Ⅱ 成立までの経緯
「Ⅰ 改正の背景」のような状況を受けて、国政選挙の選挙権を有しているにもかかわらず選挙人名簿に登録されないために国政選挙の投票をすることができない者が投票することができるようにするための方策について検討が進められ、平成27年5月27日に自由民主党、公明党、次世代の党(当時)及び野間健議員の共同で公職選挙法改正案が衆議院に提出されたが、第189回国会では審議がされないまま、継続審議となっていた。
その後、第190回国会に入り、再び改正案の成立に向けた機運が高まり、本年1月20日に衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員長提案の議案として衆議院に提出された(第189回国会に提出されていた法案は、委員長提案に伴い撤回された)。この法案は、1月20日に衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会で可決、同月21日に衆議院本会議で可決・参議院に送付され、同月26日に参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会で可決、同月27日に参議院本会議で可決・成立し、2月3日に「公職選挙法の一部を改正する法律」(平成28年法律第8号。以下「本法」という)として公布された。
Ⅲ 法律の概要、施行期日等
1 選挙人名簿の登録及び表示関係
(1) 一定の者に係る選挙人名簿の登録関係(新21条2項)
本法は、選挙人名簿の登録について、現行法上登録されることとなる者のほか、市町村の区域内から住所を移した年齢満18年以上の日本国民のうち、その者に係る登録市町村等の住民票が作成された日から引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されていた者であって、登録市町村等の区域内に住所を有しなくなった日後4箇月を経過しないものについても、旧住所地において登録を行うこととしている。
(2) (1)の者に係る選挙人名簿の表示関係(新27条2項)
また、市町村の選挙管理委員会は、(1)の者を選挙人名簿に登録する際には、同時に、選挙人名簿にその旨を表示しなければならないこととしている。これは、(1)の者は既に旧住所地から転出している者であり、この者について現行の公職選挙法(以下「公選法」という)27条1項と類似の措置を講ずることとするものである。
2 同一都道府県の他の市町村に転出した一定の者に係る選挙権のみなし規定関係(新9条6項)
本法では、日本国民たる年齢満18年の者で、現に住所を有する市町村を包括する都道府県の区域内の他の市町村の区域内に引き続き3箇月以上住所を有し、かつ、当該他の市町村の区域内から引き続き現に住所を有する市町村の区域内に住所を移したもののうち、当該市町村の区域内に引き続き住所を有する期間が3箇月に満たないものについては、当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を有するものとみなすこととしている。
地方選挙の選挙権については、国政選挙と異なり、日本国民であること及び年齢要件を満たしていることのほか、引き続き3箇月以上市町村の区域内に居住していること、という、いわゆる「3箇月居住要件」が設けられている(公選法9条2項)。この規定に従えば、例えばX県Y市に3箇月以上居住し、X県Z市に転出したCは、Z市において引き続き3箇月以上居住しなければ、Z市及びX県の選挙の選挙権を有しないこととなる。しかし、都道府県の選挙の選挙権については、特例的に、都道府県の選挙権を有する者で引き続き同一都道府県内の他の市町村に住所を移した者は、当該都道府県の選挙の選挙権を有することとされている(公選法9条4項)。したがって、この規定により、前述のCはX県の選挙の選挙権は有することとなる。
しかし、この公選法9条4項の規定は、あくまでも転出前に旧住所地で地方選挙の選挙権を有していた者に適用されるものであり、転出前に選挙権年齢に達していなかった者は選挙権を有していないので、この者については適用されない。そこで、本法では、そうした者についても都道府県の選挙の選挙権を有するものとみなすこととしている。なお、この場合も、まず転出前の旧住所地において選挙人名簿に登録されることとなるので、都道府県議会の議員の選挙においてその者が属する選挙区は、転出前の旧住所地の選挙区となる。
3 施行期日等
(1) 施行期日(附則1条)
本法は、公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)の施行の日から施行することとしている。
この「公職選挙法等の一部を改正する法律」は、選挙権年齢を現行の「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる、いわゆる「18歳選挙権実施法」のことであり、その施行日である本年6月19日から、本法も同時に施行される。
(2)適用区分
① 選挙人名簿の登録への適用(附則2条2項)
選挙人名簿の登録及び表示関係の規定は、施行日後初めてその期日を公示される国政選挙(衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙)に係る選挙時登録から適用することとしている。
したがって、今夏の参議院議員通常選挙の公示日が本年6月19日後である場合には、本法は今夏の参院選に係る選挙時登録から適用されることとなるが、公示日が6月19日以前である場合には、今夏の参院選に係る選挙時登録には適用されないこととなる。
② 都道府県の選挙の選挙権のみなし規定の適用(附則2条1項)
同一都道府県の他の市町村に転出した一定の者に係る選挙権のみなし規定は、施行日後初めてその期日を公示される国政選挙の期日の公示の日以後にその期日を告示される都道府県議会の議員又は長の選挙について適用することとしている。