条例において、立入調査等の権限を犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとの規定を設けたとしても、実際の調査等が直接的・物理的な強制と同視すべき程度に強引な場合には、令状主義(憲法35条)や黙秘権の保障(憲法38条)との関係で問題となりうるので(前述の最高裁判例参照)、担当者が調査業務を行う際のガイドラインを設ける等の工夫が必要とも思われる。

(5)店舗場所提供者に対する支援
 改正後条例のもうひとつの目玉は、店舗場所提供者との協力(改正後条例15条〜17条)である。区によれば、この部分は、いくつかの自治体における薬物の濫用防止に関する条例や「東京都安全・安心まちづくり条例」の例を参考にしたようである。
 しかし、店舗場所提供者との協力のうち、①賃貸借契約等に解除条項を定め、さらに、②実際に違反行為がなされたときに当該契約の解除及び建物の明渡しの申入れをすることについては、個別の建物賃貸人(転貸人)において対応することは容易ではない。
 このため、新宿区では、公益社団法人東京都宅地建物取引業協会新宿区支部及び公益社団法人全日本不動産協会東京都本部新宿支部との間で協定を結び、その実効性を確保しようとしている。
 ただし、賃貸借契約の解除については、判例上、「賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意」(最判昭和39年7月28日民集18巻6号1220頁参照)が要求されるなど、相当制限的に解されていることに照らせば、客引き防止条例違反を理由に、賃貸借契約を解除し、建物の明渡しを求めることが法的に可能であるか、賃貸人(転貸人)側の判断に不安が残るケースもあると思われる。
 このような場合、上記協定を結んだ不動産業者の団体においてどこまで対応が可能であるのか、また行政として法的側面に対する支援(法律相談等)ができないか、検討する必要があると思われる。

7 おわりに

 これまで述べてきたとおり、改正条例により、新宿区の一部地域における客引き行為等については、従前と比較して相当程度踏み込んだ対応が可能になった。
 ただし、条例自体により客引き行為等が下火になると楽観視することはできず、新宿区がこれをどこまで有効かつ適切に活用することができるか、今後の動向に注目していきたい。

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